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 それからのアラバスの動きは、まさに電光石火だった。

 国王には爆笑され、王妃には呆れられ、弟にはロリコンと罵られたがメゲなかった。

 今日は大司教の秘書を呼び出して、婚姻式の打ち合わせをすると張り切っている。

 朝からため息ばかり吐いているトーマスの横にアレンが座った。


「どうやらご本人さんも気づいてないみたいだけれど、アラバスってマリアちゃんにべた惚れなんじゃないか?」


「違うと思うぜ? きっとラランジェ王女を牽制したいだけだろう。シラーズ王国は海戦には強いが、歩兵は弱い。我が国との協定は絶対に欲しいはずだ。何が何でもアラバスを落とすつもりだろう」


「ああ、分かり易い行動だが……シラーズが西の国と開戦したのは二年前だろ? そろそろ両国ともに疲弊してきているはずだ。もしかしたら西の国からも何らかの打診が来るかもな」


「アラバスは非戦主義だ。シラーズ王国とだけ協定を結ぶのを良しとはしないだろう」


「うん、それはその通りだろうね。しかしシラーズ王国もうちの王子を堕としたいなら、もっと良いタマを送り込まなきゃダメだろ。あの王女じゃ恋仲どころか国交断絶を考えてもおかしくない」


 トーマスがブホッと吹き出した。

 アラバスは披露宴に招待する客人の選定に忙しいらしく、側近たちの話など聞いていない。


「だからこそ心配だよ。三歳児のマリアに王子妃なんて無理だよ」


 アレンが肩を竦めた。


「そろそろみんなの足も限界みたいだし。今夜にでもやるか」


 トーマスは返事をせずに溜息を吐いた。

 アレンの指示通り、マリアの前に立つ者は男女問わず、あの日からずっとソールの厚みが十センチもある靴を履かされているのだ。

 護衛騎士達はそもそもが長身なので問題ないが、侍女やメイドは脹脛が攣ると嘆いているらしい。

 そんな幼稚な作戦でも『ある日突然大きくなる』という刷り込みがなされたマリアには有効なようで、これほど自分は小さかったのかと認識させることに成功していた。


「まあマリアは元々が小柄だから通用するようなものだが……メイド達の為にも早い方が良いだろうな」


 アレンがパンッと手を打った。


「でもさぁ侍女長からは好評なんだ。メイド達の足さばきが優雅になったってね。王妃陛下なんてドレスの長を直してまで協力して下さっているのだから、必ず成功させないとね」


「不安しかない……」


「あの王宮医もノリノリだぜ?」


 成長の祝福を受ける日、言い換えれば関係者がハイヒールの刑から解放される日に、王宮医が準備する無害の睡眠薬をマリアに投与することになっている。

 ご丁寧に睡眠にスリープラーニングの準備までしているというのだ。


「後は神のご加護だけだな。しかし、やっと子供になれたのに、また教育が始まるんだなぁ」


「時間をかけてゆっくりだろ? 幼児教育から始めるらしいぜ?」


 トーマスが顔を上げた。


「そうなの? 誰に聞いた?」


「最初の家庭教師になる予定の夫人だよ」


「え? もう決まってるの? 聞いてないぞ」


「うん、まだ打診の段階だからね。でも受ける気満々みたいだ」


「誰だ?」


「僕の母親」


「ラングレー公爵夫人? マジか」


「秘密を知る者は少ない方が良い。そして信頼できるものでないと務まらない、適任だろ?」


「そりゃそうだが」


「まあ任せとけって。それよりお前は早く西の国のレポート纏めろよ」


「ああ、そうだな。最優先で進めるよ」


 仕事の話に戻った二人は、真剣な眼差しを取り戻した。

 一方アラバスは、まだ招待客候補リストとにらめっこをしている。

 アレンには『マリアにぞっこん』と評されたアラバスだが、本人にその自覚は全くない。

 とにかく群がる女たちを一掃し、国政に邁進できる環境を整えることで頭が一杯なのだ。


「兄さん、ちょっといい?」


 マリアと同級の第二王子カーチスが執務室に顔を出した。


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