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第四話 誘拐

 リュウは広平と別れて1人で寮までの帰り道を歩いていた。寮は学園の敷地内に建っている。しかし、その学園の敷地と言うのがとても広大であり、校舎や校庭、教官宿舎等が建つ校舎区画から、生徒寮や売店等が立ち並ぶ生活区画までの距離はかなり長く、2区間の間はバスが通っている程である。校舎区画は一区、生活区画は二区と呼ばれていて、その二区間の間はとても幅の広い舗装された道路が一本森の中に通っている。バスは一日の間何回もこの道を往復している。周囲はとても深い森で中には舗装はされてないものの綺麗な歩道も通っていて、池や自然の沼もあり、とても自然豊かなのだが、広すぎて毎年興味本位で中に入った新入生の道迷い遭難が度々起きている。その、一区でも二区でも無い森林区画は第三区と呼ばれている。

 リュウは敢えてバスに乗らずに広い道路の端を歩いていた。リュウの心持ちは穏やかではなく、じっと座ってバスにのんびり揺られては居られなかった。早足で歩いて、悶々とする思いをはぐらかしたかった。しかし、歩きだしてから小一時間経った今、リュウはその選択を悔いていた。この長い道のりを歩く事に辟易としていた。バス乗り場は一区と二区の一箇所ずつのみで、第三区を通るこの道沿いにはバス停などは無い。第三区で降りる必要が殆ど無いからだ。この道沿いでは途中下車も乗車も出来ない。リュウを追い抜いていくバスに乗っている生徒はリュウを怪訝な目で見ているし、リュウも彼らを見て少し恨めしく思った。

 足を引き摺るように重々と歩きながら、制服の胸ポケットに雑に突っ込んでいた一枚の紙切れと名刺程の大きさの学生証を取り出した。学生証にはリュウの顔写真と学年と所属教室番号、それに所属寮番号が記載あり、リュウは今日入寮予定の寮番号を見た。そこにはE5と記載してあった。胸ポケットから取り出したもう一つの紙切れは学園敷地内の簡単な地図だった。リュウは地図上にE5の場所を探していた。歩きながら地図をなぞる様に眺めていたリュウの足元が突然眩く光った。

 リュウの足元で輝く青い光はとても眩しくてリュウは目を開けて居られずに目を細めた。その青白い光の中に突如として魔方陣が浮かび上がった。リュウの身体が危機に反応して、魔方陣の範囲内から飛び退き離脱しようと足に力を込めるものの間に合わず、光は強く輝き、リュウは全身をその青い光に包まれた。ぱっと光が弾ける様に消えた時にはリュウの姿もこの第三区主道の上から消えた。

 眩い光が消えてようやくリュウが目を開けると、そこは先程までの寮までの道の上ではなくて、見覚えの無いとても大きな広場にリュウは立っていた。

 どこだここは……さっきの光は誰かの魔術か、いったい誰が……。と、思考を逡巡とさせているリュウの眼の前に再び先程の青白い魔方陣が出現した。リュウは警戒し、身構えた。すると、魔方陣から見覚えのある2人の女の子が現れた。

「お前たちはタツとドライだったか、驚いたな……これはどういう魔術だ、見たことが無い」と、警戒しているとわざと悟らせる様に、途切れ途切れのぎこち無い言葉を投げかけるリュウ。

「あら、私の名前覚えてくれていたのね、ありがとう。それよりも全然動揺してないのね、あなた意外と冷静じゃない」と、戯けて言うタツ。

「冷静なもんか、大いに驚いている。この魔術が転移の術だとしたら、お前たちは失われた魔術を使っている事になるからな。この魔術は何だ。タツ、お前の術か?」

「違うわ」と、言ったタツの隣のドライが口を開いた。

「詳しくは説明出来ませんが私の魔術です。あなたと手合わせしたくて少々強引ですが、あなたに対して魔術を行使しました」と、ドライが淡々と言った。

「俺と戦いたいって事か?」と、疑問を問いかけるリュウ。

「レックの眼は誤魔化せても私は誤魔化せないわよ、あなたの魔力の揺らぎ方は明らかにおかしい。あなたの魔力の揺らぎには一点の淀みがない。あなたの身体から立ち上る魔力の流れは恐ろしく奇麗な流れ方をしている。そういう奴は昔から凄く強いのよ、あなたの力に興味があるわ」と、タツは少し興奮気味である。

「買いかぶりすぎだ」と、リュウは吐き捨てるように言った。リュウの態度を嘲笑う様にドライが口を開いた。

「いいえ、それは違うでしょう? あなたはこの状況で冷静すぎる。普通の人間はいきなり魔術で知らない場所に誘拐されたら少しは動揺する。あなたは少しもそんな気配が無い。普通ではないよ、やはり私の予感はあたっていた」と、少し冷たく厳しい態度でそう言うと、タツに目配せをした。すると、タツは頷いて

「ええ、そうねドライ。……魔力の流れは感情に敏感に反応する物だけれども、リュウ、あなたの魔力はここに来てからというもの一切変化が無いわ。歴戦の猛者でもあなた程に魔力の流れを制御出来ないわ。あなたやっぱり普通じゃない。覚悟を決めて構えなさいリュウ、多少暴力的かもしれないけれど、あなたの実力見極めさせてもらうわ」と、タツは右足を後ろに引いてリュウに半身をむけ腰を落とし、拳を構えた。

「仕方ないな……」と、少し気怠そうに言うリュウ。

 リュウが右手を前の方に突き出すと手首に巻いていた組紐が光った。その光った手首の飾り物は解けて宙に浮き、次第に形を変えて杖となりリュウの手に収まった。

「変わった杖じゃない。腕輪に擬態させているなんてね、やっぱりリュウ、あなた変わっているわ」と、タツはリュウに声をかけた。

「形見なんだ。そして、杖じゃないよこいつは」と、リュウが言うと、杖が光を帯びて形を変え、終には一振りの刀へと姿を変えた。リュウは刀を鞘から抜いて鞘を地面に丁寧に置いて、両手で刀を構えて抜き身の切先をタツの方へ向けた。

「ますます面白いわ、それがあなたの武器ってことね、戦う気になってくれて嬉しいわあ」と、タツは興奮して意気揚々と、可愛げのある声ではしゃぐように言った。

「仕方ないだろ、お前がやる気満々なんだから」と淡々と冷たい口調で言った。切先は揺らぐ事なく静かにタツの方へ向けられたままだ。

「ドライ、あんたは見てるだけね」と、タツに言われてドライは黙って頷いた。

 両者は睨み合うだけで一向に戦いが動く気配が無い。

「先に聞いておきたい」

「いいわ、何が知りたい?」

「ここはどこだ。普通の場所じゃないよな、俺をここに無理やり連れてきた魔術は転移魔術か?」と、リュウは切先をタツに向けたまま言葉を発した。リュウはこの空間に来た時から違和感を感じていた。まず、先程まで茹だる程に燦々と輝いていた太陽は消えていて、空が暗かった。暗い空には星も月も無く、奥行きが見えない程に広く深い紺色をしていたが、空間自体の視界は驚くほどに鮮明に物を見ることができる。夜の様に暗い世界なのに視界を遮る闇は無く、昼間の靄も無く、良く目が効いいて視界良好。そんな何も不純物の無い空間だが、立っている地面は土なのが不気味だった。そんな空間をリュウは怪訝に思ったのだ。

「いいえ、転移なんて、そんな難しい魔術は私達には使えないわ。あなたを攫ったのはドライの魔術よ。この空間は簡単に言うと仮想空間で、実在しない空間なの」

「実在しないってどういう意味だ?」

「そのままの意味よ。ここはドライの思念の中なのよ、つまりドライの空想の世界の中。ドライが幾つも持っている仮想世界の中の一つ。その中にあなたを連れ込んだのよ。あなたの足元にここに通じる入口を作ったの、落とし穴に落とされたとでも思って頂戴。現実の世界同士を繋げる転移とは根本的に違うのよ」

「そうか」と、リュウが呟いたのを最後に、また静かな緊張した空気がが2人の間に流れ始め、次第にぴんと張った糸の様な空気感に変わり始め、2人は間合いを取りながら睨み合った。

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