10/3 Thu ソロと話す
ーーーソロと話すーーー
「周りを見るって難しいのね」
「ソロはもともと演奏できるからな」
「いままでピグラに聞かせることしか考えてこなかったから。アンサンブルって難しいのね」
「そうだな。俺と合奏するぐらいか?」
「ええ。私の一番のファンに聴いてもらえれば満足だったから」
「それは光栄なこった。でも、今度の舞台はファンだけじゃないからな」
「そうなのよね」
「なんで参加しようと思ったんだ?ソロなら断ってそうなもんだが」
「どうしても出なきゃいけない理由があったから、かしら」
「出なきゃいけない理由?」
「ピグラが知ることじゃないわ。それより周りの音を聴くことだったわね」
ソロは椅子に座ると、手をそろえて目をつむった。
「アヴィ、上手いわよね」
「数日前まで狙った音すら出せなかったんだけどな」
「不思議ね。そんなに早く上達する人初めて見たかも」
「俺もだ」
一生懸命に練習するアヴィ。
裏ではきっと普通以上の努力をしているのだろう。
「ラビアは……そうね」
「個性的よね」
「自我が強いな」
「楽譜通りの演奏はしないと思った方がいい」
「今も知らない曲を叩いてるものね」
知らない人が聴いたらめちゃくちゃな譜面を叩いている。
「アンサンブルでアレンジは出来るだけ控えてほしいんだけどな」
「今は個人だから好き勝手やってるみたい」
ソロが手を動かし始める。
「ゴラって良い演奏をするのね」
「アンサンブルの時に控え目になるのが傷だな」
「落ち着くような、焦燥感を煽るような。器用ね」
「いつもは自分の気持ちで演奏してるって言ってたな」
「そう……」
落ち着いてて焦ってる。俺も同じような感想を抱いた。
相反する二つだが、ゴラの感情なのだろう。
「こうして聞いてみると三者三様ね」
「ああ、そうだな。演奏だけでもわかることはある」
「でも、こうして聞いても、演奏しているときは集中してしまうのよね」
「課題ってことだな。練習がてら俺と演奏してみるか」
「ええ、お願いしてもいいかしら」
俺は準備室からヴァイオリンを持ち出す。
勝手に置いてるが本当は許可がいるらしい。
きっと裏でアロが動いてるんだろう。
「おまたせ」
合図もなく、ソロと演奏を始める。
今はただ、周りの音など気にせずに
波長を合わせて、演奏する。
「わぁ!」
「ピグラの演奏、久々に聴いたな」
「お二人ともすごいですね……」
「ホルンの演奏しか聴いたことなかったけど、すごいね!」
「ピグラはヴァイオリンがメインだからな」
……
ヴァイオリンがメイン……
「……?大丈夫?」
「あ、ああ。すまん」
演奏が少しぶれたことにすぐ気づかれてしまった。
「結構長いこと演奏したもの。今日は終わりにしましょう」
「……そうだな」
気が付けば時計の針が一周していた。
「お疲れ様」