10/2 Wed その2
さて、人集めと行くか。
適当に声をかけてみるとするか。
「そこの君」
「はい、なんですか?」
「楽器とかやってたりしないか?」
「楽器ですか?子供のころに授業で縦笛ならやってたかな」
「ほかには?」
「とくにはやってないですね」
「なら用はない」
「は、はい?」
「そこの君」
「え?俺っすか?」
「楽器とっかやってたりしないか?」
「全然やってないっすね。なんかの調査っすか?」
「違う。やってないならいい」
「そこの君」
「ひゃい!?私ですか!?」
「楽器とかやってたりしないか」
「ややややってないです! 恐喝だけは勘弁ですぅ!!」
すごい速さで逃げていった。
「なんだったんだ」
この方法で人が集まるとは思えないな。
少し、声のかけ方を変えてみるか。
「ヘイ、そこのボーイ&ガール」
「音楽に興味はないかい?」
「音楽ですか……?」
「こういう人に関わっちゃダメだよ!」
「あ、ご、ごめん」
彼女がしっかりした人だったみたいであっさり逃げられてしまった。
……なにしてんだろ。
今日はこの辺にして帰るか。
「いらっしゃい」
気分転換はこの場所に限る。
今頃、ソロとラビアは練習でもしているのだろうか。
……とても聴きたい。
「苦い顔をしてどうしたんですか」
「なんでもない」
「何でもないことないでしょう。餌を前にお預けされてるみたいですよ」
「気のせいですよ」
「そうかい?当たらずとも遠からずって感じだったけど」
当たってるんだけどな。
「こんにちは!」
アヴィがホルンを持ってやってくる。
一度家に帰ってから来たのだろうか、放課後からは少し時間がたっている。
「いらっしゃい」
「あれ、ピグラくんだ」
「ホルンはうまくなったのか?」
「一日でそんなにうまくならないよ」
「でも彼女の努力は並み以上ですよ。ピグラくんも聞いてみてください」
「えへへ、聴いててね」
ホルンの準備を進めていく。
アヴィには悪いがソロたちの寂しさを埋められるほどだろうか。
「じゃあ行くね」
「!」
なんだこれは。
「やっぱりピグラくんも感じますか」
たった数日でここまでになるものか?
ホルンは決して簡単な楽器ではない。
昔、触ったことがあるだけで?
「どうだった?」
「正直、あまりに成長しすぎて驚いてるよ」
「えへへ、ありがとう」
アヴィの演奏は上手すぎた。
「まだこの曲だけだけどね。ほかの曲はまだまだ下手なんだ」
「でも基礎がしっかりできてるなら、いくらでも応用が利く」
今の演奏だけなら、ソロたちにも並ぶレベルだ。
「そういえば帰るとき校門にいたよね?ソロたちを待ってる感じでもなかったし何してたの?」
「そうだ……」
アヴィを誘えばよかったんじゃないか。
最初からそうしていれば。
演奏の技術なんて二の次だ。
でも、一曲だけでも演奏できるなら……
「演奏会に出てみないか?」
「演奏会?」
「この村でやってる祭りの演目だ。参加してみないか?」
「あれ?祭りなんてやってたっけ?」
「俺がこっちに来た時からやってたけど」
「私、最近戻って来たばっかりだからなぁ。……あ!もしかして出てくれそうな人を探してたの?」
「そういうことだ。参加してみてくれないか?」
「ピグラくんも出るの?」
「いや……俺は出ない」
「そっかぁ」
まずい、これは断られるだろうか。
「うん、いいよ」
「やっぱり、そうだよな……無茶を言ってごめ……え?」
「私、参加する」
「いいのか!?」
「ピグラくんが誘ってくれたんだよ。でも下手な私が出ても足を引っ張らないかな?」
「そんなことない。技術が追いつかなければ俺も練習に付き合うよ」
「私も付き合いますよ」
店長も俺にアシストしてくれる。
「そっかぁ。うん、ありがとう」
「じゃあ、よろしくね」
こうして、一人目の仲間が増えた。
後、二人。見つかるかな……
「よろしくお願いします!」
「あら、アヴィじゃない」
「やっぱりソロもいるんだ」
「なんだなんだ、みんな知り合いなの?」
「アヴィとは幼馴染なのよ」
「昔引っ越しちゃったんだけどね。最近帰ってきたんだ」
「だから村祭りのことも知らないんだけど、大丈夫だよね?」
「アヴィって先週の村祭り言ってないの?」
「何かやってたのは知ってたんだけど引っ越しの片付けで忙しくて」
「なるほどね。演奏会や村祭りって言ってもただ演奏するだけだから何も難しいことはないわ」
「一人見つけてきたんだ、頼む!演奏を聞かせてくれ!」
「ソロ……なんだかかわいそうになってきたし聞かせてあげよ?」
「……アヴィも参加してね」
「えっ私まだ一曲しか弾けないよ!」
「じゃあ私たちが合わせるわ。一回演奏してみて」
「う、うん」
アヴィがみんなの前でホルンを吹く。
「あれ、さっきはもっと上手く吹いてたような」
「だって緊張するんだもん!」
「本番は大勢の前で演奏するんだぞ。これぐらいで緊張してどうする」
「うー」
ガチガチになりながらも演奏をやり遂げる。
「まだ吹き始めたばかりなんだ。大目に見てやってくれ」
「いや、大目に見るもなにも始めたばかりじゃないでしょ、これ」
「ホルンだよ?数日で吹けるようになる楽器じゃないよ」
「昔吹いてたらしいんだ」
「なるほどねーってならないよ!もしかして子供の頃相当練習したとか?」
「いや、全然だよ!遊びで数回触ったぐらいかな」
「なら才能じゃん」
「アヴィちゃんかわいいのにホルンも吹けるって最高じゃん」
「他の曲はゆっくり練習していってくれ。……それで」
「約束の演奏は?」
「はぁ。これ聞いた後じゃやりづらいけど約束だものね」
ソロがバイオリンを肩に乗せる。
ラビアも合わせてドラムの前に座る。
「ドラムでいいのか?」
「最初だからね。聞き馴染みのある楽器の方がいいでしょ」
そうして三人の演奏が始まる。
ソロとラビアは一回演奏を聴いただけで合わせることができる。
だから、二人のことは心配していない。
だが、それは技術に関して、だ。
問題なのは……
「少し物足りないな」
原因はわかってる。
人数が足りていない。
バイオリン、ホルン、ドラム。バランスは悪くない。
「やっぱり後二人、探しに行くか……」
こうして俺は、もう一度探しに行くことになった。