死の舞踏の踊り手
先に下りた坑道掘削チームの後を追い、ミサゴ達を乗せた探査ポッドが岩盤を溶融させて指定された座標を目指す。 既に地中間無線通信システムが確立されているおかげか、通信が突然途絶するようなこともなく、地の底で孤立化する危険も今のところは無い。
責任重大な任務へ向かう途中だというのにどこか緩い雰囲気が漂う中、ジッと四つ足の威容を眺めていたミサゴがふと素朴な疑問を口にした。
「ところでランパートさん、何故貴方はハイヴに協力してくれるんです?」
低知能の雑多なイミュニティ共にしろ、生意気にも知恵を付けてきた化け物にしろ、フラクタスに住まう生き物達が揃って共通していたのは、人間に対する異常なまでの敵意。
先に接触した化け物共のせいで学ばされてきたよくない経験から、ミサゴは宇宙からの来訪者たる異形を横目で見る。 人をただ見るにしてはあまりに鋭い目付きだが、睨みを効かされた異形は身体を揺すって不敵に笑い、ミサゴの隣に座っていたアイオーンへ、眼球代わりに移植されたメインカメラを向けた。
仄かに瞬く暖色の光は、彼の今の精神状態を示すかのように適度に柔らかい。
「恩を受けた以上報いねば恥だろう。 本来であれば某は既に死んでいたはずなのだ」
「死んでいた?」
うむっと、ランパートはギギッと金属が軋む音を立てて頷くもそれ以上の説明はしない。 すると見かねたエスタトゥアが眉間に手を当てながらも、渋々ながら代わりに説明を勝手出る。
『お前が馬鹿な真似をやったんで迎えを出した時だ。 救助班と共に派遣された調査チームが虫の息だったコイツを回収したのさ。 ほとんどの臓器を入れ替える羽目になったが、死ぬよりはずっとマシだろう』
「なんだそりゃ、まさか同意抜きでそんなことやったのか?」
『少なくともお前が言えた義理じゃないだろう? ワケの分からない理屈で甦ったラッキーなお前が』
「……ッ」
地上でやりとりする時とは全く異なる、エスタトゥアの冷たい眼差しがミサゴの自尊心を抉る。
人間は一度死んだらそれまで。
どれだけ望まれようと生き返ることはない。
なのに何故お前だけがこうして息をしているのか。
今まで眼前で死んでいった人々に耳元でそう囁かれてるような気持ちが込み上げ、いたたまれない思いがミサゴの中で充満していく。
「俺は……」
「まあそう気を召されるな。 以前強要されたことと比べればずっと人道的故、いちいち気にしておらんよ。 否、むしろ感謝している。 こうやってまた出会いの機会を与えられたことをな」
「……貴方が納得してるなら俺にとやかく言う資格なんて無いさ」
ミサゴの表情が陰ったのを何となく察したのか、フォローするようにランパートが言葉を紡ぐ。 ヒトの基準では普通から程遠い姿で表情も窺えないが、態度や声色は下手な人間よりもずっと穏やかだった。
ポッド内の灯りが、突如不自然な明滅を開始するまでは。
「それに、某が信に値するか証明の機会が来たようだ」
「何だと?」
ランパートの醸す雰囲気が物々しくなった瞬間、ミサゴのアンプ化した左眼の視界が突然“ここでは無いどこか”を勝手に映し出す。 イミュニティかそれとも人間か、誰のものかも分からない骨と肉片が無数に散らばり、血溜まりに沈んだ死体が多数転がる地獄を。
「……ッ!?」
プログラム上のエラーなのか外部からの攻撃なのか、咄嗟に検査コードを走らせて原因を探るも機器に異常は確認されない。 ならば何故? 極度の危機感から引き延ばされた時間の中でミサゴが思案するも束の間、ポッド内にけたたましい警報が鳴り響いた。
「こんな時にSOS? どこの要請か確認して」
「あらやだ呼んでるの到達予定地じゃない。 あと50秒くらいで着くけど準備はいい?」
「勿論、そのために今回俺は呼ばれたんです」
リーブラの指示を受け、コンソールを極太の指でチマチマとつついたゴリアテが呼び掛ける中、ミサゴはグッと両拳を握る。
最早猶予は無い。 即座に敵陣へ殴り込めるよう、各自が有する戦闘用アンプへ次々と火が入り、殺伐とした雰囲気が場を満たす。 さらに今まで鮮明だったエスタトゥアのホログラムが散り散りに乱れ始めたことにより、現在置かれている状況が思わしくないことを誰もが察した。
『どうなってんだこりゃ……。 お前らが向かう座標付近のネットワークがどうもおかしい。 間もなくこの通信も一時途絶える。 とにかく各員死力を尽くして任務に臨むように』
「他人事みたいに言いやがって」
『実際他人事だからな。 文句があるなら生きて還って来い』
香典の準備はしてないからなと、無責任なことを言いながらアバターが消えると、代わりに到着予定地のマップ+作業員の大まかな生存情報が投影される。 血の池のように広がる赤は、甚大な被害が既に広がっている証。
「良かったわね、どうやら穀潰し呼ばわりされずに済みそうよ私達」
「出番なんて無いと思ってたからメイクしてなかったわよワタシ」
「代わりに化け物共の生首でも被っておけばいいわ。 患者もきっと喜ぶでしょ」
ゴリアテの本気で言っているかも分からない戯れ言を聞き流し、ガンロッカーを開くリーブラ。 そして彼女は何を思ったのか、今まで黙り込んでいたアイオーンに視線を向けると、軽く手招きをして誘った。
「こっちにおいでアイオーンさん。 貴女にこれを渡しておくようテスラ氏より指示を受けている」
「これは……」
「先日、上層部から貴女専用の兵器として扱えるよう認可が下りたからさっさと持って行きなさい。 ハイヴが付けた呼称は“ダンスマカブル”意味なら多分そこの物知りな彼が知ってるわ」
貴女が彷徨く度に戦艦の壁を破られては困るでしょ?と、苦笑いを浮かべるリーブラの示す先に置かれていたのは、アイオーンが地下で召喚してみせた魔杖。
アイオーンが自らの意志で、ミューテイトの土手っ腹に突き立てていた恐るべきレリック。
「貴方達の仕事ぶり、じっくりと見せて貰うわよ」
アイオーンとミサゴを鼓舞するリーブラの表情は柔らかく、人見知りをしたように強張っていたアイオーンの表情が微かに緩む。
だが、対するミサゴの心には憤りに近い感情を渦巻いていた。
アイオーンのそばに長く居すぎた故に、彼女を揶揄するような真似を看過できずに。
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