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「でもなぜ十日も時間が必要なのかしら?」


 ラングレー宰相が声を出した。


「ラランジェ王女殿下が不在だからでしょう。彼女は今、王宮の医務室に入院しています」


「ああ、なるほど。退院予定が十日後ってことね?」


 一週間の猶予が十日になっただけで、急ぐことに変わりはない。


「客人とはいえ王族の退院日まで知っているとなると、かなり中枢にまで潜り込まれているということだわ。まずは草刈りね」


「バッディの王太子にはアレンから真相を伝えてもらう手筈を整えていますが、時間が必要です」


 トーマスの声に国王が頷いた。


「アラバス、その手紙は誰が持ってきたのだ?」


「侍従長です」


「彼に指示をしていたのか?」


「いえ、依頼していたのは侍女長で……もしやお疑いですか?」


「いや、侍従長は親の代から熱心に仕えてくれている男だ。侍女長はカレンが実家から連れてきた優秀な女だしな」


 国王は肯定も否定もしなかった。


「ご教示ありがとうございます。先入観を捨ててもう一度洗ってみます」


 マリアは王妃からお菓子を渡されてご満悦の様子だ。


「じゃあねぇ~アシュ。お仕事がんばれ~。お兄ちゃまも頑張ってねぇ~」


 二人が退出すると、カーチスがすぐに追いかけてきた。


「アレンにはどうやって知らせるの?」


「暗号文を使って鷹を飛ばす」


「なるほど。暗号文ってなんだかカッコいいじゃん」


 トーマスがカーチスの肩に手を回した。


「お前は苦手だったものなぁ。何度教えても理解できなかった」


「僕も知ってるってこと? 王子教育の中には暗号文なんて無かったよ? 王太子だけ?」


「違うよ。子供の頃に四人でやっただろ? スパイごっこ」


「スパイごっこ……ああ、いつも僕が一番に捕まっちゃってたやつ? 懐かしいなぁ」


「あれを使う。アレンなら絶対に読み解くさ」


 アラバスが口を開いた。


「何分でできる?」


「長文になりそうだから一時間は欲しい」


「わかった。カーチス、鷹の準備をするように言ってきてくれ」


 頷いたカーチスが駆け出した。

 それを見たアラバスが言う。


「俺はマリアのところに行く。ヒワリ語の偽手紙を準備して罠を張ろう」


「了解。では一時間後に」


 二人は分かれて足早に去って行った。

 アラバスが訪れると、マリアはラングレー夫人と一緒に本を読んでいた。


「あ~アシュ。どうしたの?」


「ちょっと聞きたいことがあってな。マリアはヒワリ語を書けるかな?」


「うん、書けるよ」


「では、俺が書いた文章を、ヒワリ語で書き直してくれ」


 マリアがニコッと笑って立ち上がる。

 花やぬいぐるみがたくさん置かれた机に座り、アラバスが書く文章を覗き込むマリア。


「これを頼む」


「合点承知の助!」


 アラバスが眉をひそめた。


「なあマリア、お前にそんな言葉を教えるのは誰だ?」


「パパだよ? パパのお話はとっても面白いの」


「あのロリコンオヤジが……」


 マリアが翻訳にかかっている間、アラバスはラングレー夫人に問いかけた。


「夫人、マリアにヒワリ語を教えている家庭教師は誰の紹介でしょうか?」


 ラングレー夫人は、なぜそれを知らないのかというような顔で答えた。


「私はアラバス殿下もご承認だと聞いておりましたが。侍従長ですわ。彼の息子さんだと聞いています」


 アラバスは大きく溜息を吐いた。


「そうですか。では私が聞き漏らしていたのでしょう。マリアの習得が異常に早いような気がしますが、彼は何か特別な授業を?」


 ラングレー夫人が声を潜める。


「何度か同席したのですが、とてもじゃありませんが面白い授業ではございませんでした。ただ淡々と単語を書き取らせて意味を説明するだけです。文法はわが国と同じですので、単語さえ覚えてしまえばなんとかなるという教え方ですわ」


「なのにマリアはすでに習得したということですよね?」


「それは偏にマリアちゃんの優秀さ故ですわ。彼女は一度聞いたことは、ほぼ覚えていますから。敢えて言うなら体の使い方が課題でしたが、今では問題ありませんし。本当にマリア嬢という方は大変に優秀な方だったということでしょうね」


 死んだように言うなとは思ったが、アラバスは数秒目を閉じるだけで聞き流した。


「できたよ、アシュ。古典文字だとわかり難いから、現代ヒワリ語にしたけど良かった?」


「俺は読めないんだ。間違っていないか?」


「大丈夫と思うけど……おばちゃまに確認してもらう?」

 

「ああ、マリアにヒワリ語の習得を勧めて下さったのは夫人でしたね」


 ラングレー夫人がにっこりと笑い、アラバスの書いた文章とマリアの翻訳文を見比べた。


「完璧です。私よりもずっとお上手ですし、字もとってもきれいですわ」


 頷いたアラバスがマリアの頭を何度も優しく撫でた。


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