第二十四話 三人で
タツは興奮しているのか、頬を少し紅潮させてうきうきとした表情である。そしてそこに座れとでも言う様に自分のすぐ隣の椅子の空いた場所をぽんぽんと叩いてリュウに手招きしている。リュウはその手招きを無視してリオの隣に座った。
「ここいいか?」と、リュウが聞くと
「もちろんっ」と、リオは快く受け入れてくれて、少し端に寄ってリュウの座る場所を広く空けてくれた。
「ありがとう、ところで……」と、リュウが部屋の入り口に立っているヘイの方を見るように視線を横に向けて事の経緯をヘイに問おうとしたところに
「あんた、私を無視してんじゃないわよ!」と、タツが両手をテーブルについて身を乗り出しリュウに詰め寄った。片膝をテーブルに乗せてリュウの胸元近くまで顔を詰め寄せていた。リュウは横目に胸元から見上げる様に睨んできているタツの顔を間近に見て少し照れくさくなって目線を意地でもタツに向けずにヘイの方を見続けて、話を続けた。
「俺がこの離れの小屋で生活する分には理解出来たんだけど……何でこいつが男子寮に?」と、詰め寄るタツを指差してヘイに聞いた。タツはリュウの一連の態度に苛立っているようでテーブルに片膝を乗せたまま、子犬が駄々をこねる様に文句をあれこれ言いながら唸っていた。
「僕もね……反対したさ勿論。でもあのばばぁっ……いや、失礼。学園長が本人が良いなら良いんじゃない? なんて放任的な事言うからさ、特例で許されたってわけ、まあここは僕も大楠も生活している小屋だから良いだろうってね……」
「って事は言い出しっぺはお前か……」と、言って呆れた様にタツの方を見るリュウ。
「風の噂で聞いたのよ、リュウが寮を追い出されてボロ小屋に住むってねぇ。あなた面白いから近くで観察する事にしたの、それで無理言って来てみれば何よこの綺麗な小屋! 全然ボロくない! 綺麗で雰囲気も良い! 私もうここに住む事決めたからぁ」と、タツは一頻りに言い終えると、リュウの方に乗り出した身体を起こして反論を許さないと言った様に自分が座っている長椅子の背もたれに主人然として横柄な座り方でどっしりともたれ掛かった。
「勝手な……」と、リュウが呟く。
「良いんじゃない? 賑やかで」と、リュウの隣に座るリオがにこやかに言った。
「で、お前は? 新入生?」と、リュウがぶっきらぼうにリオに聞いた。
「だめだめっ、初対面の人には愛想よくね! お前、だなんて言ってるとまた薬師広平に怒られちゃうよ?」と、タツがリュウを誂う様に上目遣いで目をぱちくりさせながら言った。リュウはそんなタツの事を呆れた様な怒っている様な判然としない表情で見ていた。
「で?」と、リュウがリオに再び聞くと、リオは困った様な顔で
「僕はリオ、同じ新入生だよ」と、言った。
「ふぅん……。よろしく」と、リュウが適当な返事を返すと、リオも短く返事をして、それきり会話は続かずその場に少しの沈黙が訪れた。沈黙を破るようにヘイが口を開いた。
「さっきも少し言ったけど、僕と大楠もここで生活しているからね、困ったことがあったら何でも言いいなよ? で、今日は大楠は当直で自分の受け持ち寮に戻っていて帰って来ないからね、僕はもう自室に戻って休むよ。戸締まりだけ宜しく、電子錠じゃなくて普通の手動の鍵だからね」と、言ってヘイは居間の入り口近くの自室の扉を開けて入って行った。中からごそごそと暫く何かを片付けるような音が居間に聞こえていたが、直ぐに静かになっていびきの様な低い音が居間に聞こえてきた。
「寝るの早くない?」と、タツがにやけ顔で呟いた。
「ああ、ものの五分くらいだったね」と、リオも神妙な面持ちで答えた。それから二人は人間の睡眠や、入眠時間についてのあれこれをああでもないこうでもないと少し語り合っていた。
「リュウはどう思う? あの入眠速度は異常だよ、何か特殊な魔術なんじゃ無いかな?」と、リオがやけに真面目な表示で不意にリュウに話を振るとリュウは
「どうでも良くないか?」と言った。
一刀両断する様なリュウの一言にタツとリオの二人は目が覚めた様にはっとなって黙ってしまった。
「それで……リュウ」と、不意にリオが至って真剣な面持ちでリュウに話しかけた。
「ん?」と、リュウは短く聞き返した。
「今日のあの魔力風と、青白い光の魔力は君の物だよね?」とリオが言うと、リュウは鳩が豆鉄砲を食らった様な顔をして、正面に座るにタツに目配せした。タツは知らない、とでも言うように首を小刻みに横に振っていた。するとリオが続けて言った。
「少なくともあの場に来ていた人達は皆、君の魔力が弾けたのを感じてあの場に来ていたんだと思うよ? でも……多分あの魔力が君の魔力だと気付いているのは僕だけかな?」と、にやりと不敵に笑ってタツの方をちらりと見た。
こいつ……私の事も多分勘づいているわね……私とリュウの戦いでドライの部屋から漏れ出た僅かな魔力を感知していた? すごい感知能力ね……しまったわ……ドライの部屋の座標をもっと遠くへずらしておけば良かった。と、タツは心中で思考を逡巡とさせて、リオの視線に気付きながらも知らないふりを通した。
「別に隠す必要は無いしな……」と、リュウは呟いて話し始めた。タツも特に制止する素振りは見せなかった。
「リオが誰かの魔力を感じて、あの時俺の所に来たんだったら多分それはリオの思っている通り、俺の魔力だな……」
「……とてつもなく濃い魔力の波だったよ、何をした? 今の君にそんなに大きな魔力の流れは全然見えないから、にわかにあの魔力が君の物だって信じれないんだけど」
「それなら何故リオはその魔力がリュウの物だって思うの?」と、タツが聞くとリオが
「……リュウから立ち上る魔力の色がね……さっき夜空に明るく輝いた魔力の色と同じ色なんだよ」と、言った。
「あなた魔力に色を付けられるのね」と、タツが言うと。
「色を付ける? 見えるじゃなくて?」と、リュウがタツの言葉の揚げ足を取る様に言うとリオが
「いや、リュウ。色を付けるで間違っていないよ、しかし驚いたな、久々に会ったよその言い方をする人に。そんなに可愛らしい見た目していて実は千年くらい生きているんじゃないの?」と、リオは戯けてタツをからかう様に言った。
「実は……そうなの……私からしたらあなた達なんて産まれたての赤子も同然よぉ」と、タツも楽しげに遊ぶ様に言った。
「おいおい……どおりで……」と、リュウが神妙な面持ちで声を発した。
「冗談よリュウ、何を本気にしているの?」と、タツが笑った。
「話を戻すけどね……」と、前置きをして、リオが話し始めた。
「僕は六歳の頃にちょっとした事件に巻き込まれてね、その時に自分が魔術を扱えるんだって知ったんだけど……その時の魔術行使の影響で僕は人の身体に流れる魔力の流れが見えるようになったんだ。でね……リュウ、魔力が見える魔眼持ちは世の中にそれなりの人数がいるんだけど、色まで見えている特別な目を持っている人間はそんなには居ないんだ。だから、普通の魔眼持ちからすると僕らはかなり異端な存在でね、彼らが僕らを昔から揶揄する様に言うんだよ、お前達が魔力の色を見ているんじゃなくて、自分で色を着けているんだって、色が見えるなんて事は妄想の世迷い言だってね」と、リオが明るく淡々とした口調で言った。
「でも実際はちゃんと、見えて、いるんだろう」と、リュウは見えてと言う言葉を少し強調して言った。
「勿論。なかなか理解されないんだけどね……昔はその色の見える目をもつ人間は今よりもっと蔑まれていたらしいんだよ」と、リオが呆れた様に言った。
「リュウは信じる?」と、不意にタツがリュウに聞いた。正面からリュウを見ているタツの瞳は真剣な眼差しをしていて、リュウは少しその視線に戸惑いながらも
「信じるも何も他人様の見えている世界を否定する理由が俺には無いな。俺も魔力が見える訳では無いが、その人の魔力のそれぞれが持っている雰囲気というか、匂いみたいな物は分かるしなあ……そう言うのって人それぞれの魔力の感じ方の問題だろ?」と、さっぱりとした口調で言った。タツはリュウのその言葉を聞いて、少し驚いた様な顔をした後に感心した様にうんうんと数度頷く素振りを見せて
「さぁすがリュウ! 私が見込んだだけの事はあるね!」と、嬉しそうにリュウを褒めた。
「魔力に匂いがあるの? すごいわね……聞いたこと無いわよそんなの」と、タツは独り言を言って燥いでいた。
リオとリュウはタツが何を喜んでいるのかを分からずに可愛らしくはしゃぐ様なそのタツの様子を二人はきょとんとした顔で見ていた。その二人の様子に気付いたタツは場持ちが悪くなって、少し小さな咳払いをして場を取り直して
「で、リオ。あなたどのくらい勘付いているの?」と、リオに問うた。
「……そうだなあ、あの時光った魔力がリュウの物だって言うのはもう殆ど確信している。それ以外にその場所にもう一つ大きな魔力を感じたんだけど、僕はそれがもしかするとタツ、君なんじゃないか。と、考えている」
「なるほど……ね」と呟いてタツはリオの隣に座るリュウの目を見た。するとリュウは良いだろうと言う様にゆっくり首を縦に振った。
「リオ……あなたの感知力には恐れ入ったわ、あなたの予想通りあの時の魔力は私達二人の物よ、相当抑え込んでいたつもりなんだけど漏れ出てたみたいね……」と、タツは言った。
「抑え込んでいた? それであの魔力量かい?」と、リオは驚いてタツに聞いた。
「ええ……」と、タツは少しお茶を濁すように小さく呟いた。抑え込んでいた、というのも方便である。タツはドライの魔術の事を詳しく話すわけにはいかないと思っているようで、そのような誤魔化す言葉を使ったのだ。
「凄いな……君達の力はとうに学生の域を超えているんじゃないか? リュウ、君のその魔力の制御は並の魔術師にはまず不可能だよ」と、言ってリオはまじまじと観察するようにリュウを見ていた。
「あなたもあなたよリオ、今のリュウのほんの微かな魔力があなたには見えているんでしょう?」と、タツは少し嬉しそうに浮足立った口調で言った。
「タツ……余計な事を考えるなよ」と、リュウがタツに釘を刺すように言った。そしてリュウは話し続けた。
「学生の域を超えているのはお前もだろリオ」と、言ってリオの視線を正面から受け止める様に視線を返しながらリュウが言った。
「そうかな?」と、リオがさっぱりとした口調で言った。




