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秘されし遺構

「アイオーン、この間みたいに照らせるか?」

「うん大丈夫、任せて」


 蒼い光が足下で輝く以外には一寸先も窺えない闇の中、ミサゴがアイオーンに促すと、彼女の手の中から光の塊が発生し、秘密に満ちた城塞の一角を柔らかな明かりで満たす。 以前より力の使い方が改善されたようで、アイオーンの下から離れた光源は一行の頭上へ勝手に陣取ると、そのまま一定間隔を保ちつつ追従し始めた。


 視界が保たれたことで僅かに安堵感が一行に広まり、お喋りをするだけの余裕をもたらす。


「しかし如何にもダンジョンって趣じゃないか。 後はモンスターやお宝が見つかれば言うこと無しだな」

「遊びに来たんじゃないんだぞ馬鹿犬。 セーブポイントも教会もないのにゲーム感覚で動かれて死んで貰っては我々が困る」

「冗談だってんだよメスケモ婦警。 頭がお堅いヤツはこれだから面白くない」

「この中で一番死にやすいのはお前だから気を遣ってやってんだぞモヤシ」


 ああ言えばこう言ういつもの不毛ななじり合いが始まり、その様子を不思議そうに眺めるアイオーンをミサゴがさり気なく先導する。 奇しくも頻繁にチームを組むようになって以降、おなじみとなってしまった光景。


 だが、一番不真面目だったアンダードッグが突如真顔になって短い警告音を鳴らすと、緩んでいた場の空気が一気に引き締まる。


「お前らここから迂闊に進むなよ、センサーらしき何かしらの稼働を検知した。 どうやら誰かさんが大昔に仕込んだ玩具が未だ生きてるようだな」

「侵入できるか?」

「コードの翻訳解析が進むまではping打ちからの単純な位置情報の共有くらいが限度だろう」

「十分だ、居場所が割れればいくらでも対処できる」


 アンダードッグが割り出した機器の大まかな位置情報を睨みつつ、ミサゴはブレードを抜き放ち、構えた。 標的はセンサーが埋め込まれた付近の壁や天井。


「悪いが纏めて黙って貰おうか、針金を射し込んでいく暇も今は惜しいんでな」


 ブレードが帯びる強烈な磁力が、隠されたセンサーや罠を捉える。 ガウスのアンプから学習された磁気化機能は、大元となったコンポーネントを遺族へ寄贈した後も失われず、そのままミサゴの力の一部として取り込まれていた。


「行け……!」


 軽い腕のスナップと共に、刃が壁の上を這うように跳ね回ると、壁の中から機械らしき物体が芋づる式に引き摺り出され、ベキベキと耳障りな音を立てながらへし折られる。


 ノーザンクロスが有する機動力を生かすまでもなく、自ら意志を持つかの如く踊り狂った鋼の蛇は認識していた脅威を全て始末した後、ミサゴの下へ戻っていった。


「周辺の反応消失。 少なくともこの近辺のトラップはこれで排除できたはずだ」

「想像していた無力化よりだいぶ乱暴だがな。 必要以上に壊すと後でインテリ共から大目玉食らうぞ」

「汗をかこうともしない連中の世迷いごとなんざ知らねぇよ」


 破壊された古代機械から基盤やらパーツを穿り出し、僅かでもデータを漁ろうとするアンダードッグから苦言を投げかけられるも、ミサゴは素っ気なく返す傍らで油断なくブレードをリボンのように振り乱す。


「なんだ?敵か?」

「それなりに大きいヤツの動体反応が複数、遠くからこっちに向かってくる。 建造物への被害を抑えろとお望みなら、まとめて開きにしてやるまでの話だ」

「穏やかな話じゃねぇなおい」


 パーティの前衛兼壁として自ら矢面に立つミサゴの後ろで、アンダードッグがアンプ化した腕から内蔵火器を展開しながらヘラヘラと笑う。 度重なるインシデントを乗り越えてきたミサゴの腕を評価しているのか、その表情に怯えの欠片もない。


 だが、野郎共から少し距離を置いてアイオーンを護っていたピースキーパーは違った。 彼女のふさふさの耳はピンと尖って忙しなく辺りを見渡し、黒い鼻がピクピクとヒクつく。


「ピーキーさんどうしたの?」

「微かだが死体の饐えた臭いがする。 ……それもかなり近いな」


 大きなタッパを利用し、アイオーンを覆うようにして護ってやるピースキーパー。 その視線の先にあるのは、石のような建材で構成された天井。


「ちょっとしゃがんなよお姫様」

「えっ!?」


 突然の呼び掛けにアイオーンが困惑するも束の間、全身の筋肉を著しくパンプさせて巨大化したピースキーパーは、関節をボキボキと小気味良く鳴らすと、天井を拳一つで破壊し闇の中へと躍り込んだ。


 新たな戦いの気配に場の空気が一気に張り詰めるが、ミサゴとアンダードッグはピースキーパーに背中を任せ、前方から向かってきたイミュニティ共を冷静に迎撃する。 現れたのは頑丈な身体だけを頼りに、ひたすら突撃を繰り返すしか能がないイミュニティの群れだが、気を抜いて足下を掬われては死んでも死にきれない。


「ちっ、弾はロハじゃないってのにな!」

「まだアレは撃つなよアイオーン! 俺達を信じろ!」

「う……うん!」


 膨大なエネルギーの奔流による巻き込みを危惧してミサゴが叫ぶと、アイオーンは黙って頷き、ピースキーパーが飛び込んでいった仄暗い空間を見上げた。


 ――刹那、狼の如き咆哮と、何かが血でうがいをしながら泣き叫ぶ奇声が響いたかと思うと、全身をイミュニティの血で汚く染めたピースーキーパーが、ミミズのような不気味な化け物を容赦なく蹴り飛ばしつつ帰還した。


 手足にこびり付いた血肉を自らの毛皮で拭い、口端から獲物の血潮らしき液体を零す姿は怪物そのもの。


「ふん、単細胞の化け物を囮にしてこの娘を狙ったってことかい? その小賢しさ、あのウジ野郎を思い出して反吐が出るよ」


 己に人間卒業を強要した化け物を思い起こし苛だったのか、彼女は唸りを漏らし、壁に叩き付けられてグロッキーとなったイミュニティを睨め付け、ツカツカと詰め寄っていく。


「ふん? 真っ暗闇の中でビックリさせて? それから? それからどうするつもりだった? あぁそうですかと腰を抜かして嬲られるばかりだと? 薄汚いブタ野郎が笑わせるな!」


 怒号と共に餓狼が疾駆し、グロテスクな化け物の顔面がグチャグチャに引き裂かれ、ミサゴの足下まで軽々と斬り飛ばされる。 ちょうど迎撃を終えた彼の眼前には既におびただしい量の肉が積み上げられ、垂れ流された緑色の血潮の量が、どれだけの化け物が片手間に処理されたのかを物語っていた。


「何だコイツは? たった今始末した化け物共とは明らかにタイプが違うな」

「明らかに何らかの知性を持った動きをやってたからね。 ギリギリ生かしといてやったよ」

「おいおいいくら知性があるっつったって……あぁ?」


 虫の息の怪物が藻掻く様をゴミを見るように眺めていたアンダードッグは何を思ったのか、怪物の頭蓋に容赦なくダガーを叩き込むと、そのまま脳までを無感情に切り開く。


「どうしたアンダードッグ」

「なんか妙なシグナルを拾ってると思ってたんだ。 見ろよこいつ、頭ん中に機械仕込んであるぜ? しかも宇宙から墜ちてきたもんじゃない。 正真正銘地球の技術で造られたもんだ」

「何だと? エイリアン共の走狗じゃなかったってのかい?」


 ここに到達した人間はテクノシャーマン達以外には自分らしかいないはずだと、ピースキーパーが先に到達していたメンツを露骨に怪しむ中、アンダードッグは埋め込まれていた機械の回収と解析を粛々と始めた。


「へっ、たかが鉄砲玉にここまで強固なプロテクトかけるとは、バレると余程都合が悪いんだろうな」

「解析できるか?」

「ちょいと時間はかかるが別文明のコード翻訳ほどじゃない。 ちょっとしたお宝探しの合間にパパッと終わるだろうさ」

「宝探しだと?」


 ミサゴの問い掛けにアンダードッグは口を開かず、ただ身振りだけで応答する。 親指で示させた先にあったのは、戦闘の余波で崩れた壁の奧に隠されていた小部屋。 その中へ、何故かアイオーンが吸い寄せられるように入っていく。


「なっ……おい!」


 勝手な単独行動はチームを危険に晒すと慌ててミサゴもその後を追うが、小部屋に入り込んだ瞬間、今まで抱いていた危機感や焦燥感が一気に霧散する。


「これは……」


 歴史的、文化的知識には疎いミサゴですら、雰囲気だけでここに散らばるのはただのガラクタではないと分かる厳かな空間。


 部屋のありとあらゆる場所に刻まれた記号や文字らしき羅列に、蒼い光がなみなみと注がれる古代機械。


 その側に、何故がアイオーンが物一つ言わず静かに佇んでいた。


 いつもの天真爛漫な表情を潜め、どこか冷徹な気配を醸して。

今回も最後まで読んでいただき、まことにありがとうございます。


もし少しでも気に入っていただけたのであれば感想、ブクマ、評価を頂ければ幸いでございます。



たとえどれだけ小さな応援でも、私のような零細作家モドキには大きなモチベーションの向上に繋がり、執筆活動の助力となりますのでどうかよろしくお願いします。


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