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第二十九話 姉妹の想い

 かちゃり、かちゃりと、食事の動作に合わせて食器が音を立てている。

 レックとドライは学園長の話を聞いた後に建物を追い出される様に外に出されて、そのまま建物の前で立ち尽くすという訳にもいかないので校庭の脇の歩道を来た道を辿ってこの校舎まで戻り、もう既に開いていた食堂に入り、学食を食べているのであった。

 食堂の中にはごく少数ではあるが他の生徒の姿もあった。それぞれの生徒同士は近くに座らずに広い食堂の中でそれぞれが離れた位置に座っていたので、レックとドライの二人もそれぞれの生徒たちからある程度離れた位置に座って提供された食事を取っているのであった。

「食べないのですか?」と、レックがドライに尋ねた。二人は向かい合わせに座っていたが、食事を取っているのはレックだけで、ドライの手元には何も無かった。

「ええ……」と、ドライは何か考え事をしながら上の空で返事をした。

「ドライ、あなたも今朝から何も食べていないのでしょう? 何か口にしたが良い」と、レックは食事の手を止めてドライの目を見ながら言った。

「すみません。考え事に耽ってしまって、私これでも腹持ちの良い方なんです、お昼に沢山いただきますから、心配ありませんよ」と、ドライが華奢なお腹を擦りながらレックに微笑み言葉を返した。

「そうですか……」と、レックは呟くと、それきり言葉を出さずに黙って食事を続けるのであった。

 ああ、本当に美味しそうに食べるなあ。と、心中でそんな事を考えながらドライは黙ってレックの食事を見ながら微笑んでいた。

 レックは普段、オニアの家柄を気にして気丈に振る舞っているが、今の食事の所作は少年の様にがさつで気品なんて物は微塵も感じられない物であった。年相応のそんなレックの様子を見て、ドライは少し嬉しく思ったのであった。

「レック様、気の許せるご学友が出来ると良いですね」と、ドライは少し誂う様にレックに言った。レックは少しぽかんと呆気にとられた様な表情で

「何ですか急に」と、素っ頓狂な返事をした。

「何でもありませんよ」と、言ったドライの言葉はレックにはどこか弾んでいる様に聞こえた。

 レックは食事を終えて、食器を食堂の返却口に返して再びドライの正面の席に戻ってきて、話し始めた。

「友人ですか……、広平は良き友になると思いますよ、立ち振舞も立派だし、実力もある」

「薬師様も良いですねぇ、薬師様が友人になってくださったら、きっとリュウもついて来ますよ」と、ドライが笑った。

「要らないおまけだな」

「相性は良いと思いますよ、レック様とリュウ」

「やめてくれよ、あんな得体の知れない奴」と、レックが苦虫を噛み潰したような顔で言った。

「まあまあ、これから長い付き合いになるんですからそんなに初めから毛嫌いしなくても……」と、ドライが嗜める様な事を言うと、レックは黙ってしまった。

 しばらく、無言の時間が続いた。

 食堂の外に学生たちの声がちらほら聞こえてくる。続々と寮の方から学生たちが登校してきているのだ。気付けば食堂の中の生徒達も数が増え、何人組かで同席しているグループも何組か見られた。そんな学生たちを遠い目で眺めながら

「僕はトップにならなければならないんです。この中の誰よりも優れた魔術師にならなければならないんです」と、レックはどこか追い詰められたような表情で言った。

「あまり、気負わないで下さいね」と、ドライが言った。レックは返事をせずにまた黙ってしまった。ドライは心配そうな表情でレックを見つめているだけであった。


 

「あら? ドライじゃない」と、食堂に入ってきてドライに声をかける人物がいた。その人物はタツだった。

「タツ! 昨晩はどこにいたのですか? 探したんですよ!」と、ドライが少し声を荒げた。

「あれ? あの婆さ……じゃなくて学園長から聞いてないの? 私リュウと同じ宿舎に住むことにしたから、学園長の許可はもらっているわぁ、文句は言わせないわよ」と、タツは得意げな表情でドライに言った。

「また、勝手な事を……」と、ドライは額を右手で抑えて首を振りながら言った。

「いいじゃない、私は私のやりたい様にやらせて貰うわ」

 姉妹は物凄い剣幕で睨み合っていた。そこに聞こえてきたのはリュウの素っ頓狂な声であった。

「いやあ、ラッキーだったなタツ、お前に朝飯食われたからどうしようと思ったけど、あの細目の女のおかげで朝飯にありつけたよ」と、食堂の朝食を両手に抱えてやってきたリュウはタツとドライが睨み合っている光景を見て立ち尽くし

「俺向こうで食べてるから」と、言ってその場を離れようとしたが

「ちょっと待ちなさい」

「ちょっと待って下さい」と、同時に発された姉妹の言葉にリュウは動きを止めた。

「何よ」と、タツがドライに聞いた。

「あなたは良いのですかリュウ、こんな暴力女と一緒に生活出来るのですか?」と、リュウに聞いた。リュウは少し考え込む素振りを見せたがはっと答えを得たような表情で

「広平みたいなもんだから俺は平気だよ」と、にこやかに言った。

「失礼な奴ね、暴力女を否定しなさいよ」

「それは事実だろ?」と、リュウが言うとタツはこめかみをピクつかせていたがリュウに手は出さずにドライに言った。

「ドライ、そしてレック、私大会にはリュウと出るから」

 レックは驚きのあまり激しい所作で立ち上がった。レックが立ち上がった時にがたりと少し大きな音を立てたので周りの生徒たちの注目を集めたが

「失礼」と、言ってレックが座るとその注目も食堂の喧騒の中に溶けて消えた。

「で……タツさん。なぜその男と組むのですか?」と、レックが怯えた様な顔で言った。

「面白そうだからよ、じゃあね、それだけ。行くわよリュウ」と、言ってタツはリュウを連れてせ少し離れた席に座った。


 

 レックは両肘をテーブルに突いて、顔の前で両手を組んで何か考え込んでいた。

「レック様……」と、呟く様に声をかけたドライにレックが

「まさか……タツさんがあの様な暴挙に出るとは……」

「ええ、タツの離脱はレック様にとってはかなりの痛手ですね、そうすると、あともう一人の選定を急がないと……」と、ドライが言った。

「ドライ、今朝のあなたの話が本当だとすると、現状、新入生の中で体術においてあの二人に敵う人間は居ませんね、そもそもタツさんはこと戦闘においては規格外の能力値です。そのタツさんに匹敵する徒手格闘術を会得しているリュウ……力でゴリ押しして、大会で他者を圧倒するのはあの二人かもしれませんね……」と、レックが弱気な声で話した。

「わ、私に助力させて頂けませんか?」と、肩を落とすレックにドライが意を決して言葉に出した。

「……良いんですか? 昨日私があなたに離脱を要求したのに、虫の良い話ではありませんか?」

「良いんですよ、私はあなたへの助力は微塵も惜しみません。今までもそうだったでしょう? これからもそうなのですよ」と言って、ドライは微笑んだ。

「ありがとう」と、言ってレックは頭を下げた。

「よしてください。従者に頭を下げないで」と、ドライが言った。頭を上げたレックは晴れやかな顔でドライに言った。

「戦い方を考え直さないと……あなたが加わるのなら戦術は幾通りも増えますからね」と、レックは浮足立った声で言った。その様子はどこか楽しそうで、ドライは微笑ましく思った。


 

 レックとドライの様子を遠目に見ていたタツはとても優しい表情をしていた。

「何見ているんだ?」と、リュウがタツに聞いた。

「別に良いでしょ、何でも……。ねえリュウ、昨日の私と組むって話はもう確定で良いのよね?」

「ああ、問題ない。お前の実力は身を持って知っているし、相性も良いと思う」

「何? いつになく素直ねぇ、やっぱりあんた私に惚れてるんじゃないの?」

「勝手に言ってろ」と、吐き捨てる様に言って、リュウは食事を続けた。

 タツが退屈な表情で言った。

「強敵よぉ、あの二人に薬師広平が加わると」

「お前、広平の魔術は知らないだろ?」と、リュウが食事の手を止めてタツに聞いた。

「知らないけど魔力の相性は良さそうよ、だからレック坊っちゃんも声をかけたんでしょうね」と、タツが言うと

「ああ、お前たち魔力が見えるんだったな」と、リュウは少し拗ねた様に言った。

「ええ、特別な事じゃ無いでしょ? リオも見えるみたいだしね、あなたも匂い、で分かるんでしょ?」と、タツがリュウを誂う様な口調で言った。

「誂うなよ」と、言ったきりリュウは黙って物凄い勢いで食事を終わらせた。食器を食堂の返却口に返したリュウはタツの所に戻ると

「もう時間だ、行こう」と言った。

 タツは食堂の外へ向かうリュウの後について食堂を出た。

 二人はそのまま教室へと向かうのであった。

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