10/30 Wed ソロ
10/30
ここ数日、ソロはぼーっとしている。
いや、何か考え込んでいる。
この前のデートからずっとだ。
「なあ、ソロ」
「……」
話しかけても、返事がない。
「ソロ!」
「あ、ああ……ピグラ、何かしら」
「大丈夫か?」
「どうして?」
「何か思いつめたような顔をしてたからさ、気になって」
「ピグラが気にすることじゃないわ」
「心配ぐらいはさせてくれ」
「気持ちだけ受け取っておくわ」
「でも、私の本当を知ったらピグラは……」
「……ねえ、ピグラ。今日時間ある?」
「ああ、練習以外は何もないけど」
「それなら、また付き合ってくれないかしら」
「もちろんだ」
放課後。
全体練習を終えて、ソロと二人で森の石碑に来ていた。
「この石碑ね、私の姉さんの墓石なの」
ソロが手を合わせて目を瞑る。
俺もそれに倣ってルスリアへ祈りをささげる。
今はまだ明るいからどこか別のところにいるのだろう。
「少し聞いてくれる?」
「かまわない」
「そうね、どこから話そうかしら」
ソロは演奏するときと同じように目を閉じて語り始めた。
ーーー
この村にね、昔、頭がおかしくなっちゃった人がいたの。
それが幽霊の祟りだって村の偉い人が言い始めちゃって。
人柱をささげようって事になっちゃったの。
それに選ばれたのが……私だった。
両親はなんとか偉い人を説得してたみたいだけど上手くいかなかったみたいで。
私は怖くって、私と姉さんとアヴィだけの秘密基地にこもってた。
秘密基地って言っても私の家の小屋で、シャワーもトイレもあって住むには困らないの。
そこに姉さんがやってきて。
「大丈夫!私に任せて!」
って言って、食料とか持ってきてくれたの。
それから数日後、姉さんが代わりに人柱になっていたことを知った。
……姉さんが死んだのは私のせいだ。
だから、私は姉さんに報いないといけない。
ーーー
「ねえ、ピグラ。私はどうしたらいいのかな」
「きっと今を生きればいいさ」
「死んでしまった姉さんの分まで生きれば……」
声が震えていた。
姉さんというのは……ルスリアのことだ。
ソロが思っているように、俺だってルスリアを殺している。
そんな俺が、生きればいいなんて、よく言えたもんだな。
「……ピグラは優しいのね」
「優しくないよ。だって……」
言うのか、最後まで迷った。
だが、言わないと始まらない気がした。
「ルスリアの最後の背中を押したのは俺なんだから」
「……え?」
「姉さんのこと……知ってるの?」
「ああ。昔、音楽教室で会ってな」
「もしかして……あの時ピアノを弾いていた……?」
「いつかはわからんがな。俺と一緒にピアノを弾きたがってた」
「俺はあいつが人柱になる為の演奏をしたんだ」
「……何で止めなかったの」
「知らなかったんだ。ルスリアを殺すことになるなんて」
「後から聞いた話だった。俺の演奏でルスリアが死んだって」
「俺がピアノを弾けなくなったのはそれからだ」
今でも調律の狂ったピアノの音が聞こえる。
思い出すだけで、自分を殺したくなってくるほどに。
「私たち、どうすればいいのかしらね」
「さっき言ったさ。生きればいい」
「それが無限の苦しみだったとしても。償わなければならない」
きっと幽霊の彼女が俺たちを責めることはない。
それでも……どうしようもないんだ。




