表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/33

第十七話 山中の上宮

「もう……良いんだな? ……そこの女児、お前歳はいくつだ?」

「……六よ」と、ヒヨがオアシの問いに答えた。

「そうか……先程の火の魔術は見事だ、歳の割に良く研鑽を積んでいるな。先程はヒスイに邪魔されたが、どうだ、君のその修練の日々が垣間見えるあの魔術出力に敬意を払って、もう一度受けてやろう。勿論抵抗はしない、人質の小僧もいない。本気で打ってみろ」と、オアシはヒヨを挑発するような発言をした。ヒヨはオアシの言っている事の理由が分からず、黙ったままヒスイの方を見た。ヒヨがようやくオアシから視線を外せた瞬間であった。ヒスイもヒヨの視線につられるようにヒヨと目を合わせた。二人が目を合わせた瞬間にリオが叫んだ。

「危ないっ!」リオの叫びと同時にオアシが再び跳躍し、目にも止まらぬ速さで間合いを詰め、ヒヨとヒスイに手の届く範囲の所まで飛び込んできた。

「っ!」ヒスイは喉元に短刀を突き付けられ動けなくなっていた。ヒスイの喉元に短刀を突き付けたままにオアシはヒヨの眼前に立ち塞がるように立って言った。

「惜しい……惜しいな小娘。明らかに経験が足りない。経験の無さを本能的な恐怖心が補い、俺から目を離さなかったのは素晴らしいが……しかし俺が声色を少し変えた瞬間君の心は警戒を解いた。明らかな実戦経験不足だ。……小娘、君は賢者無きこの世において、きっと絶世の逸材だよ。魔力量、魔術行使の効率の良さ。この二つは我が国の同じ歳の子らよりも明らかに頭二つ三つ突出している。成長し、良い大人に成ればあの忌々しい賢者の同位にさえ到達出来るかもしれない。……だが! 君がそうなる前に君は君を恐れた誰かに殺されるかもしれない! 力持つ者には呪い様に闘争が付きまとう! それは抗いようの無い運命だ! 天が人類の成長の為に強者に闘争の運命を導くのだ! お前の目の前に今日俺が現れた様にね。強者はいつ何時も理不尽な闘争に巻き込まれかねないのだ。だから強者たちは日々殺されない為の研鑽を積まなければならないんだ。……惜しいな小娘、君は今日ここで死ぬ、俺が君を殺す。君は我が国にとって将来的な脅威となり得る。俺が君の将来の研鑽と成長を許さない。君が強者に成る将来を俺が我が国の将来の為に許さない。小娘……誇っていい、君は俺を恐れさせたのだ、その小さな身に大きな誇りを抱いて死ね!」と、言ってオアシは短刀をヒスイの喉元から離して瞬時にヒヨに向かって振り下ろした。

 ヒヨはオアシへの恐怖から身動き取れず、死を覚悟するように目を瞑って短刀の一振りを無防備で受けた。

 ああ、私は死んじゃうのかな……。と、ヒヨはどこか達観した心情を抱いてオアシの小刀が自身に到達するのを甘んじて受け入れる様に目を瞑っていたが、オアシの一撃がヒヨに到達する事は無かった。ヒヨが待ち兼ねて瞼を上げると、オアシの動きがまるで時間が止まっているかの様に腕を振り上げた状態で止まっていた。ヒヨは瞼をぱちくりさせて驚いていた。

「話が長いのは相変わらずあなたの大きな欠陥ですよ、オアシさん。おかげで十分に魔力を練ることが出来ました」と得意気に言うヒスイ。短刀が自分の喉元から外れた瞬間にオアシに魔術行使したようであった。

「ヒスイ、お前の固有魔術は格下の相手にしか有効に行使出来ないはずでは無いのか? 何故俺の身体は止まっているのだ?」と、動きの止まった状態のまま冷静にヒスイに聞くオアシ

「ええ、あなたの言う通りです。私の停止の固有魔術は強力な魔術が故に制約も多く私の魔力総量が相手の魔力総量を上回る時にしか行使出来ません」

「それなら何故私はお前に止められている」

「あなたが格下って事じゃないんですか?」と、挑発する様な口調でヒスイは言った。

「あまり、調子に乗るなよヒスイ」と、オアシが酷く冷たく思い声で呟くと、オアシを中心に風が生まれる様に吹き始めた。その風がリオとヒヨとヒスイの身体を吹き抜けていく。リオとヒヨの二人はこの風がヒスイの嫌な予感の正体だと本能的に分かった。三人は合図もなくそれぞれオアシのそばから離れる様に後方に飛び退いた。

「いいぞ子供たち、その本能的な立ち振舞は武人にとっては天賦の才だよ。……小娘お前は今日殺す。小僧お前は生きたまま動けなくして我が国に連れて帰る……理由は知らなくて良い」と言ったオアシは徐々に動ける様になっていっている様である。全身を重たそうに足は引き摺る様に徐々に徐々に三人との間合い詰めるべく歩いていた。ヒヨとリオにはその光景がとても恐ろしく見えた。

「口数が多いですよオアシさん」と言ってヒスイはシャツの胸ポケットから少し大きな玉を取り出してオアシの方へ投げつけた。

 投げられた玉はオアシの目の前で光を放ち弾けた。弾けた光が帯状となり、オアシの手足を拘束拘束する様にオアシの身体に巻き付いた。再び歩みを止められたオアシを尻目に

「さあ二人とも逃げるよ! 神社の裏手の山に走って!」と言ったヒスイの言葉を合図にヒヨとリオは目配せして頷き合って神社の裏山に向かって駆け出した。

「ヒスイ! 逃げ切れると思うな!」と、オアシが叫んだ。

 ヒスイとヒヨとリオの三人は神社の裏山を上へ上へと登っていた。三人は道のついた平凡な登山道を走っていたのだが、途中真っ直ぐに進む道と左の方へそれて谷の方へ降りていく道との分岐点に出た。

「こっちだよ」と、ヒスイが真っ直ぐでも左の道でも無く、道の無い右側に壁の様に聳える山側の急斜面を僅かな谷間を縫うように登り進み始めた。もう既に日は陰ってしまっていて、お互いの輪郭がぼんやりとしか見えない程に山の中はかなり暗かった。ヒヨとリオの二人は少し尻込みしたが、ずんずんと藪を漕ぐように突き進むヒスイの勢いにつられる様に後ろについていった。ヒスイの導くままに道の無い藪の中へ入って行った二人は深い藪に辟易として、若干の疲れを感じ始めていた。歩く速さはさほど速くは無かったが、急斜面と言う事もあり、幼い二人は心臓が激しく胸を叩いている感覚を感じていた。棘が服を貫いて皮膚に刺さって痛かったり、複雑に絡み合った蔦に足を取られて転んだり、ヒスイの腕程に太いヘビや、ふと耳元を過ぎる羽虫の羽音に驚いたり、落ちたらお陀仏になりそうな急斜面を登ったりして気が気でない藪の中を三人はずんずんと勢いを落とさずに登っていった。

 ふと、三人は少し広い場所に飛び出るように登り上がった。周辺は禿げ上がったように木々も無く上を見上げるとぽっかりと空いた穴のように、木々が丸その場を避けるように星空が広がっていた。

「はああ」と、ヒヨとリオはため息をつくように声を出した。

「よく頑張ったね、さあもう少し歩くよ」と、笑顔でヒスイは言った。その言葉に辟易とした二人だったが、ヒスイの歩き出した方向は目に見える範囲では先程までよじ登っていた藪とは違い芝の様な地面であったし、平らに見えたから、二人はすんなりとヒスイに着いて歩き始めた。

 三人が歩き始めて程なくして岩屋の中に小さなお社が立っている場所に着いた。

「ついた」と、ヒスイが言った。

「ここは?」とヒヨが息を切らせながらヒスイに聞いた。リオも同じ疑問を持っているような顔でヒスイを見ている。

「ここは下の神社の上宮さ」と、ヒスイが神妙に答えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ