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第十二話 宝石店の主人

「誰から貰ったの? 正直に言いなさい」と、ヒヨは至って真剣な眼差しで真っ直ぐ僕を見つめている。睫毛は息を呑むほど長く、その虹彩は深く美しい黒色を称えていて彼女の玉のように白い肌を引き立たせている。彼女はとても美しい。その美しさが彼女の勝ち気な厳しさをより一層際立たせていた。僕が彼女の雰囲気に圧倒されて黙ったままで居ると、彼女が淡々とした口調で話し始めた。

「あのねリオ、この弓には魔力が宿っているのよ、しかも付与術だとかの単純な物じゃない、この弓が魔力を生み出している感じがする。これは危険な事よ」と、ヒヨが幼くもハキハキとした芯の通った声で言った。

「それは確かに危ないんだろうけど、だとしても無理矢理取り上げる事はないだろう」と、僕はまた少し強い口調でヒヨに言った。

「……泣いてたわフウ。大泣きしてた。ごめんなさい。それに関しては、私が全面的に悪いと思っているわ」と、少し肩を落として、か細い声でヒヨが言った。ヒヨも別にフウを泣かせようと思ってこの弓を取り上げたのではなかったんだなと、僕は冷静に考えれば当たり前の事を思って

「僕も悪かったよ、一方的な事を言ってごめんねヒヨ」と、僕もヒヨに謝った。

「良いのよ、フウを泣かせたのは本当の事だし。それよりも本題よ、この弓は神社で誰から貰ったの? リオあんたさっき確かに貰ったって言ったわよね? 子供にこんな物を持たせるなんて何を考えているのよその人は取っちめて説教くれてやる!」と、憤りを露わにして握り拳を両手に作ってわなわな震えているヒヨがとても幼気に見えて可愛らしかった。

「この弓、そんなに危ないの?」と、ヒヨに何となく聞いてみると

「何言ってるの? 当たり前でしょ? 自分で魔力を生成する道具が危険じゃ無い訳無いじゃない。普通魔道具と言うのは付与術師に魔術を付与されているものなのよ、呪いだったり加護だったり強化だったり、様々な付与術があるけれど、それは殆どが期限が有る物なのよ、術師が死んでしまったり、術を解く反転術式を使えば術は解かれて魔力は無くなるの、魔力を自分で生んでいるって言うのは、生きていると言うことなのよリオ」と、言葉巧みにヒヨはリオに説明したが、リオはその半分も理解出来ずに呆気に取られているようだった。

「ごめんヒヨ、ヒヨの言っている事はちっとも分からなかった」

「だーかーらー、簡単に言うと、この弓は生きているのよ、いつからなのか分からないけれど、誰かがこの弓に命を与えたのよ!」と、少し興奮して声をあげるヒヨであった。

「わかった、わかったから、そろそろ、その弓返してよ。フウは泣いていたんだろ?」

「……ええ、ごめんなさい。つい驚いて頭に血が登って取り上げてしまったけれど、別にあんなに無理矢理取り上げなくても良かったのよね、私が悪かったわ、ごめんなさい」と、さっきまでの興奮した様子がまるで嘘の様にヒヨが素直に謝ってきた。とても塩らしく、年相応の可愛げのある姿だった。僕はヒヨの感情の激しい起伏に心を激しく揉まれているようで落ち着かなかった。

 そして、ヒヨから弓を受け取った。ヒヨはこの弓が危ないかもしれないと言うことを僕に伝えたかっただけなんだろう。

「ねえ、フウのところに行くんでしょう? 一緒に行っても良い? フウに謝りたいの」と、とても落ち着いた様子でヒヨが言ったので、僕は快くそれを快諾した。

「いいよ! フウもいきなりヒヨが意地悪して来たって混乱しているだろうから、直接言ってくれたほうが助かるよ、でも……フウにこれを返す前にこの弓を持って行きたい所が有るからヒヨも一緒に来てよ」

「行きたいところ?」と、ヒヨが僕に聞いてきたから

「そう、さっきこの弓は神社で貰ったって話したよね? この弓を貰ったその神社に父さんと一緒に行く事になっていて、良かったらヒヨも一緒に来てくれない?」と、僕はヒヨに事の経緯包み隠さずに細かく話して、ヒヨにも同行して貰うように頼んだ。ヒヨは魔術についての教育を家で受けているそうだから魔術については多分、村の誰よりも詳しいだろう。この弓が魔力を持っているのだとしたら、ヒヨに居てもらった方が助かる事があるかもしれない。そう思ってヒヨに声をかけた。

「色石……引き換え……」と、ヒヨはぶつぶつと呟きながら顎を右手の親指と人差し指で挟んで考え込む様子を見せていた。これはヒヨの昔からの癖であった。そしてふと我に返った様子を見せて僕に言った。

「私も一緒に行く」

 僕とヒヨが学舎を出て、学舎の入口の大きな門の直ぐ側の通りを歩いていると、後ろから「おーい」と、僕らを呼び止める様な声がしたので振り返るとそこには僕の父さんが歩いてくる姿が見えた。父さんは僕とヒヨが振り返った姿を見るや僕らの方へ小走りに駆け寄った。

「終わった?」と、僕の方を見て聞いて来たから、僕はうんと言って頷いた。父さんは軽く頷いてヒヨの方へ視線を移して

「ヒヨもお疲れさん」と、優しく声をかけた。ヒヨは黙って頷いた。ヒヨは少し人見知りな性格をしていたから、僕や学舎の顔見知りの子ら以外の子供や、あまり接点の無い大人には僕に対する饒舌な風体は装えないようであった。昔から顔を知っている僕の父さんに対してもそうであったから、ヒヨの人見知りは相当厄介な物だったと思う。ヒヨは昔からそれを少し気にしていて、いつも僕に、僕の両親に気の利いた挨拶が出来ないと、愚痴をこぼしていた。父さんも父さんでヒヨが素っ気ないとヒヨに嫌われたの何だのと煩かった。

 父さんもヒヨの同行を快く受け入れてくれて、僕とヒヨとお父さんの三人であの神社に向かう事になった。さあ、これから歩き始めるぞという段になった時に、父さんが僕達にある提案をした。神社に向かう前に僕がお小遣いで色石を買っていた件の宝石屋に向かおうと言うものだった。僕とヒヨに反対する理由もなかったし、寧ろヒヨはその提案に強く同意している様にも見えた。そして、僕たち三人は神社に行く前に村の宝石店に立ち寄る事にして、村の商店街へ向かった。

 段々と、村の栄えている地域に近づくに連れて、露店や食堂が目に入る様になってきて、ヒヨが明らかに上機嫌な様子で、あの店のお肉が美味しいだとか、この店は良い魚や貝を仕入れているだとかのこの村の食事事情についての色々を説明してくれた。すると父さんが

「帰りにどこか寄っていくか?」と、ヒヨに聞くと、ヒヨは急にしおらしくなって、控えめに頷いて

「行く……」と、一言だけ呟く様に言った。その後も、この村の露店街の来し方行く末のあれこれを話している内に件の宝石店に到着した。

「着いたね」と、ヒヨが呟いた。僕と父さんは何も言わずに頷いた。僕は徐ろに宝石店の扉を開けて店の中に入った。父さんとヒヨもその後ろに着いて店の中に入った。扉を開けた時に鳴った、少し控えめで乾いた鈴の音が店主に訪客を知らせるとそれに応える様に

「いらっしゃいませ」と、間延びした優男の声が店の中に小さく響いた。

「おっ、リオじゃないか、久しぶりだなあ」と、店の奥から出てきた青年が言った

「こんにちはおじさん」と、リオが律儀に挨拶すると

「あ、これはこれは、こんにちは」と、男は挨拶を忘れていたことを詫びるように、いかにもわざとらしく丁寧に身を正すように背筋を伸ばし、頭を下げた。

「で、リオ、今日はどうした? またあの石かい?」

「今日はね、おじさんに少し聞きたい事があって来たんだ」

「なるほど……」と、男は呟いて、リオの父親とヒヨの姿を舐めるように見ている。

「こんにちは」と、ヒヨが挨拶すると、リオの父親がはっとして、姿勢を正して続いて挨拶をした。

「こんにちは、店主さん。私はリオの父親のファリオと言います。いつもリオが世話になっているみたいで……」

「いえいえ、お世話になっているのは私の方ですよ。リオはこの店一番のお得意様ですし、他のお客様達にも愛想も良くて礼儀正しく接してくれて……正直に言うと私は店を構える商売人のくせに愛想はあまり良くはありませんから……」と、店主が頭をかきながら申し訳無さそうに言った。父さんとヒヨはそんな店主を頼りなさそうな者を見るような湿った眼差しを向けていた。

「おじさん、自己紹介」と、リオが呟くと、店主はまた忘れていた事に慌てた様に

「これはすみません。挨拶が遅れてしまって、私はこの宝石店の店主でヒスイと言います」と、頭を下げた。

「私はリオの友人のヒヨと言います」と、ヒヨはヒスイとは対極に落ち着いた感じで堂々と自己紹介した。その様子は大人びて見えるが、これは人見知りの裏返しなのだとリオは分かっていた。

 ヒヨはまじまじとヒスイを見ていた。するとヒスイがその眼差しに気付いて

「ん? どうしたんだい?」とヒヨに尋ねた。

「……ヒスイさんの瞳、緑色なんですね、珍しい」と、ヒヨが申し訳無さそうな声色で途切れ途切れに言葉を発した。

「ああ……。そうだね、この村の人達は殆どの人が黒髪に黒い瞳だもんね、やっぱりこの瞳の色は気になるかい?」と、ヒスイがヒヨに聞くと

「気になるというか……綺麗な色だと思います」と、ヒヨが恥じらう様に言った。その様子は無邪気な可愛げが有った。そんなヒヨの様子を見てリオは胸を締め付けられる様な感覚を得た。

「そうかい? 君もリオと同じ事を言うんだねえ、嬉しいよ、ありがとう。実は髪の毛は幻影魔術で黒く見せているんだが、本当はこんな色なんだ」と、言ってヒスイは自分の頭の髪の毛を指先で摘み上げた。

「えっ、いいの?」と、リオが少し驚いて困惑している様な声を上げた。ヒスイは黙ってリオの方を見ながら頷いた。すると、ヒスイの髪の色が見る見る内に黒色が抜けていく様に白くなった。白髪と言うよりは光沢が美しく少し黄みがかった銀色の髪であった。

「良いんだよリオ、だって君達はそう言う話をしにここに来たんだろう?」と、ヒスイは酷く落ち着いた声音で言った。

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