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「マリア、調子はどうだ?」


「アシュ~ やっと会えたねぇ」


「どうしたんだ?」


 ニコニコと笑うだけのマリアの横で、メイドが口を開く。


「お目覚めになってからずっと殿下をお探しでした。朝食も一緒じゃないといらないとのことで、まだお召し上がりになっていません」


「食べてないだと? お腹が空いてないのか?」


「欲しくないの……アシュに会えないから胸がモワモワすると思う」


「マリア……そんな可愛らしいことを言わないでくれ。俺の精神が崩壊しそうだ。でも食事はきちんと摂らないとダメだぞ?」


「アシュが食べさせてくれる?」


 妊娠の影響なのか、朝から漂っているただならぬ気配が不安にさせるのか、幼児返りしたようなことを言いだすマリアに、アラバスは戸惑いを隠せなかった。


「よし、わかった。俺が食べさせてやるから、ちゃんと食べなさい」


 頷いて部屋を出たメイドが、軽食をもって戻ってきた。


「ほら、マリア。ナイフはどちらで持つんだ?」


「こっちぃぃぃ」


 右手を突き出す。


「そうだ。えらいぞ。ではフォークは?」


「こっちだよぉ」


 今度は左手を突き出した。


「そうだ、マリアは自分でできるかな?」


「できなぁ~い。アシュがしゆ」


 困った顔で笑うアラバスを、メイド達が微笑ましそうに見ている。


「仕方がないな。今日だけだぞ?」


 ミニトマトを半分に切り、口元に運んでやるとパクッと食いつく。

 アラバスはそんなマリアが愛おしくて仕方がない。


「さあ、今度はブロッコリーだ」


「これはアシュが食べゆの!」


「あっ! 好き嫌いはダメだ」


「嫌のの! これは苦くて緑色の味だから嫌いのの!」


「緑色の味? ああ、青臭いということか」


 マリアがキョトンとした顔でアラバスを見た。


「青臭いってこんな味なの?」


「そうだな、緑黄色野菜はこんなものだ。匂いも葉っぱをちぎったような感じだろ?」


 何かがマリアの中でストンと落ちたようだ。

 ニコッと笑ってアラバスに抱きつくマリア。


「おいおい! どうした?」


「アシュ~大好きぃ。だいだいだいだいすきぃぃぃ」


「マリア?」


「マリアはね、青臭いお野菜は嫌い。茸は生臭いから嫌い。トマトは酸っぱいけど好き。人参は甘いから大好きぃ。でもね、アシュのことはもっと好き! だぁい好き! 一番好き!」


「あ……ありがたいが……野菜と同列に語られるのは……まあ、いいか。俺もマリアが大好きだぞ。一番好きだ」


「わぁあい! アシュとマリアは両思いのラブラブだね!」


「両想いのラブラブ……誰に習った?」


「ママだよ」


「あのババア……」


 カーチスが戻ったと知らせが届き、アラバスが立ち上がる。


「ちゃんと食べなさい。俺は仕事だ」


「うん、わかったぁぁぁ」


 殺伐としていた気持ちがきれいに無くなっていることに気づいたアラバスは、フッと息を吐いて執務室へと向かった。


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