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11/18 Mon ソロ

11/18

お祭りまであと一週間。

今日も気合を入れて練習しよう。

「……ねえ」

「ん?」

「やっぱり何でもない……」

「……」

どうしたんだろ。何か家に忘れ物でもしたのだろうか。

いや、楽器はこうして持ってきているな。

なら、何かあっただろうか。

「何かあったら言ってくれよな」

「ええ……」

「……」

「ピグラは私のために演奏してくれないの?」

「……え?」

唐突に告げられたソロの疑問に俺は理解できないでいた。

「ピグラは……ずっと姉さんを見ている。今でもわかるの」

「今日の演奏もそう。ずっと……姉さんのために演奏している」

「きっかけはきっと……私が全てを伝えてしまったから」

「ねえ、ピグラ……私、いつまで姉さんの代わりを続ければいいのかな」

「っ!!」

俺は何のために演奏していた?

最初はルスリアのためだったかもしれない。

でも途中から、みんなと演奏することに気が付いて……

そのあとは……


「後から入る方で」

「わかったわ」

ルスリアがいるかわからないが、二人だけの演奏会を始める。

幽霊のための協奏曲。

夜間でも音が響かないため、近くにいてくれるといいんだけど。


……無意識のうちに、演奏がルスリアのためのものになっていた。

どうしてだか、そのあともルスリアのことを考えていた。

俺は馬鹿だ。

「ねえ、ピグラ……」

「どうして何も言ってくれないの?」

ソロは泣いていた。

この場には気を利かせたのかラビア達の姿はない。

この間でこりたのか、見ていることすらないのだ。

「ずっと私が、姉さんを殺した罰だと思ってた」

「それなら受け入れるつもりだった」

「でも……我慢できないの」

「ねえ、ピグラ、私を見て……」

今は濁った瞳でしかソロを見ることができない。

「……一人にさせてくれ」

俺は悪手ともいえる行動しかとることができなかった。


誰が取ったか その血を取ったか

それは私 と魚が言った

私の皿に 小さな皿に

私が取った その血を取った


気付けば森に来ていた。

無意識というのは怖いものだな。

まだ空も明るい。ルスリアが来ることもないだろう。

俺は抱きかかえたヴァイオリンをケースから出すと、一人で演奏を始めた。

「ー♪」

また演奏がから回る。

虚空への演奏。

誰かが言った

「音楽とは、人生の暗い夜の月明かりである。」

今の演奏は月明かりになるだろうか。

空はこんなにも明るいというのに。


「ピグラさん……?」

あたりは暗くなっていた。

長いこと目を閉じていたから気が付かなかったな。

「やあ、ルスリア」

「何かあったの?」

「音が……元に戻ってる」

「そうだな。聞いてくれるか」

あの日、その場に現れたのはソロだったこと。

俺がソロと付き合ったこと。

そして、ソロをルスリアと重ねていたこと。

俺は包み隠さず話した。

「……ばか」

「……ピグラさんは本当にバカだ」

「俺だってわかってるよ」

「わかってない!!」

「ピグラさんは……大事なことをわかっていないんだ!!」

「私は、死んでるんだ!」

「目を覚まして!」

「俺は……」

「……確かに私が死んでしまったのも原因ではある」

「でも、こんな幽霊にいつまでもとらわれないでくれ!」

「……いつかの演奏は本当によかったよ」

「私のためではない、私のための演奏」

「ピグラさんは忘れているだけなんだ」

「あの日の演奏を」


俺は息を吸い込む。

そして息を止めた瞬間

「ー♪」

少女に俺をぶつける。

ソロ達との演奏を。

一人じゃないことを。

少女には俺がいることを、強く思いながら。

「……」

俺たちの音は彼女に届くだろうか。

いや、願うものではない。

届かせるんだ。

「ー♪」


「あの日から、私はピグラさんを気にかけていた」

「危うく、脆い演奏だったから」

「でも、誰かと一緒にいれば、大丈夫だと」

「演奏会に参加すれば休めるんじゃないかと、思ったんだ」

「ピグラさんの演奏は感情でできている」

「喜びも楽しさも怒りも」

「ただ、悲しさだけは虚空に消えてしまうんです」

「だから、脆くて、危ない」

「俺は……悲しんでいるのか」

「うん。だから気づいていないだけなんだ」

「本当は私のことなんて忘れて、ソロと一緒にいたいって」

「……そんな残酷なこと、俺にはできない」

人は誰からも忘れられたとき、本当に死ぬんだって誰かが言っていた気がする。

ルスリアは確かに幽霊だ。死んでいる。

だからって忘れるのとは訳が違う。

「……そろそろ、ピグラさんの前からも姿を消すことになる」

「俺が村になじんできたからか?」

「それもあります……でも、一番の理由は、ほかにもある」

「でも今教えるわけにはいかない。ピグラさんがいつか気付くことになると思うから」

「私は幽霊なんだから」

「……だから、さよなら」

「ま、待ってくれ、一つだけ、教えてくれ!」

「ソロはお前のことが見えるのか?」

ルスリアは肯定とも否定ともとれない笑顔を見せて去っていった。

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