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11/9 Sat ソロ その2

ーーー

「じゃあなんで、演奏会をやめろなんて言ったんだ?」

「最初はよかったの」


ーーー

でも歳がたつにつれ、だんだんと始めた理由が薄れていった。

村祭りなんてそんなものだと知っているけど。

少しづつ、違和感を感じ始めた。

どうして、みんな笑っているのだろうって。

そして、いつからか、演奏会を始めた。

違う。

姉さんが好きなのはこんな音じゃない。

あの少年の演奏だけだ。

違う。

違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う。

少しづつ、嫌悪感を感じ始めた。

そうして、こんな祭りなくなってしまえばいいと思った。


ーーー

「本当はもっと早くに決行するつもりだったの」

「でも、ある日、あなたと出会った」


ーーー

私はずっと音楽室で演奏していた。

姉さんが好きだった曲。

誰も聞いていない、静かな場所で。

姉さんのために演奏していた。


ある時、二人分の足音が聞こえた。

そして……あなたが入ってきた。

「あれ?こっちに誰か来なかったか?」

「いえ、誰も見ていないわよ」

「おかしいな」

あなたは音楽室を軽く見ると、私を見つめた。

「上手だな」

「ありがとう」

「一曲聞かせてくれないか?」

「……まあ、いいわよ」

この時、承諾した理由は特にないの。

本当に気まぐれだった。

いつものように、姉さんに祈りをささげるように。

あなた、なんて観客どうでもいいって演奏したの。

「本当に良い演奏だ」

でもあなたは、気に入ってしまった。

私の演奏を。

「いつもここで練習しているのか?」

「そうね。誰も来ないから」

「明日もまた来てもいいか?」

「別に構わないけど……」

物好きな人もいるんだなって思った。


それからあなたは本当に毎日のようにやって来た。

「君の演奏って、なんだか心をつかまれるんだよな」

「誰かに祈っているというか、認めてほしいと思ってるというか」

「俺にも心当たりがあるからかな」

「あなたにはそう聞こえるのね」

怖いぐらいにあなたには言い当てられた。

耳がいいというのは本当みたいだ。

一度だけ意地悪で、あなたのために演奏したことがあった。そしたら

「俺のことは意識せずに好きな風に引いてくれ」

なんていうんだから、びっくりしちゃったわ。

演奏だけでなんでもわかっちゃうんだから。


「君、同じクラスだったんだな」

「そうね、ソロよ」

「俺はピグラだ」

この時から、『あなた』は『ピグラ』になった。


ピグラとの毎日は楽しかった。

私の決意が揺らぐぐらいには。

「ピグラって最近転校してきたのよね」

「ああ、あんまり遠くない場所だけどな」

「両親の転勤とか?」

「いや……俺の心理的要因かな。親の隣にいるとどうしてもトラウマを思い出してしまうんだ」

「親も心配して、一人暮らしを始めただけ」

「大変なのね」

私は無関心を装ってヴァイオリンを弾き続けた。

私の音を唯一聞いてくれるピグラのことを気にし始めていたのを隠すように。


「この村って村祭りがあるんだな」

五月の頭でピグラが聴いてくる。

私が決行しようと思っていた村祭りの日。

「え、ええ。そうね」

「二か月に一度って結構多いよな」

「村の中には飽きてる人もいそうだな」

「……演奏会ってのもあるみたいよ」

「毎回違う人たちがボランティアで演奏するらしいの」

「へぇ、一度聞きに行ってみるか」

その一言で、私の決意はなくなった。

ピグラが聴きに行くなら、村祭りを壊すわけにはいかない。

心に決めた誓いは後回しになった。


「下手な演奏だったな」

「ボランティアだからね。別の学生だったんでしょう」

「次から来るのはやめようかな……」

ならば、次回に決行しようかと思うのが普通なのだろうが、なかなか決めることができなかった。

ピグラとの関係を壊したくないと。

臆病だと、心の私が叫んだ気がした。


そして9月の村祭り。

ピグラを誘ってもう一度見に行った。

ピグラを誘った理由は、一人じゃ寂しかったから。

それ以外に理由はない。

……多分。

村祭りの下見に、今度こそ決行するために。


ーーー

「でも村祭りの後はすぐに行動を移さなかったよな」

「……あの日のデートで……」

「姉さんが見えてしまったから……」

……あぁ……

そういうことか。

あの日、ルスリアは急いで姿を消したがソロには見られていたのか。

あれ?でも、ソロは村の人間だったんじゃないのか?

それなら姿が見えるわけはない。

「一瞬で姿を消しちゃったから見間違えだったと思う」

「でも、きっと私の弱さが見せてる幻覚だったんじゃないかって」

一瞬だけ、姿が見えてしまった。それならあり得る話ではあるのだろうか。

でも、その一瞬が全てだった。

「……私が悩んでたのはね、ピグラたちを巻き込みたくないから」

「ゴラやアヴィ、ラビアを巻き込みたくなかったから」

「だったら演奏会を中止させようと思った」

「姉さんなら、そう言ってくれるから」

「大事な人たちを守ってって言うから……」

『大事な人と、これまで生きてきた目標を天秤にかけた時、どっちに傾く?』

ソロは選ぶことができず、両方選んだ。

大事な人たちを守り、村祭りを壊す方に。

……ん?

「そういえば、決行って何の事だ?」

「大したことはしないわ。ただ、水のトラブルをたくさん起こすだけ」

「なるほどな」

俺は一つ頷く。

「なら、俺にもその重荷、背負わせてくれよ」

「……俺だってルスリアの責任はあるんだ」

「頼まれただけでしょ」

「ソロと一緒の道を歩きたいだけでも良いだろ」

「でも……」

「何度も言わせるな。ソロのことが好きなんだ。理由はそれだけでいいだろ」

「……ありがとう」

「で、謝罪するか、このまま隠し通すか、どうするんだ」

「落書きはこれで最後にするわ。水性だからすぐ落ちるとは思うけど」

「だから明け方なんだな」

「なるべく早く見つかると良いわね」

俺たちは、急いで逃げるようにその場を去った。

これで俺も共犯だな。

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