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 彼らが作った暗号文は、理解すれば単純だ。

 まず、単語を縦に書き並べ、その横に三つの数字を書き入れる。

 一見無作為に見える単語を上から順に、一行目は一文字目、二行目は二文字目というルールで書きだすと、解読に必要な本の題名が出てくるという仕組みだ。

 あとは、羅列してある数字だが、ひとつ目がページ数、二つ目が行数、三つめが指定する単語の位置だ。


 例えば『Lady』という本を示すときは、一行目に『Lily』二行目に『Man』三行目が『Dad』で四行目に『Baby』と書く。

 指定した本を使い、ページ数と行数そして左から数えた単語の位置を数字で表すのだ。

 例えば『21-14-3』であれば、21ページの14行目、左から三つめの単語である。

 これを考案したのは当時六歳のアラバスで、ブラッシュアップしたのがトーマスとアレンだった。


 カーチスが連れてきた鷹に暗号文を括り付け鷹匠に託す。

 鷹匠は何やら呪文のような言葉を鷹に聞かせて、アラバスの執務室の窓から放った。


「今のは鷹語?」


 子供のような質問をするカーチスに、鷹匠が丁寧に答えた。


「誰の元に届けるのかを伝えるのですよ。アレン・ラングレー様宛でしたよね?」


「うん、そうだよ。国外でも大丈夫なの?」


「はい、近隣であれば問題ありません。今飛び立った子は、バッディ王国だけを覚えていますから」


「へぇ、国によって鷹が違うんだ……いやぁ、勉強になります」


 素直なカーチスにニコッと微笑みかけて鷹匠が去って行った。

 ふと思い出したようにトーマスが言う。


「なあカーチス、お前って一番可愛いと思う動物って何?」


 アラバスが飲みかけた茶を吹いた。


「動物? 唐突だねぇ……そうだな……カエルかな」


 アラバスがギロッとカーチスを睨んだ。


「もしやお前か? マリアにオタマジャクシを教えたのは」


「ははは! バレちゃった」


「うちの家族はバカなのか? なあ、トーマス……俺はバカ一族なのか?」


 トーマスが困った顔で曖昧に笑った。


「何かあったのか? いやに動物を気にするが」


「ああ、あったぞ。しかしこの秘密は墓場まで持っていく。誰にも絶対に知られたくない」


 丁度その時マリアがやってきた。


「アシュ~、さっき言い忘れたことがあったの」


 アラバスの心臓が大きく跳ねた。


「ど……どうした?」


「今日読んだ古代文字のお手紙のことだよ。読める単語だけを拾って言ったけれど、その単語の間には意味のない文字がたくさんあったの。意味がある言葉は古代文字みたいだけれど、古代文字じゃないの」


「どういうことだ?」


「だからぁ、単語を拾っていけば誰でも読めるの。古代文字に交ざっているからわからなかったでしょ? あれは帝国語だったよ」


 トーマスがポンと手を打った。


「そういうことか。ハナから古代文字だという先入観を持っていたからいけなかったんだ。そうだよな……おかしいと思ったんだ。ダイアナがヒワリ語の古代文字を読めるなんてあり得ないだろ?」


「あり得るかどうかはわからんが、確かにお前の言う通りだな。俺もあれを見て読む気になどなれなかった」


 トーマスがニヤッと笑う。


「僕たちが作った暗号の方が遥かに巧妙だよ。真剣に読もうとすれば気づいただろう」


「そうだな。しかし盲点だった。古代文字はわからないと思った瞬間、検閲官でさえ読むのを放棄するだろう」


「使えるね、この手」


「ああ、面白くなってきたな」


 アラバスとトーマスが悪い顔で笑い合っている横で、カーチスとマリアがオタマジャクシの飼育について真剣に話し合っていた。


「じゃあね~、今からパパとママとおばちゃまでお茶なの。マリア帰るね」


 ドアを開けると、侍女長と騎士が迎えに来ている。

 マリアの護衛体制は万全のようだ。

 アラバスは、また先ほどと同じ要求をされるのではと気を揉んだが、マリアは何も言わずに去って行った。


「覚悟を決めれば肩透かしだ。本当に小悪魔のような女だな」


 意味の分からない二人は顔を見合わせて肩を竦めた。


「トーマス、この手紙を架空の遠国から届いたように細工をしてくれ。検閲官を通して、俺の手元に届くように手配して欲しい」


「了解」


 その日のうちに正規ルートで届いたように手配をしたトーマスは、アラバスと一緒にその手紙が届くのを待っていた。

 

「そろそろだな」


「ああ、罠に嵌ってくれるのを祈ろう」


「しかしあの侍従長が『草』だったとはな……それにしても、彼はマリアの秘密を知っているだろう? なぜそれを報告しない?」


「……本人に聞くしかあるまい」


 そう言っている間に侍従長が銀の盆に手紙を載せて、執務室のドアを叩いた。


「入れ」


「第一王子殿下、ヘルパニアという国から親書が届いております」


「ヘルパニア? えらく遠い国から来たものだ」


「検閲は済ませておりますが、読めなかったという報告です。毒や刃物といった危険はありませんでした」


「ああ、かの国は変わった言語を使うと聞いたことがある。こちらへ」


 アラバスが封を開けて声を出した。


「こりゃ俺も読めんぞ。恐らくヒワリ語だな。ヒワリ語といえば、マリアが習っているらしいじゃないか。ラングレー夫人から、君の息子が家庭教師をしていると聞いたが?」


 侍従長の肩がビクッと揺れたのを二人は見逃さなかった。


「すまんが、息子殿を大至急登城させてくれ。読めないのでは返事も出せない」


「か……かしこまり……ました」


「大至急頼む」


 侍従長が退出すると、二人はホッと息を吐いた。


「来るかな」


「来ないわけにはいかないだろう」


 アラバスがニヤッと笑う。


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