10/3 Thu
10/3
昨日と同じ作戦じゃダメなのはわかってるさ。
なら次は演奏してそうなやつを狙い撃つ。
これがスマートなやり方だろう。
例えば吹奏楽部の奴らなんかが狙い目だ。
思えば最初から声をかければよかったんじゃないか。
アヴィの時もそうだ。
決まれば話は早い。
それじゃあ吹奏楽部に向かおう。
「うちは吹奏楽部じゃないっすよ。文芸部っす。音楽?作業用BGMが漏れてたんっすかね。失礼しましたっす」
「音楽が聞こえたの?ああ、このオルゴール!最近作ったんだ!え?うちは科学部だよ」
「音が聞こえた?お茶を立てる音でしょうか。確かに楽器に聞こえなくもありませんね。うちは茶道部ですよ」
気がついたことがある。
うちの学校に吹奏楽部はない。
軽音学部とかもない。
やっぱり地道に声をかけるしかないのかな。
部室練をトボトボ歩いていると最後の扉が迫ってきていた。
「お邪魔するぞ」
もはや音すらしないが一応確認しておくことにする。
「なんか甘い匂い……」
「どうしたんですか?」
「……なんだか歩き回って気がついたらここに」
嘘はついてない。
実際来たことない部室等を一つ一つ確かめながら歩き回ったのだから。
「ここは、何をやってるんだ?」
「料理研究部です。今お菓子を作ってました」
お菓子か。甘い匂いなのも納得だ。
……俺の要件はここにはなさそうだな。
「邪魔して悪かった」
「いえいえ、でもお疲れみたいですね。一つお茶でもどうですか?」
「……断りたいところだが、今は招待されたい気分だ」
俺は指示された席に座る。
その間、相手をしてくれた人はずっと笑顔でこちらを見ていた。
「部長〜!砂糖買ってきました!」
「ありがとうございます。そちらの戸棚にしまってもらえますか?」
「はい!」
後輩らしき人が部室に入ってくる。
あれ、料理研究部って普通は家庭科室でやるような部活じゃなかったっけ。
それにしてはオーブンと冷蔵庫、流し台まである。
気にすることでもないか。
自分たちで改造したのだろう。
「部長、片付け終わりました!」
「ありがとう、隣にでも座って待っててください。今クッキーを焼いてるので」
「はーい……」
「って!え!ピグラさん!?」
「うおっ!え?」
急に話しかけられて体が飛び上がってしまった。
「え?あ、ゴラ!?」
「なんでこんなところにいるんですか!」
「あら?お二人は知り合いなんですか?」
「はい、とある場所でよく会う人なんです」
「ふふふ、そうなんですね。ゴラさんにお友達がいて安心しました」
「私にだって友達ぐらいいますよ!」
友達と呼んでもいいのだろうか。
ゴラがいいならいいか。
「ふふ、でも男の子なんですね。人見知りのゴラちゃんが。すごいです」
「部長!余計なこと言わないでください!」
「ゴラって料理研究部だったのか」
「ええ、色々とありましてね。料理自体は好きですし気に入っているんです」
演奏しているところしか知らなかったからな。少し意外だ。
「あ、クッキーが焼き上がりました。お二人とも食べてくださいね」
「わぁ!」
綺麗に焼けたクッキーがお皿に並べられる。
一ついただいて口に運ぶ。
「うまいな」
料理については詳しくないがこれがとても美味しいということはわかる。
「でしょう!部長の作る料理は天下一品なんですよ」
「ラーメンでも作ってもらいたいな」
「もう!そういう意味じゃないです!」
ゴラがいつもと違う表情を見せている。
そりゃほとんど森でしか会ったことないから当然か。
そうだ、ゴラはいつも演奏をしているんだ。
「なあ、ゴラ。演奏会に出てみないか?」
「え、演奏会ですか?あの、村祭りの」
「ああ、今少し訳ありでな、人数が足らなくて困ってるんだ」
「えっと……」
ゴラは部長の方を見る。
「そうだな……しばらくは練習に参加することになるかもしれない」
「無理強いはしないさ」
「あの!ピグラさんは、演奏会ができなくて困ってるんですか?」
「そうだな。俺は出ないから演奏会自体は困ってない」
「えっ?てっきり出るものかと」
「ただ人数が少なくて困っている」
俺の聞きたい演奏を聞くためにはパーツが足りない。
そこにゴラが来てくれればきっとハマるだろう。
「うーん。部長」
「いいわよ。少しの間でしょう?私は大丈夫よ」
「なら……参加します!」
「おお!いいのか!?ありがとう!」
ゴラは演奏が上手だ。
それにゴラはいろんな楽器を演奏できる。
ゴラが入ってくれるだけで色んな曲の幅が広がことになるのだ。
二人目にしては、これ以上ないほどの戦力となった。
「というわけで、参加してくれることになったゴラだ」
「よろしくお願いしま……っ!ピグラさん!」
小声で俺の耳を引っ張ってくる。
「痛い痛い痛い。どうしたんだ急に!」
俺はゴラの視線の先を見る。
「あー……」
そういえばアヴィとゴラは過去に何かあったみたいだったな。
「ねえ、ゴラ」
「あなたはどうして参加しようと思ったの?」
「そ、それは……」
「(ピグラさんに誘われたから……)」
小声で何か喋ってる。
「なるほどね」
ソロは何か納得したのか頷いているようだが、俺には聞こえなかったせいで何が起きているのかわからない。
「事情は分かったわ。昔のことは……お互い子供だった」
「だから水に流しましょう。ひとまずはそれで良い?」
「……はい」
ゴラは萎縮しているようだが、少し落ち着いてきていた。
「それで、今ならまだ辞めても迷惑はかからないわ。無理強いはしないってルールなの」
「それで……どうする?私はやらなくちゃいけない理由があるの」
「私も……参加したいです!」
「なら、それで良いわね」
「ピグラちゃんと聞いてた?この子の面倒見なさいよ」
「ああ。俺だって良い演奏聴きたいからな」
「何も聞いてないじゃない。さすがピグラね」
「これで後一人…」
「あら?もう4人揃ったの?」
アロが音楽室に入ってくる。
「さすがピグラくんね。人数は足りそう?」
「五人には足りないな」
「一人なら調節できそうなのよ。ピグラくんが四人でも良いって言ってくれればもう人を集める必要もないわよ」
「そうなのか。それじゃあ……一旦合奏を聞かせてくれ」
「報告は後で聞かせてね」
「聞いていかないのか?」
「そうしたいのはやまやまなんだけどね、ちょっと外せない仕事があるの」
「良い報告を待ってるわ」
アロは音楽室を去っていった。
俺に頼ってくれているのだろうか。
真意はわからないが、できる限りのことをしよう。
「私、ライアーハープしか持ってないですよ?」
「今日はライアーハープで充分だ。初見でいけるか?」
「難しくなければ大丈夫だと思います」
俺は昨日から三人が練習している楽譜を渡す。
それじゃあ一曲聞かせてくれ。
「なるほどな」
全体を通してわかったことがいくつもある。
全員に課題点が見つかった。
ゴラ以外は周りに合わせてない。
ゴラは周りに合わせすぎなのだが。
ソロは完璧なあまり、自分以外の演奏を無視しているように感じる。
ラビアは調子に乗りすぎてアドリブを多用している。
個人演奏なら良いのだが、これはアンサンブルなのだ。
アヴィは、まだこの曲に慣れていないのか自分の演奏でいっぱいいっぱいになっている。
こんなところだろうか。
「どうだった?」
「そうだな」
俺は一人一人にさっき感じた問題点を伝えていく。
「やっぱりそうだよねぇ……」
「まあ、ラビア以外はすぐに改善できることでもないだろう」
「俺だってちゃんとしてたぞ」
「調子に乗りすぎだバカ。少しは周りのことも考えろ」
「だってみんなうまいんだもの。少しぐらいハメ外したっていいじゃんか」
「度が過ぎてるんだ」
「あんまりツボにハマるのも良くないか」
「いったん個人練習とする。周りの音を聴くだけでもいい」




