表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/95

62

 騎士がドアを開くと、鉄の匂いのする湿った空気が一気に流れ出してくる。


「ドニー!」


 両手を縛られたまま、騎士を振り切ってぐったりと椅子に座る息子に駆け寄るカード宰相。


「父上? なぜここへ?」


「もう全部終わったんだ。お前こそなぜこんな姿になっているんだ」


「父上の指示通りに動いたつもりだったんだ。でも……」


「私の指示とはどういう意味だ? 私がお前に命じたのはラランジェ王女の護衛だけだ」


 片耳を覆うように包帯を巻かれたドナルド・カードが顔を上げた。


「え? だって……予定が変わったって……伝達が来たんだ。父上の指示だと……ちゃんと符号も持っていたし、合言葉も合っていた」


「私はそのようなものを出してはいない」


 アラバスの顔を見て頷いたトーマスが口を開いた。


「伝達が来たと言ったか? 手紙ではなく人間が来たということだな?」


 もうすっかり諦めたのか、ドナルドが素直にうなずいた。


「ええ、符号と呼んでいる札を出したうえで、確認のための合言葉を言ったので、間違いないと思って……」


「それは男か? それとも女?」


「男です。その時はワンダリアの侍従の制服を着ていましたが、学者のような姿だったり、騎士の格好をしていたり、その時によって違いましたが」


「それで? その男になんと指示された?」


「予定変更だと言われました。マリアの抹殺に失敗したからだと言ったので、なるほどと思ったのです。しかし、ラランジェも消すようにと言われたときは、さすがに耳を疑いましたが、妹のことをチラつかせてきたので、従うべきだと思いました。それに、その男は『このことは宰相も納得している』と言ったのです」


「その者の名前は?」


「本名は知りませんが、自分ではバッカスと名乗っていました」


「バッカス? ふざけた名前だな」


「そのバッカスから、レザード・タタンを消して姿を消せと指示があったのです。ラランジェは自分が消すからと……」


 アラバスが声を出した。


「どこへ逃げる気だったのだ?」


「西の国です。妹を解放すると言われて、その時に父も合流すると」


 ずっと黙っていたカーチスが声を出した。


「ねえ宰相……いや、元宰相か。納得した?」


 カード元宰相がうな垂れた。


「結局我々は捨てられたということですね。それが私のような『草』と呼ばれるスパイの運命なのでしょう」


 アラバスが声を出す。


「草か……何もなければその国で子孫を儲け、そのままその国で朽ち果てていく定か。わが国もその草は存在するのか?」


 一瞬躊躇ったのち、溜息のような声で答えた。


「いると思いますよ。我々は互いのことを知りません。また、知っていたとしても、その任務までは知り得ないのです。ある者は貿易を進めるためだし、ある者は市場のかく乱だったりします。私のように開戦のきっかけを作るという者もいたはずです」


「西の国は何を企んでいるのだ?」


「帝国化ですよ。何代か前に解体された西帝国の復活を悲願として、解体直後から草を放っているのだと聞いたことがあります」


「今の国王は旧帝国皇帝の末裔か?」


「はい、本人はそのように言っています」


「なるほどな」


 カーチスが再び口を開いた。


「今の国王は変態だと言っていたな。息子はどうなのだ?」


「王太子も同じようなものです。生まれた時から帝国の復活だけを聞かされて育っていますからね、自らを皇帝になる者と信じ切っています」


 カーチスがアラバスの顔を見た。


「その変態ジュニアがラランジェに懸想したのが、ことの発端なんだってさ」


「なんだと?」


 詳しい話をするために、三人はカード親子を連れて会議室へと移動した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ