11/19 Thu ソロ
11/19
一人でいると言いながらルスリアと出会っていた。
これはソロに対する裏切りでもあるのではないか?
俺は今、ソロをソロとして見れるだろうか。
授業中、後ろの席から眺めても、ルスリアの面影を感じてしまう。
それはルスリアが好きだから、ではない。
もしかしたら昔の感情に起因しているのかもしれないが、そんな子供のころの記憶なんてそれこそ今更だ。
お祭りまであと一週間もないっていうのに……俺がこんなんじゃ……
「ピグラ?次、移動教室だよ?」
悩んでいたら、いつの間にか教室には誰もいなくなってしまった。
「ああ、悪い」
「ソロと何かあったのか?」
「わかるのか?」
「そりゃわかるさ。お姉さんのことか?」
「ああ……ラビアは幽霊って信じるか?」
「前にも話した気がするな」
「そうだったな。いた方が面白いだったか」
「俺は……幽霊と出会ったんだ」
「それがソロのお姉さんか」
「ああ」
ルスリアとの出会い、そして何があったか簡潔に伝える。
「はぁ……」
ラビアは勝手に隣の席に座る。
「移動教室じゃなかったのか?」
「ピグラもだろ。その割には一向に席を立とうとしないから」
「この間もソロとサボったんだし一教科ぐらいいいだろ」
「じゃあ、今度は俺とだな」
「華がないな」
「仕方ないだろ。アヴィちゃんにもゴラちゃんにも話せない内容なんだったし」
「ここはおとなしく俺に相談係になってもらえ」
「……悪いな」
「ソロのお姉さんの幽霊ね」
ラビアは何かを考え込んでいる。
「見間違いとかじゃないんだよな?」
「ああ、ちゃんと会話もした。それにルスリアとは俺も昔出会っているんだ」
「そして人柱になって死んだと」
「……ああ」
今でもあの日のことは覚えてる。
俺がピアノを弾いていなかったら、止める事ができたのだろうか。
「ピアノがトラウマとは聞いてたけどそういうことだったのか……」
「ピグラはルスリアのことを、忘れたいと思うか?」
「いや、二度と忘れたくないと思っている」
「そうだよな」
ラビアは空中に何か文字を書きながら、俺に話しかける。
「今から少し不思議なことが起こる」
「いいか、よく思い出すんだ」
「昔に起きた出来事を」
「ルスリアが……死んだ?」
謎のスーツの男に告げられた真実は俺にとって重大なものだった。
「ああ、ピグラくんは立派な演奏だった」
「彼女もあの世で幸せになれることだろう」
「……ふざけんな!」
「俺は……ルスリアの背中を押すために……崖に向かって押すために演奏したって言うのか!」
「誰もそうはいってない。それに君の演奏はルスリアの願いでもあった」
「俺はっ!」
俺は思わず教室を飛び出した。
「ー♪」
教室を出たとたん、隣の教室からヴァイオリンの音が聞こえてくる。
「……」
俺は思わず聞きほれていた。
その哀しい演奏に。怒りの演奏に。
俺の心を表すかのように。
ヴァイオリンは音を奏でていた。
「あれ、君は?」
ドキッとした。
だってルスリアにそっくりな人がそこにはいたから。
「俺はピグラ」
「ピグラ?姉さんがよく言っていた……あなただったんだ」
「姉さん?」
「ルスリア姉さん。いつもあなたの演奏を褒めてた」
「じゃあ君は……」
「ソロ。ルスリア姉さんの妹よ」
「時々迎えに来てたな。こうして演奏を聴くのは初めてだったが」
「いい演奏をするんだな」
「これがいい演奏?君、変わってるね」
「なんていうか、今の俺に深く響く」
「あぁ……なるほど」
「君もヴァイオリンやってみる?」
「ソロみたいな演奏ができたら楽しそうだな。初めてみようか」
「私のヴァイオリンで良ければ一度弾いてみる?」
「壊したら悪いし……」
「だったらこっちの練習用でどう?」
「そうだな……」
細かい道具や姿勢をソロに教えてもらいながら、何とか音を出してみる。
「ギッギ」
「ひどい音しか出ないな」
「始めたころは仕方ないよ。もう少し力を抜いてみてもいいかもね」
それから二人で合奏した。
俺の下手な演奏でもソロは聞いてくれた。
楽しかった。
だけど、俺は音楽教室をやめた。
辛い思い出がたくさんあったから。
「っ……今の……」
「忘れていた記憶を少しだけ引き出させてもらった」
「ラビア……そんなことができるのか?」
「いや、俺じゃないさ。今はそんなことどうでもいい」
「ピグラにとって、ソロはソロなんじゃないの」
「ソロのお姉さんとはやっぱり違うんでしょ」
「……ああ」
「だったら、まっすぐソロのことを見てあげればいいじゃん」
「ルスリアのことは分けて考える」
「やってみる」
「何を見たのか知らないけど、力になれて良かった」
次の授業。もとの教室にみんな戻ってきていた。
ソロと目が合う。
「……」
が、すぐに目をそらされる。
このままじゃだめだな。
俺に残されているものは……
放課後。個人練習として森に来ていた。
ルスリアに合うことはもうないのだろう。
俺はルスリアに会う前、何を思って演奏していた?
……ソロだ。無意識のうちにソロの演奏に近づけようとしていた。
幼いころに聞いた記憶が無意識に働いていたんだ。
ソロと初めて会ったころ、ソロの演奏に聞きほれたのも納得する。
俺は、忘れていたのか。
ヴァイオリンを始めたきっかけにもなったソロの存在を。
「俺が今まで演奏していたもの……」
ソロへの想い。
実質、ソロへの恋心ではなかったのか。
ルスリアの事は確かに忘れない。
二度と会えないとわかっているなら、なおさらのことだ。
それでも、俺はソロのことが大好きだ。
「みんなから言われて目が覚めるなんてな……」




