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第二十八話 空色の手紙

「何よそのとんがり帽子」と、学園長に言って細目の女がけらけら笑った。

 学園長が自室の椅子に座って寛いでいると、レックとドライの二人を見送った細目の女が部屋に入って来たのである。

「うるさいわね、威厳よ威厳」と、学園長は帽子を脱いで細目の女に投げつけた。

「危ないなあ」と呆れたように言って細目の女は飛んできた帽子を華麗に掴み取った。

「それよりも、頼みたい事があるのだけど」と、言って学園長は空色の封筒を三つ懐から取り出してまた細目の女の方へ投げた。

 投げられた三通の封筒はふわふわと空中を漂うようにゆっくりと細目の女の手元へと届いた。

「今度はやけに丁寧だな」と、細目の女が言うと

「大事な手紙だからね」と言って学園長は不適に笑った。

「届けろってことね、はいはい分かりましたよ」と言って三通の空色の手紙を後ろ手に振って細目の女は部屋を出ていった。

「まったく……雑に扱うんじゃないよ」と、学園長は呟いた。幼い子供の様な見た目に似つかない少し疲れた様な表情であった。



 広大な第三区の森林地帯を縦断するように第一区と第二区を繋ぐ連絡道路を勢いよく駆け抜ける男女の姿があった。二人はバスの速度には及ばない物のとても普通の人間とは見えない程の速度で地面を力強く蹴って走っている。

「流石に速いわね」と、タツが隣を走るリュウに余裕の有る表情で言った。

「お前はっ……余裕そうっ……だなっ」と、リュウは額に汗をかいて息を切らしながら言葉を返した。

「まだまだこの位余裕よぉ、リュウあなたは随分と辛そうね」と、タツはどこか嬉しそうにリュウをからかう様な口調で言った。言葉を返さず黙って走り続けるリュウに少しタツはむすっとして

「バスに乗れなかったのはあなたのせいなんだから頑張りなさいな」と、言った。

 そう、この二人は寮を出てからバスの停車場まで足を急がせたが、朝の通学バスの最終便には間に合わずに、この長い長い連絡道路を自分の足で走る羽目になったのである。

 道路を走っている二人はふと、立ち止まった。どちらからと言うでも無く、二人はほぼ同時に足を止めたのだ。

 二人の足を止めさせたのは第三区の森の中にある小さな鳥居の姿であった。鳥居の周りにはそこに行く為の道の様な物は無く、ただただそこに置いてあるだけの様な物であった。無論、森の中に隠された様に佇む様に立っているただの鳥居がこの二人の興味を引くわけは無い。

「タツ、まだ時間はあるか?」

「ええ、この学園の朝の終バスは遅刻防止の為になのかやたら時間が早いから、まだ時間に余裕はあるわ」と、言ったタツの言葉を聞いたリュウは頷いて、藪を掻き分け泳ぐ様に森の中に入って鳥居の方へ歩いていった。

「これは……」と、鳥居の前に辿り着いたリュウが呟いた。

「ええ……」と、タツもリュウの言わんとする事は分かっていると言った風に呟いた。

「結界ね、随分と古いけれども単純で効果的な人払いの結界よ」と、タツが言った。

「よし」と言って鳥居をくぐって中に入ろうとしたリュウに

「え? 入るの?」と、タツが驚いた様な声をかけた。

「時間は有るんだろう?」と、リュウが振り返ってタツに聞くと

「それはそうだけれど……」と、タツが尻込みする様な声を発した。

「どうした? やけにしおらしいじゃないか」と、リュウが誂う様にタツに言った。

「結界の中に入っても良いけど、出てこれなかったらどうするの?」とタツはリュウを引き止めたいようで、弱々しい声でリュウに言った。

「大丈夫、人払いの結界だろ? 良いじゃないか、俺凄い気になるんだけどこの場所」と、リュウが自信に満ちた好奇心を露わにした語気でタツに言った。タツはしばらく黙ってリュウの瞳を見つめていたがついには

「仕方無いわね! 少しよ!」と、タツの方が折れて一緒に鳥居をくぐる事にした。

 二人が鳥居の中に入ると、そこは今までの藪の中では無く、目の前に絢爛な御殿の様な建物がそびえ立っていた。御殿の周りは鬱蒼とした森に囲まれ足を踏み入れる余地も無いほど木々が密集している様に見える。とても足を踏み入れる様な森では無さそうであった。

 二人の背後には今くぐって来た鳥居が有ったが、タツの懸念を的中させるかの様に鳥居は靄のように霧散し消えてしまった。二人は壁の様な森に囲まれた御殿の前に立ち尽くした。

「ほら言ったじゃない、出られなかったらどうするのって……」と、タツが呆れたように言った。

「ただの人払いの結界じゃ?」と、リュウがタツに問いただすように言った。

「言ったじゃない、古い人払いの結界だって、古の結界術なんてこんなものよ、術中の人間を閉じ込める為のね」

「知ってたのなら言えよっ」と、リュウが少し荒っぽく言った。

「言ったわよ、出てこられなかったらどうするのって」と、タツは少し嘲笑する様な口調でリュウに言った。

「さあ、行くわよ」と言ってタツは目の前の御殿に向かって歩き始めた。リュウもその後を太々しい態度でついて歩いた。

「あの中に入るのか?」と、リュウが歩きながらタツに聞いた。

「ええ、仕方ないでしょ? こんな術式は術をかけた当の本人に出してもらうしかないんだから、どうせあの中でしょう?」と、タツは大きな態度で大股に歩きながら言った。

 リュウはしぶしぶ納得して、大股で歩くタツの後ろを少し早足に歩いた。

 深い森に囲まれこの空間の主人然として佇む御殿は木組みの構造で、本殿の様な建物を囲む様に壁が築かれ、正面からやや左に位置する入口の大門は階段を上がった高い場所にある。二人は階段を上がると躊躇することなく大門の中へ足を踏み入れた。門はそれが一つの大きな屋敷の様な造りで、左右に伸びる本殿を囲む壁の中にも部屋が有り、その部屋はずうっと奥まで廊下の様に続いていて、どうやら四方を囲む壁はそれそのものが家屋の様な造りになっていると言うことであるらしい。

 大門の内部の木材の表面には上品な艶があり、所々に何かの意匠が彫刻で表現されている。リュウはその彫刻が気になって、目を離せないでいた。

「気になるの?」と、タツがリュウに聞いた。

「ああ、少しな」とリュウが答えた。

「大昔に、栄えた一族の家門の様な物よ」と、タツが少し物悲しそうな顔で言った。

「随分と物知りなんだな」と、リュウが言った。

「知っているだけよ」と、タツは吐き捨てる様に言った。

 再び歩き出したタツの後を再びリュウはついて歩いた。

 門を出るとそこは左右に背の高い石垣が積まれていて、左に直角に曲がるように石垣に囲まれた道が続いていた。二人が石垣に誘導される様に左に曲がると、その直ぐ先には石垣に囲まれた道を塞ぐ様に閉じられた門が二人の前に立ち塞がっていた。

「まるでお城ね」と、タツが呟いた。

「タツ、誰かいる。門の上」と言ったリュウの言葉に誘われてタツは門の上を見た。

 タツが門の上の人物を認識するよりも速くその人物は動いた。二人が次にその人物を認識した時にはその人物は二人の背後に居た。

「困るんだよね、学生がこんな所に入って来られると」と、筆の毛の様な長さの髪の毛を後ろにひとつ結びにした細目の女が二人の背後から声をかけた。女の声に二人は一瞬で反応して振り返った。そして次の瞬間には二人は背にした門の方へ飛び退いた。

 二人は再び驚愕とした。細目の女から離れようと後ろに飛び退いたはずであったのに細目の女はもう既に二人の目の前に移動していたのだ。

「速すぎない?」タツが女に呆れたように言うと

「いやいや、君達も十分速いよ、さすがあいつが選抜しただけの事はある。うんうん。実力は十分学生の域を超えているね、よしよし今年の新入生は豊作だねぇ」と、細目の女が感心したように言った。

「で、あんたは誰?」と、リュウが聞くと

「私? 学園長の使いの者だよ、ちょっと用があって君達を探していたら、まさかこんな所に入り込んでいるなんてね、想定外。まあ、ここに要られると困るから君達には外に出てもらおうか」と、言って細目の女はリュウの左手首とタツの右手首を優しく掴んだ。二人は反応出来ずに抗えなかった。1

 リュウとタツが手首を掴まれたかと思うと、次の瞬間には視界が暗転し、再び視界が戻ると二人は先程まで走っていた連絡道路にいた。しかし驚くべきことに二人が戻って来たのは先程まで居た連絡道路の全く同じ位置ではなく、先程までよりももっと学園に近づいた場所の様で、もう直ぐそこに第一区のバスの停車場が見えていた。

 呆気に取られているリュウの耳に聞こえたのはタツの声だった。

「で、何の用なの?」タツが細目の女に聞いた。

「学園長の使いだって言ったでしょ? はいこれ」と言って、細目の女は空色の封筒を二通タツに手渡した。

「君たち二人宛だからね、確かに渡したよ、校舎前までの転移は私の善意だから感謝しな。じゃあ確かに渡したからね!」と、念を押す様に言って、細目の女の姿は霧の様に消えてしまった。

 怒涛の出来事にタツとリュウは立ち尽くすばかりであった。

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