9/29 Sun その後
昔、俺は人前で演奏をした。
ピアノの調律が狂っていたが、そんなことはどうでも良かった。
ただ一人の少女のことを考えて演奏した。
その結果、
少女は崖から飛び降りてしまった。
俺も後から聞かされた話だ。
理由はいまだにわからない。
ただ事実として、俺が背中を押してしまった。
それ以来、俺は
ピアノが弾けなくなってしまった。
「ここは……どこだ?」
気がつくと森で迷っていた。
通いなれた場所なのに。
夜に来ることだって何度もあった。
それでも周りは知らない景色。
「ゴラの元まで帰れば……」
あれ
俺は今、どこからきたんだっけ
わからない
どうしてこんなに息苦しいんだろう
どうして見慣れない景色なんだろう
目の前がぐるぐるしていく
「あれ?」
ぐるぐるしたものが一つの形を作っていく
「キミは昼間の……」
「へ?」
「どうしたの?顔色が悪いよ?」
声がだんだん遠のいていく。
行かないで
俺は手を伸ばして
その場に倒れた
「っ!」
手を伸ばす。
どこかの家のようだ。
「気がついた?」
「あれ、ソロ?」
「……ここは?」
「私の部屋よ」
「お母さんが倒れてたピグラを見つけてうちにつれてきたの」
「アロが……」
「ピグラが目覚めたことお母さんに伝えてくるわ」
「ああ、悪い」
「あの後どこに行ってたのか知らないけど、ほどほどにね」
ソロは部屋を出て行った。
俺はあの時、何を掴もうとしたんだ?
それにあの時出会った少女とはどこかであった気がする。
ただ、それがどこだか思い出せない。
「ピグラくん、大丈夫?」
アロとソロが部屋に入ってくる。
「ああ……俺はどこで倒れてたんだ?」
「公園の森のそばだったわ。帰り道に倒れてるのを見かけてね」
「誰かそばにいなかったか?」
「いいえ、ピグラくんだけだったわ」
会話にすら違和感を感じる。
そういえば昼間に誰かが言ってたな。
『この森には幽霊が住んでいる。だから入ってはいけないんだ』
幽霊か。
本当に居たんだろうか。
「ピグラくん、今日は泊まっていく?」
「いや、もう大丈夫だ。これ以上迷惑もかけられない」
俺は立ち上がる。
荷物はもともと持ち歩いていない。
「アロ、助けてくれてありがとう」
「いえいえ。ピグラくんも体に気をつけてね?」
「ああ」
「……本当に大丈夫なの?」
「ソロ、あんまり引き留めるのも良くないわよ」
「そうだけど……」
ソロは心配してくれているのか納得してない様子だ。
まあ、知り合いが倒れてたって言うんだ、無理もない。
「今の所は元気だ。安心してくれ」
「信じるわよ、その言葉」
「何かあったら連絡ちょうだいね」
アロとソロから見守られながら、家を後にする。
「ただいま」
誰もいない家に呟く。
今年の4月に引っ越してきて、アパートで一人暮らしを続けている。
なんだかんだやっていけてるな。
去年までは隣町で親の元で暮らしていた。
だけど俺は、立ち上がることができなかった。
逃げてきたんだ。ピアノから。
親が近くにいるとあの日を思い出してしまう。
反抗期とはまた違う。
親に対する敬意もある。
でも、どうしても、あの日から逃げることができない。
辛かった。
親もそんな俺を心配してくれたんだろう。
ここの村で一人暮らしをすることを勧めてきてくれた。
俺は逃げるように、ここにきたんだ。
少しでも、あの日から遠ざかるために。
……夢を見てから調子が変だな。
今日はもう寝よう。
……




