狼と赤頭巾
こことはちがう、べつのせかいのとあるくに。
いくどのせんそうでまわりのくにからきらわれたそのくにの、いちばんひがしのふかいもりのなか。
そこにはいっぴきのおおかみがすんでいました。
おおかみはまいにちのようにひとをころし、たべていました。
そのうわさは、まちにもひろがって、いまではだれもそのもりにはちかづこうとしません。
これは、そんなせかいの、そんなくにの、そんなもりの、そんなおおかみとひとりのおんなのこのおはなし…
―――――狼と赤頭巾
「…全く…何を好き好んでこんな所に家なんか…」
昼間だというのに、木漏れ日一つ射さない深い森の中。
赤いマフラーを巻いた1人の少女がリュックサックを背負って歩いていた。
目的地は、未だ見えない。
溜息をつくと、その少女は走っていく。
「うぅ~…だるいよ…」
昼間だというのに、明かり一つ射さない深い森の中。
開けた土地にぽつんと建つ小さな小屋。
その小屋のベッドの上に、毛布を被った狼の少女が寝ていた。
訪問者は未だ現れない。
溜息をつくと、その少女は毛布に潜った。
それから二時間ほどがたった頃。
赤いマフラーを巻いた少女は小さな小屋の前に居た。
途中で沼にでも落ちたのか、穿いたスカートの膝上辺りまで乾いて固まった泥がへばりついている。
少し緊張した面持ちで、ぴん、ぽーーーん、とチャイムを鳴らす。
しかし、小屋の主は現れない。
「…メル?居ないの?」
少し大きめの声で呼びながら、ドンドン、とドアを叩く。
それでも、小屋の主は現れない。
「はぁ…じゃ、勝手に入るわよー」
そういうと、おもむろにポケットから針金を取り出し、鍵穴に差し込む。
数秒もしない内に、中から、かちゃりと何かが外れる音がした。
そして遠慮なくドアを引き、中に入る。
「メルー?」
呼びかけてもやはり、返事はない。
棚に置いてあったマッチを擦り、ランプに火をつける。
明るくなった部屋を見渡すと、ベッドの上で彼女は寝巻き姿で寝ていた。
部屋の真ん中にある机の上には風邪薬が置かれている。
それで大体を察したのか、リュックを下ろし、彼女を起こさないように風呂場に向かう。
どうやら勝手に使うようだ。
だが、彼女は特に遠慮はしなかった。
元来、そういう性格なのか、これが彼女にとって普通の事なのか。
どちらにせよ、これは住居不法侵入という立派な罪なのであった。
風呂から上がり、濡れた髪の毛が乾く程の時間がたった頃。
毛布がもそもそと動き、なかからメルが顔を出す。
「ん…あれ、飛鳥…?」
「おはよ。メル。風邪大丈夫?」
飛鳥がベッドの淵に腰掛ける。
「ぁ、うん。おはよ…大丈夫だけど…って、え?私、鍵かけたよね?」
「うん、でも開けた」
そういい、またポケットから針金を出す。
「飛鳥…お前…法律って知ってるか…?」
「私の辞書にはメルの名前と自由以外の文字は無いわよ」
「…まぁ、そういってくれるのは嬉しいけどさ…勝手に入られると吃驚するんだけど…」
「メルが寝てたのが悪いんじゃない」
「う…まぁ、そうなんだけど…」
大きな溜息をつく。
「まぁ、いいんだけど……で、今日は何の用?」
「何の用って…あんたがメールで『風邪引いたから救援頼む』って送ってきたんじゃない」
「あ、ああぁ…そういえばそう…だっけ」
「自分でしたこと忘れてんじゃないわよ」
「はははっ」
「……全く」
それきり、会話が続かず、沈黙が流れる。
だが、それは決して嫌な沈黙ではなかった。
寧ろ、心地よかった。
それが数分続いたか。
あるいは数十分か。
もしかしたら数時間か。
その沈黙を破ったのは飛鳥だった。
「ねぇ、お婆さん。貴方はどうして髪の毛が茶色なの?」
飛鳥の冗談を察したのか、メルもそれに乗る。
「…?…フフフッ…それはね、泥が付いてしまった所為だよ」
「お婆さん。貴方はどうして声ががらがらなの?」
「それはね、風邪を引いているからだよ」
「お婆さん。貴方のお口はどうしてそんなに大きいの?」
「それはね、お前を食べるためさっ…!」
飛鳥の腰に手を回し、自分の方へ抱き寄せる。
そして、強引にキスをしようとしたが、人差し指で唇を押さえられる。
「むっ!?」
「ついにおおかみさんは、あかずきんをたべようとしましたが、食べられませんでした。
何でかって?…それはね…赤頭巾の方が、狼さんより一枚上手だからよ…」
言うが早いか、メルの服をはだけさせた。
いきなりの事態に対応できず、メルは困惑する。
「ひゃっ!飛鳥っ…」
「…狼さんの体はどんな味がするのかしら…獣の味か、汗の味か、それとも…」
「…赤頭巾だけを魅了する、狼さんの味か…」
「っ――――――!」
それから数十分後。
極東の深い森に、一際大きな嬌声が響き渡った。
「…けだものぉ…」
ぐったりとベッドに突っ伏して、恨みがましい目で飛鳥を見る。
乾ききっていない汗や体液が体を伝う感触が気持ち悪い。
「けだものって…あんたの方がけだものじゃない。人狼だし。それに、三回もやりたいって言ったのはそっちでしょ」
「それは、まぁ、そうだけど…」
そう返されると、何も言えなくなる。
沈黙が続くうちに、先ほどの自分の痴態を思い出し、頬を紅く染めて布団に潜る。
ムッ、とした暑さが体を包むが、そんなことは意識に入らない。
「…ぅぅ…」
「何でそんなに恥ずかしがるのよ…別に初めてじゃないんだから」
「それは、そうだけど…でも、恥ずかしいって…」
「何がよ」
「ぅ…そ、の、あんな、声出しちゃって…」
自分で言っていて恥ずかしくなったのか、布団の中でうずくまる。
よく使われる比喩だが、顔が茹でダコのように真っ赤である。
そんなメルの手を、ひんやりした感触が包む。
…飛鳥の手だ。
「何でそんな事恥ずかしがるのよ…あんたの声、可愛いのに」
「うぅ~~~~…!!!」
そんなメルを見て、自然と口の端から笑みがこぼれる。
「…ねぇ…飛鳥…」
「なに?」
「もう、夜だね」
「そうね」
「…それで、さ…よかったら、なんだけど…泊まっていかない?」
恥ずかしそうに提案するメルを見て、満面の笑顔で答える。
「もちろんよ」
このあと、よなかになってあかずきんがおおかみさんをおそったり、
おおかみさんのほんのうがぼうそうしてあかずきんさんをおそったりしましたが、
それはまた、べつのおはなしです・・・・・・・・・・・・
以前ブログにUPしたものをこちらにも上げてみました。
作者は中学生であり、経験も未熟であるが故にこれが限界です。
中傷や批判ではなく、評価をお願いします。