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「なるほど……三つ巴にさせて国力を下げ、自らが頂点となる帝国化を狙うという目論見か」


 状況の説明と、アラバス達の見解を聞いた国王はそう口にした。


「帝国化ですか。海には一番遠く、平野もあまり持たない西の国が、大きな賭けに出たわけだ。争わせておいて、ある程度のところで仲裁に入ろうという魂胆ですね」


 アラバスがそう言うと、王妃が口元を扇で隠しながら低い声を出す。


「相変わらずやり方が汚いわ。それにしても驚いたわね、あのタタンはシラーズと組んでいたと思っていたのに、まさかのトリプルスパイだったなんて。まあ、余り役には立たなかったみたいだし、最後には切り捨てられる未来しか無かったでしょうけれどね」


 カーチスが聞く。


「どうするの? ダイアナ王女の件はトーマスが確認するとして、もし黒なら?」


 アラバスが答える。


「バッディの王太子のレベルによるな。シラーズに関しては留学していたから何度も会っているし、ある程度は把握できるのだが」


 トーマスが口を開く。


「バッディの王太子はなかなかの切れ者だよ。国王の暴走を止めなかったのも、タイミングを図っていたのだと思う。頭は良いが、腹は黒いというタイプかな」


「わが国と同じってことか。それなら話が通りやすいな」


 アレンの言葉にアラバス以外の全員が頷いた。


「どうするつもりだ? まさか三国同盟か?」


 国王の言葉にアラバスがゆっくりと頷いた。


「ええ、三者会談を設定するつもりです」


 王妃がフッと息を吐く。


「そうね、ワンダリアとシラーズとバッディは、互いに国境を接しているのだから、互いのために協力するのは当然だと思うわ。三者会談はアシュが主催?」


 アラバスが頷いた。


「三国の国境が接している場所に城を構えているのはわが国だけです。その辺境伯領に招くのが良いと思います。それと、母上まで俺をアシュと呼ぶのはやめてください」


「却下」


 国王がすかさず声を出した。

 その場にいる全員が、辺境伯領での会談が却下なのか、アシュと呼ばないでほしいという望みが却下なのか判断できなかった。


「コソコソする必要は無いぞ。むしろ戦端の言い訳に利用されるかもしれん。堂々と我が城に招待しなさい。タヌキもキツネもイタチも揃っているんだ。それぞれの飼い主に迎えに来てもらおうじゃないか。それと、カレンがアシュと呼びたいなら、お前は受け入れなさい。ついでに私もそう呼ぶことにする」


「いや……父上……それは」


「なんだ? これ以上良い意見があるのか?」


「いえ、そちらは何の異論もございません。安易にお互いが近い場所でと考えた自分の浅知恵を反省しております。それではなく、呼び名の方ですよ」


「呼び名? アシュはアシュと呼ばれるのが嫌なのか? では仕方がないな、マリアにも二度とそう呼ぶなと言い聞かせておこう」


「マリアは良いのです。むしろそう呼ばれたいし。でも父上と母上まで……」


 アラバスが珍しいほどおろおろとしている。

 大親友の二人は面白がっているのが丸わかりだ。

 唯一の味方になるだろう弟に視線を向けたアラバス。


「アシュ兄さんか……可愛いね。冷徹なイメージが払拭できて良いんじゃない?」


「カーチス……お前もか」


 どこかで聞いたようなセリフを吐いたアラバスが、恨みがましい目で両親を見た。


「諦めなさい」


 スパッと話を切ったのは王妃陛下だった。

 諦めたわけではないが、話し合いを優先するためにアラバスは話を変えた。


「まずはシラーズとバッディの国王交代ですね。それが終われば、両国の国王を正式に招待するという流れでどうでしょう。祝いの席という言い訳も使えます」


 国王が満足そうな顔で頷いた。


「新国王の誕生か。そうだ、この際うちも交代しようか。私はカレンとマリアと一緒に子育てに専念しよう」


「それこそ却下です」


 かぶせるように言ったのはアラバスだった。

 悲しそうな国王を宥める王妃。


「アレン、お前がシラーズに行け。できるだけ早急に王位を簒奪できるよう手助けをするんだ。そしてバッディにはカーチスに行ってもらう。トーマスはダイアナの動きを封じるという役目があるから、ここに残す」


「わかりました」


 二人は即座に頷いた。


「俺は三国同盟の条件や協定内容の策定に入る。達成期限を決めよう」


 国王が軽い声で言った。


「タヌキとイタチの親だろう? 三月もあれば十分だ」


 アレンとカーチスはぐっと歯を食いしばったが、反論はしなかった。


「ではそれぞれ健闘してくれ。情報の共有は必ずおこなうこと。それとアラバス、協定内容の策定は私と宰相も入るから、できるだけ早急にたたき台を作れ。トーマスも手伝うように。いいな?」


「畏まりました」


 鷹揚に頷いた国王が王妃に手を差し出した。


「ではカレン、かわいいマリアの見舞いにでもいこうか」


「ええ、喜んで」


 二人が退出した執務室に残った四人は、半ば呆然とその後ろ姿を見送っている。


「なあアラバス、マリアちゃんの状態が漏れないように戒厳体制を敷いているのだと思っていたが、どうやら違うようだな」


「ああ、あの二人の豹変ぶりを隠すためだ。母上はともかく父上までも堕とすとは……恐るべしマリア」


 兄の言葉に弟が続ける。


「しかし、さすがラングレー宰相だね。城と王族居住地の間の塀も高くなっていたし、門には今までの倍以上の兵士が配置されていたもん」


 トーマスがカーチスに言う。


「しかし外部からの侵入や情報漏洩はできても、離宮みたいに居住区と繋がっているところへの対策にはならないだろ? 今使用されているのは北の離宮だけだが、湖を迂回すれば居住区に入れる」


 カーチスが、何でもないような顔で言った。


「そこの対策も万全だったよ。人が通れそうな小道や獣道には罠が仕掛けられていたし、馬車の通り道は完全封鎖されて有刺鉄線のバリケードが設置されていたよ」


「有刺鉄線……まあ、それは良いとして、罠とはなんだ?」


「罠は罠だよ。タヌキとかの動物を捕獲するときに使うだろ? 箱罠って言うんだっけ? あれの人間版さ。餌はドレスとか宝石とかトレンドのお菓子とか使ったみたいだね」


 アレンがプッと吹き出した。


「マジか? そんなのにかかるわけ無いだろ? 洒落にもならんぞ」


「いや、二度ほどかかったらしいよ」


 三人が一斉にカーチスの顔を見た。


「最初はドレスで二回目は宝石だったんだってさ。さすがラランジェだよね」


「ラランジェ……あほか」


 その呟きは、広い執務室で妙に響き、四人は窓の外に広がる王族の森に視線を投げた。


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