11/9 Sat ソロ その1
11/9
俺はソロと合流していた。
「ねえピグラ、やっぱりやめない?」
「ゴラがおびえているんだ。幽霊だとしても、犯人を突き止めないと」
「演奏会をやめるって手もあるのよ」
「……それは最終手段だ」
「なあ、ソロ」
「何か悩みでもあるのか?」
「……どうして?」
「明らかに前と調子が変わっている。具体的には二人でデートした時だな」
「っ!デート……」
「……そうね」
「あの時に聞いたこと、もう一度聞くわ」
「大事な人と、これまで生きてきた目標を天秤にかけた時、どっちに傾く?」
「いや、『大事な人たち』かしらね」
「今まで生きてきた自分を否定してまでも、大事な人を守りたいって」
「思ったら、だめなのかしら」
「ソロ……」
「……俺は大事な人がソロだったら、間違いなくソロのことを優先する」
「たとえ俺の大事なものがなくなっても」
「俺はそれでもソロのことを選ぶだろう」
「それは……どうして?」
「きっとソロのことが好きだから」
ソロは予想外だったのか、顔を見上げる。
「演奏だけじゃなく、俺はソロのことが好きだ」
「恋愛として、一人の女としてってこと?」
「……ああ。俺が男であるように、ソロのことを一人の女として好きなんだ」
「好きな人を大切にするのに悪いことなんてないだろ」
「……そうね」
「私もピグラのことが好きよ」
「でも、今の私にはピグラの想いを受け取ることはできないわ」
「きっとピグラもわかってるんでしょう」
「……否定はしないさ」
「今の私たちは似ているもの」
「似すぎなぐらいに」
「そうだな」
俺はルスリアのことを思い出す。
まったく、ソロとルスリアって姉妹なのに全然違うな、なんてことを考えてしまう。
「それじゃあまた後で会いましょう」
「ああ」
それぞれ、指示された位置を巡回でパトロールする。
同じ場所は二回被害に合っていないことから、範囲は絞っている。
それでも、一人一人の範囲が広いため当然抜けも出てくる。
偶然出くわせばいいな、ぐらいの作戦だ。
「俺たちにできることなんて、そのぐらいだもんな」
俺も自分に割り当てた範囲をパトロールする。
時間はアヴィとソロには早めに帰るように言ってある。
理由はいろいろとあるのだが、もし犯人が鍛えた男だった場合、危険にさらされることになる。
なので、人通りがなくなったタイミングで家に帰るようにした。
アヴィは納得してくれたが、ソロは不満そうだったな。
俺の身を案じてくれてるのだろう。
きっと。
そろそろかな。
夜も更け、人通りがなくなったタイミング。
俺はパトロールのルートをはずれ、公園に向かった。
「ピグラさん!」
森に入ってすぐのあたりでルスリアと落ち合う。
「こっちはまだ誰も来てないよ」
「ありがとう。まだまだ夜は長いさ」
「そうだよ!私、夜は強いから!」
「それは頼もしい。俺が寝ちまったら起こしてくれ」
さらに時間が過ぎる。
太陽がそろそろ昇るだろうか。
それぐらい明け方になった。
「実際に何時なのかはわからないけどな」
「ピグラくん、……あっ」
「ごめんなさい、ピグラさん、誰か来ましたよ」
「別にどっちでもいいよ。様子を見るか」
誰かが、ペンキをもって公園の舞台に立つ。
そして
一心に、大きなペンを両手で振り回した。
また一文字、一文字と増えていく。
全て書き終わったのか、筆を床に置くと、その場を去ろうとする。
「ルスリアはここにいてくれ」
「無茶しないでね」
俺は一歩近づく。
「何してるんだ」
「来てたのね」
「まあな」
暗闇に目が慣れていたのか、相手をはっきりと見ることができる。
「なあ、ソロ」
さっき描いたであろう落書きを背に俺の前に立ちふさがる。
逃げも隠れもしないのはさすがだな。
「ここは巡回ルートじゃなかったんじゃないの?」
「ああ。罠を張らせてもらった」
「演奏会のメンバーを知っている奴なんでごく一部だからな」
「身内にいたら引っかかるようにしておいた」
「それが、本当の作戦だったのね」
「あんまりやりたくはなかったけどな。おかげでこうしてソロと会えた」
「私に会いたかったの?」
「いや、知らない奴と会いたかった。そしたら一方的に責めることが出来たんだけどな」
「私には責めてくれないの」
「ソロにそういう趣味があればな。さて、本題だ」
「なんでこんなことをしたんだ」
「大切な人を守る為って言ったら信じてくれる?」
「曖昧過ぎるな。ソロの事なら信じることはできるけど」
「……もう」
「そうね……この前の話の続きをしましょうか」
ーーー
……姉さんが死んだのは私のせいだ。
だから、私は姉さんに報いないといけない。
私は次の日から行動に移った。
まずはお母さんに相談をした。
お母さんも同じ気持ちだったみたいで、私に何をすればいいか教えてくれた。
最初は資料を濡らす程度だった。村の会議中にこっそり侵入して廊下を濡らしたり。
崖から飛び降りたのだから、水が一番いいってお母さんから言われてた。
そして、裏では幽霊の仕業だって噂を流し続けたの。
私の姉さんが村を恨んでいると。
幽霊信仰もあいまって妄信的なお年寄りの方は信じ込んでしまったわ。
それから、転機となる事件が起きた。
知ってる?ゴラって、村の偉い人の子供なのよ。
その偉い人が人柱を決定したの。
子供のころの私はそれが許せなくて、ゴラにも似たような目に合わせてあげようと思った。
『ルスリアです、私が死んだ場所で待ってます。来ないと、村に大きな災いが降りかかります』って手紙を出したの。
隠れて待っていたら、ゴラは顔色を変えて姉さんが飛び降りた場所まで来たわ。
正直、それからどうするか考えてなかった。
だけど、ゴラが崖の方に近づいていったの。
そして……足場が崩れてしまった。
ゴラは何とか崖をつかんで耐えていたの。
そこに一人の少年がやってきて助けた。
私は、そのあと大人の人を呼びに行ったのだけれど、一人で救いあげていたわ。
何とか事なきを得たけど、少し、悪戯は控えようと思った。
でも、ゴラはこれを重く受け止めて、親に話してしまった。
幽霊をどうやって鎮めるか考えた際、あがったのが村祭りだった。
それからよ、村祭りが始まったのは。
二か月に一度、幽霊を……姉さんを落ち着かせるために村祭りが始まったの。




