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 テーブルゲーム室で、護衛騎士からの報告を受けて笑いを嚙み殺していた時、再びドアが開き、湖畔の林に潜伏していた騎士が入ってきた。

 ラランジェ王女一行を監視していたその者の報告を聞いたアレンが溜息を漏らす。


「結局、狐族も狸族も思考の傾向は同じなんだね。何がドラマチックだよ。バカバカしい」

 

「全くだ。俺をなんだと思っているのだろうな」

 

 アラバスが苛立ちを隠さないで吐き捨てた。


「まあまあ、気を取り直して再開しよう。このままではアラバスの一人負けだ」


 アラバスが片眉を上げる。


「お前たち、今日というハレの日を迎えた花婿を祝福しようという気は無いのか?」


 ほぼ同時にアレンとトーマスが声を出した。


「「無いね」」


「フンッ!」


 テーブルに置かれていたカードをアレンが集め、シャッフルを始める。


「なあ、本当に今日から夫婦の寝室を使うのか?」


 チラッとトーマスを見てからアラバスが答えた。


「何処に目があるかわからんから一緒に部屋には入るが、内扉からマリアは自室に戻らせるつもりだ。ベッドに細工をしたら、俺も自室で寝るよ」


 何も言わずにトーマスが小さく息を吐いた。

 

「失礼します。お耳に入れた方が良いと思いまして」


 入ってきたのは先ほど花束を受け取った侍従の同僚だった。


「何事だ?」


「先ほどのバラに悪臭を放つ虫がおりました。故意なのか偶然なのかはわかりません」


 アラバスが深いため息を吐く。


「やることがいちいち姑息だよなぁ。害は無かったか?」


「はい、健康被害は今のところございませんが、なんせ酷い匂いでして。受け取ったものは着替えさせております」


「もしかして、カメムシ?」


 アレンが聞くと、侍従が頷いた。


「はい、体が緑色の小さいものがごっそりと潜んでおりました」


「うわぁ! 最悪! バラはどうしたの?」


 侍従がアラバスの顔を見た。


「今は首元まで水に浸けて虫退治をしております」


「欲しいという者がいれば下げ渡せ。残るようなら焼却処分だ」


「畏まりました」


 ふと思い出したようにアラバスが聞く。


「そう言えば、マリアは大人しかったなぁ。どうやって言い含めたんだ?」


 トーマスが肩を竦めた。


「ラングレー夫人だよ『誰が一番お喋りを我慢できるかゲーム』だそうだ。マリアが言うには信じられないほどの豪華な褒美が出るらしい」


「なるほど、ゲームか。うまいこと考えたな」


 感心するアラバスにアレンが顔を向ける。


「僕も兄たちもやらされてた。とにかく声を出したら負けなんだ。勝者は敗者の夕食メニューから、好きなものを一品強奪できる」


「夕食のメニュー? なかなかよく考えられたゲームだな。マリアの褒美ってなんだ? 信じられないほどの豪華な褒美とまで言うのだから、夕食の一品ではあるまい? 宝石かドレスだろうか」


 トーマスがへにゃっと笑った。


「いや、今のマリアにとってはもっと素敵なものだよ」


「なんだ?」


「スミレの砂糖漬け。一瓶丸ごと貰えるらしい」


「安っ!」


 三人は声を出して笑いながらゲームを再開した。

 一方、初夜の準備という名目で部屋に戻ったマリアは、メイド達を大いに困らせていた。


「こっち! これがいいの!」


 どうやら今日の夜着で意見の食い違いがあるようだ。


「マリア妃殿下、これは本当の初夜の日までとっておきましょうね」


「いやだっ! このピンクが好きなの!」


 ゲームが終了し、見事スミレの砂糖漬けをゲットしたマリアがごねている。


「こちらは少々刺激的ですわ。これほどスケスケだと風邪をひいてしまいます」


「風邪? じゃあなぜ引き出しに入っているの?」


「それは……」


「だって風邪を引くようなお寝間着なんて意味がないじゃない?」


 ラングレー公爵夫人の努力により、気を抜かない限り子供言葉は使わなくなっていた。


「えっと……もちろん意味はあるのですが……マリア妃殿下にはまだ早いと申しますか……」


 しどろもどろの侍女に小首を傾げるマリア。

 仲裁に入ったのはラングレー公爵夫人だった。


「まあ良いじゃないの。一緒に寝るわけじゃないのだし、寒いようならもう一枚羽織ればいいわ」


 頷いた侍女は、マリアが放さない薄いピンクのスケスケセクシーベビードールのネグリジェとお揃いの下着を持ってバスルームへと向かった。


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