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 何が何だかわからないと言うように、両手を広げながら周りを見回すクランプ公爵。


「相変わらず人を食ったような顔をしているな、クランプよ」


 クランプ公爵が大仰な仕草で王の前で礼をする。


「これはこれは、お久しぶりでございますな。わが娘レイラが王宮に召し上げられ随分日がたちますが、そろそろ懐妊でも致しましたかな? それにしても正妃を娶ってすぐに側妃を召し上げるとは、なかなか第一王子殿下もお好きでいらっしゃるようだ」


 そう言うと飄々とした顔で王の横に立つアラバスに視線を向けた。


「やっと目が覚めましたかな? いかがです? 我が娘のお味は」


 アラバスが半笑いで口を開いた。


「味? 味はどうだかわからんが、匂いはなかなか強烈だぞ。ベッドの上にいるだけの暮らしなのだから、それも仕方が無いのだろうな」


 クランプ公爵の眉間に皺が寄る。


「ベッドに縛り付けておきたいほどご執心だとは思いませんでした。それで? 今日は娘に会わせていただけるのですか?」


「ああ、もうすぐ来るはずだ」


 それきりアラバスは横を向いてしまった。

 仕方なくクランプが部屋を見回す。

 近衛騎士が取り囲むように壁の前に立ち、物々しい雰囲気だ。


「お? そちらはシラーズの王太子殿下ではございませんか。ご存じないかもしれませんが、私はカード宰相とは懇意にさせていただいておりましてね、何度かシラーズにも訪れたことがございますよ。王宮に伺ったときにご挨拶申し上げたのはいつだったでしょうか? もう随分前のことでございますので、お忘れのこととは思いますが」


 シラーズ王がニヤッと笑った。


「ああ、あなたがクランプ公爵だったか。名前だけは覚えているさ。あなたのことは宰相から聞いているよ。我が父がすまなかったね。まあ誘ってきたのはそちらの細君だったそうだが、それを受け入れた方も悪い。あれからあなたは再婚なさったのかな?」


 クランプ公爵がグッと奥歯を嚙みしめた。

 アラバスが口を開く。


「シラーズ王はクランプをご存じでしたか?」


「いえ、顔は知りませんでした。挨拶をしたと言っていましたが、全く記憶にはありませんね。したとしても私が三つかそこらの頃ですし。私が知っているのは彼が細君を連れてわが国を訪れた時、その細君が父王に夜這いをかけてきたということだけです」


「夜這いだと! 無理やり奪ったのだろう! 彼女は私に惚れていたのだ! 返せ! レイラの母親を返せ!」


 シラーズ王が驚いた顔をした。


「なんと! お子までなしておられたか。ではなぜ無理にでも連れ帰らなかった? 宰相は帰国するよう説得したが、本人の意思でわが国にとどまったのだと言っていたが?」


「無理やり監禁したのだ! 雀の涙のような詫び金で私たちを引き離したのだ!」


 その時ドアが開いてアダム・カード元宰相が入ってきた。


「相変わらずのようですね、ワンダリアのクランプ公爵」


「き……きさまは……カード」


 そこまで言うと、目だけを動かして周りの様子を窺い始める。


「なあクランプよ、お前は妻を餌に貿易路を開いたらしいじゃないか。まあ、金額も大したことないし、貿易品も大したことないから放っておいたが、お前の妻の実家はどこだったかな? 忘れたなぁ」


 ワンダリア王がとぼけた声で言った。


「我が妻はレブン伯爵家の娘ですよ」


 吐き出すように返事をしたクランプにカーチスが言う。


「レブンって辺境領の近くに領地を持っていたあのレブンかい? あそこには子供はいなかっただろ? だからあなたが領地を買い取ったじゃないか。つい最近調べたから間違いない」


「養女です。レブンの養女になり私に嫁いできたのですよ。今更なんですか? もう二十年以上も前の話だ」


「レブンは跡継ぎにしようとわざわざ養子にした娘を嫁がせたのか? 俄かには信じられんな。それとも最初から領地を買い取る約束で養子縁組をさせたのかな?」


 そう言ったアレンの顔を睨むクランプ公爵。


「君はアレンといったかな? ラングレー公爵家の三男か? 生意気な口をきくな! 私は公爵家の当主だぞ!」


 クスッと笑ったアレンが、泣きまねをしながらラングレー宰相に駆け寄った。


「父上ぇぇぇぇ~僕が三男だとバカにされましたぁぁぁぁえんえんえんえん」


 泣きまねをするアレンに、クランプ公爵以外の全員が吹き出している。

 ラングレー宰相が笑いを堪えながらクランプ公爵に向き直った。


「我が息子が失礼をしたようだ。ではここからはワンダリア王国筆頭公爵家当主である私がお相手いたそうか? 息子にしておけばよかったと後悔しても知らんぞ?」


 物凄い威圧である。

 クランプ公爵が数歩後退った。

 詰め寄るようにラングレー宰相が一歩前に出る。


「君は当時、旅芸人の女に入れ揚げていたよなぁ。有名な話だったから覚えているものも多いだろう。しかし家のためにすっぱり別れて、レブン伯爵家の一人娘を迎えたのだったな。確か子供が二人できたら一人をレブン家に戻すという約束だったはずだ」


 クランプが宰相をギロッと睨んだ。


「妻は娘を産んだ翌年に亡くなったんだ。だからレブンの領地を私が買い取ったのさ。あんな二束三文の土地を高額でな! レブンたちがどこに行ったのか知らん」


 父の後ろにわざと隠れているようなふりをしながら、アレンが強烈な一言を放つ。


「高額なんて噓だ! 知ってるぞ! 娘の不貞を理由にタダ同然で取り上げたんじゃないか」


 追い打ちをかけるように、後ろから声を出したのはカード元宰相だった。


「ああ、あれは産後一年のことでしたか。それにしては美しいボディーラインをキープしておられましたね。我が王などイチコロだった」


「うるさい!」


 クランプ公爵が声を荒げる。


「そのまま半年ほど滞在され、あなただけが帰国なさった。まあ、お腹が随分膨らんでいましたし、何より奥様が帰りたくないと仰いましたからね。その足で奥様のご実家に寄られたのですか? レブン伯爵ご夫妻は気の毒な事だ」


 アラバスがふと顔を上げた。


「なあクランプ、お前の妻だった女性は旅役者だったそうじゃないか。もしかすると踊り子だったのではないか?」


 アラバスの声に顔を上げたのはシラーズ王だった。


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