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好奇の対価

 希望と絶望の街、宇宙人の巣窟、砂上の楼閣、そして眠らずの都。 多くの別称を付けられたパンドラシティの空を、巨大戦艦クロウラーズリージョンが悠々と舞う。


 ハイヴの事実上の本拠地であり、フラクタスより掘り出された超技術の寵児でもあるそれは、今日もパンドラシティのあちこちに造られた坑道へ、成り上がりを目指す向こう見ず達を送り込み続けていた。


「武装付き探査ポッド、システム立ち上がってます。 後はクロウラー搭乗まで待機です」

「坑道掘削チーム予定深度まで無事投入完了! 続いて資材搬入チームを乗せた探査ポッドを射出します!」

「第10番坑道保守チームより伝達。 現在、未知物質抽出パイプライン付近にて中規模の群れを形成したイミュニティを確認。 掃討許可願うとのこと。 至急返答されたし」


 蜂の巣よろしく大量の射出口を覗かせる探査ポッド発着所では、多くの人員が課せられた役割関係無く駆け回り、汗水流しながら仕事を回していく。


 普通の日常を生きる人々の戦場。 その頭上を二つの人影が音も無く飛翔し、案内用ドローンに導かれるまま、スタンバイ状態の大型探査ポッドへ乗り入れていった。


「こちら殻入り階位のピルグリム。 要請に応じ参上した」

『ご苦労、謹慎にかこつけた休暇はどうだった? ん?』

『結局ろくでもないことになったのはアンタも分かってるだろ」

『まっ、普段の行いってヤツさ。 あんまり気に病むな』


 アイオーンを伴いポッド内に着地したミサゴは、待ち構えていたエスタトゥアのホログラムに向かってジトッとした非難の視線を投げ掛ける。 相変わらずの無愛想な対応だが、エスタトゥアは予期していた反応だと言わんばかりに意地悪く笑い、腕を組んだ。


『まぁそれはそれとしてだ、今回のシノギは企業の採掘チームと合同で行ってもらう。 キャリア的には駆け出しのお前らには許可されていない、政治的判断が可能な高度な人材を伴ってな』

「高度な人材だと?」


 なんでそんなのを鉄火場に送り込むんだと、訝しげな表情をしてミサゴは問い正さんとしたが、ポッドの格納スペースに繋がる扉から二つの影が姿を表すと咄嗟に口を噤む。


 現れたのは、胸元に天秤のエンブレムが刻まれたどことなく背広めいたデザインのパワードスーツを纏った男装の麗人と、ショッキングピンクに塗り上げられた厳ついアーマーを纏ったオカマ。


 彼らはミサゴとアイオーンの姿を認めると、社交辞令的な笑みを浮かべ二人のそばへと寄った。


「お久しぶりねピルグリム。 しばらく見ないうちにだいぶ箔が付いたじゃない」

「貴女は確か……、リーブラさん?」

「人の名前をちゃんと覚えてるなんて偉いわね。 他のお馬鹿連中はロクに人の顔も覚えないのに」


 クロウラーというより、単なるデスクワーカーとしか思えない華奢な体格をした才媛。 彼女は危険地帯に突っ込んで暴れることしか知らない荒くれ共の愚痴を軽く口にするも、すぐさま本題とばかりに表情を引き締める。


「今回、貴方には私の護衛を勤めてもらう。 本来ならベテランを選別する予定だったけど、ミッションの内容が殊の外複雑でね。 おかしな状況に慣れてる貴方達に来てもらうことになった」

「簡単に言ってくれても困ります。 俺だって好きで妙な事態に巻き込まれてるワケじゃない。 全部不可抗力です」

「でも貴方はまだこうして生きてる。 他の連中なら間違いなく死んでるような状況でもね。 つまり貴方は使える人間として上から見られてるのよ。 もっと胸を張りなさいな」

「それが事実なら喜ばしいですが……」


 それにしては扱いがやたら雑だと、ミサゴは内心不満を覚えながら首を振る。セキュリティの問題故に仕方ないかもしれないが、ハイヴは未だアイオーンに関する仔細な情報をミサゴに渡していない。


 何故彼女を新米同然の野郎に預けたのか、レリックから産まれたこの子を何故他のレリック同様厳重な扱いをしないのか、そもそも彼女の力の源泉は何なのか。 実際分からないことだらけで、ミサゴは少しでも納得して縋れるものが欲しかった。


 そんなミサゴの杞憂を見透かしたかのように、リーブラは即座に二の句を告げる。


「なんにしても、今回の任務は貴方が今まで請け負ってきた任務よりずっと重要な仕事よ。 余計なことを考えず気を引き締めるように」

「……えぇ、分かりました」


 ここまで丁寧にお膳立てされた以上、ミサゴに拒否権など無い。 組織の歯車はこうも不自由なのかと、無愛想な男が無意識に表情を歪めた瞬間、ゴリラのように太い両腕がその首を抱くように締め上げた。


「ンググッ!?」

「ちょっとアンタ! いつまでもしみったれた顔してんじゃないの! ガールフレンドの前なんだからもっとしゃんとなさい!!!」


 アイオーンに見咎められず、ミサゴ自身にも気付かれずに背後に回り込んでいたのは、ミサゴよりも早くメンバーとして招集されたらしきオカマのクロウラー“ゴリアテ”


 ふざけた見た目とは裏腹にテスラにも重用されていた彼(彼女?)はひとしきりミサゴの後頭部へ頬ずりすると、あっさりその身体を解放して健康的な白い歯を見せ付けるよう朗らかに笑う。


「それにラッキーだったじゃない。 綺麗な女の子に囲まれてアンタしばらくはハーレムなんだから」

「え? いやゴリアテさんは……」

「んっ?」

「あぁはい何でもないです」


 これ以上足を突っ込むと面倒なことになると察したミサゴのリスクヘッジは早い。 私情を隠して大人しくゴリアテの主張を呑み込むと、話が拗れないうちに別の話題を振る。


「それで複雑な仕事というのは」

「取り敢えず格納庫を見て貰えば分かるわ。 恐らくそこのお嬢様の方が理解が早いと思うけど」

「……私が?」

「はいはい大袈裟に緊張しないのよアンタ。 誰も取って食おうなんて思わないから安心なさいな」


 いきなり話題の中心へと引っ張り出され緊張した面持ちで俯くアイオーンだが、大らかなオカマは彼女の心をやんわりと落ち着かせると、そのままミサゴ共々格納庫の方へと率先して導いていく。


 うっすらと暗い部屋の中で二人を待ち受けていたのは、分厚い装甲に身を包まれた巨大なケンタウロス型の機動兵器らしきもの。 市街戦用の多脚戦車に雰囲気こそ似ているが、ミサゴが有するデータベースには一切記録がない。


「こりゃまた随分と変な物を引っ張り出してきたな。 開発部がプレゼン用にでっち上げたコンセプトモデルか?」


 備え付けの武装どころか搭乗口すら見つからない謎の兵器を、ミサゴは隅から隅までじっくりと観察するも、サイズと形状的に坑道内での運用は不適だろうという感想しか思い浮かばない。


 何故こんなものを?と当たり前の疑問が口に出かかった瞬間、バタバタと忙しない足音を立てアイオーンがそれに駆け寄った。


「貴方まさか……ランパート君なの……?」

「如何にも、こうしてまた生きてお目にかかれて嬉しゅう御座いますな」

「うぉっ!? 喋れるのかコイツ!?」


 ただの兵器が流暢に喋り出す様を見て思わずミサゴは目を剥くが、以前遭遇した敵が同じように平然と喋っていたことを思い出すと、反射的に拳を握り込んでしまう。 仮にも所属する組織が引っ張り出してきたものに対して迂闊な行動だが、アイオーンがやんわりと手を広げて割って入ると、ミサゴの右腕から顔を出したブレードは溶けるように消えていった。


「大丈夫よピルグリムくん、彼は現地の味方だから。 この前ミューテイトに攫われた時、助けてくれたの」

「助けてくれたってコイツが? いや……、そもそもなんでフラクタスの怪物が俺達の言葉を喋れるんだよ?」

『お前が手当たり次第に拾ってきた玩具のおかげだよ』

「……俺の?」


 何をやったのか皆目見当がつかず困惑するミサゴの頭上から、再び湧き出てきたエスタトゥアの声が降ってくる。 中身が内勤のおっさんとは思えぬ挙動で動き回るホログラムは、当然のように機動兵器の背の上に陣取ると、虚空から呼びだしたホロキーボードをタイプしつつ話を続ける。


『お前が地下から回収してきたデータを精査したら現地人共の言語集らしきファイルが見つかってな。 新しいコミュニケーションツールとして応用させて貰った。 世界中のマイナー言語引っ掻き回して、参考になる文法構造を探すのは難儀だったぜ』

「なんでアンタが偉そうなんだよ」

『そりゃ俺もあのクソハゲにデータのクラックを手伝わされたからな』


 手間の割りには大した稼ぎにはならなかったと、愚痴めいた独り言を零すネカマ。 その話が途切れたところで、今まで黙っていた怪物が雄々しく野太い声を響かせる。


「改めて名乗らせて貰おう。 某の名はランパート。 つい最近までは宮を護る兵として勤めていた。 あのムシに掻っ攫われる前までは」

「つい最近までだと? まさか……」

『そうだ、今回の探索では滅亡していない高度文明と接触する可能性がある。 少なくともハイヴが組織として成立して以来初の事態だ』


 まさに未知との遭遇というヤツだよと、エスタトゥアは皮肉げに呟くと精鋭という名の人身御供達を見おろす。


 今日は一体何人無事に帰ってくるのか。 そう言いたげな瞳はどこまでも冷ややかでおぞましかった。

今回も最後まで読んでいただき、まことにありがとうございます。


もし少しでも気に入っていただけたのであれば感想、ブクマ、評価を頂ければ幸いでございます。



たとえどれだけ小さな応援でも、私のような零細作家モドキには大きなモチベーションの向上に繋がり、執筆活動の助力となりますのでどうかよろしくお願いします。


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