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10/26 Sat ソロ

10/26

待ち時間10分ほどより早く着く。

「あら、早かったのね」

「まだ10分前だぞ」

「ピグラも来たんだしいいじゃない」

「文句言う事でもないしな」

「文句じゃなくて褒められることをしてるでしょ」

「お互いな」

ソロはいつからいたのか、逆に怖くて聞けなくなってしまった。

「どこ行くか決まっているのか?」

「全然、ただ歩きながら会話したいわね」


普段下りない駅で改札から出る。

「初めて来たな」

「私もよ。いつも用事ないもの」

会話するなら話題の尽きなさそうな知らない駅で降りることになった。

「降りてすぐ足場が赤レンガなの珍しいな」

「駅の作りもしっかりしてたわ」

建築は門外漢なのだが、素人目でもわかる程、綺麗な駅だ。

「周辺に何があるか見て回るか」


「お花屋さんだ。ピグラ、何か買ってあげようか?」

「俺に花なんて似合わないさ。ソロの方がよっぽど花っぽい」

「壁の華とでも言いたいのかしら」

「俺がいつもいるだろ」

「そうね。二人でなっているもの」

「二人の時点で壁の華ではないだろ」

「ふふ。秋桜にシクラメン……」

「清純とか謙虚みたいな花言葉だったかしら」

「パンジーもあるな。秋といえばだな」

「花言葉、知ってる?」

「いや、そういうのには明るくない」

「とっても素敵な花言葉よ」

「一輪もらおうかしら」

「今買ったら、帰るまでにしおれるぞ」

「なら、こっちの押し花に」

ソロは青いパンジーのしおりを買っている。

「待たせたわね」

「気にするな。花に囲まれるのも悪くないんだな」

「いつも囲まれてたのは音だったから新鮮なんだ」

「それならよかった。花は悪くないもの」

「時々、棘だったり毒があったり、花粉を巻いたりするけどな」

「否定できないわね」

苦笑いを浮かべつつ、後にする。


「お、楽器店だ」

知らない土地の楽器店。

「うずうずしてるわね」

「そりゃそうさ。行ってきてもいいか?」

「ええ、もちろん」

俺はソロの返事を聞いて駆け足で向かった。

どかっ

「へぶっ」

「自動ドアよ、ここ……」

いつものお店が押し扉だったからドアに激突してしまった。

「いてて、焦りすぎた」

ゆっくりドアが空いていく。

ソロと並んで入店した。


「……」

ガタイのいい男の人がカウンターに座って新聞を読んでいる。

お店の人なのだろうか。

試し弾き用のヴァイオリンを手に取る。

「ー♪」

調律されてある、あるべき形のヴァイオリンだ。

「おい、あんちゃん」

いつの間にか店員が近くに来ていた。

「ヴァイオリン上手だな」

「ありがとう、ございます」

「他に楽器できんのか?」

「ある程度は出来るけど……」

「じゃあ、こいつを頼んでもいいか」

お店の人が指をさしたのはピアノだった。

「ピグラ……」

「……弾かないです。ピアノは」

「弾けないではなく弾かない、か」

「何かあったんだな、悪かった」

「このピアノもな、いわくつきで誰も弾いちゃくれないんだ」

「それにさっき自動ドアにぶつかってただろ」

「他に行きなれた場所があるか自動ドアの存在を知らないかの二択だ」

「まあ、後者なわけないんだけどな」

「それで……あんたなら、弾いてくれると思ったんだけどな」

「……すみません」

「いや、良いんだ。無理行って悪かった」

「隣の村では幽霊だとか行ってるけど、こいつもその類なんだろうな」

お店の人はカウンターの裏へと下がっていった。

「ねえ、私がピアノ弾いてみてもいい?」

「……大丈夫」

ソロが席に着く。

「ー♪」

月光第二楽章。

第一楽章や第三楽章の人気の高さに隠れがちだが、これもまたいいものだ。

いつか「私はこれしか弾けないから」と言っていたか。

「俺が弾かない分には大丈夫なまで回復したんだな」

いつの間にかソロの演奏を受け入れていた。

めまいも恐怖感もない。

「ふぅ……」

第一楽章と第三楽章のつなぎなため演奏時間は短い。

「連れの方か」

お店の人が背中を壁に預け腕を組んでいた。

「良い演奏だな。嬢ちゃんはピアノが得意なのか?」

「いや、これしか弾けないはずだ」

「そうか」

「ピグラ、体調は?」

「大丈夫だ」

さっきと同じセリフでも、意味が違う。

「勝手に演奏しても良かったんですか?」

「ああ、もちろん。演奏してくれてありがとな」

優しくピアノをなでながらソロに頭を下げる。

「っ!そこまでしてもらわなくても」

「幽霊でいわくつきなのは本当なんだ。誰も怖がって避けられてた」

「幽霊……」

「ピグラ、村の外でも幽霊っているのね」

「一般用語だしな。幽霊信仰なんて探せばいっぱい出てくるだろうさ」

かといって、ただのいわくつきの楽器なんてたくさんあるが、大半が思い込みだろう。

もしかしたら少しはルスリアみたいな例があるのかもしれないが。

「この子は怒ってるのかな」

「どうしてだ?」

「いわくつきだ、なんて避けられて、ずっと一人でいて」

「演奏してもらうために生まれたのに誰からも演奏してもらえなくて」

「それでなんで怒っているんだ?」

「きっといわくつきって呼ばれるようになった理由があると思うの」

「それで怒ってるんじゃないかって」

「なるほどな」

俺が弾いたら一音を鳴らすだけでも汗が止まらず、目の前がちかちかしてしまう。

救うことは出来ないピアノ。

ソロが弾いてくれて、少しはその役割を果たせたのだろうか。


午後、デパートでのウィンドウショッピング。

「少しお手洗いに行ってくるわ」

「了解」

ソロがトイレに行ってくるようなのでベンチに座って待つ。

「あれ、ピグラくん」

「ん?」

振り返るとルスリアがいた。

「え、なんでここに?」

「ずっと村にいても暇だから時々外に出てるんだ」

「村の地縛霊みたいなものかと思ってた」

「間違ってはないんだけどね」

「でもあんまり目立つことはできないんだ。ただ、雑踏に紛れる一人になることしかできない」

「君をのぞいて、ね」

「君だけは、私を見てくれるから」

「大袈裟だよ」

「そう言えばいつだか幽霊の噂を聞いたな」

「なんでも財布を拾ってくれたとか」

「あ、あー……」

困ったような顔をして、下を向いている。

「私だね……」

「目立つことはできないんじゃなかったのか」

「目の前で財布落とされたら届けないわけにはいかないじゃないか」

「確かに」

「それで、やむを得ず……」

「悪いことをしたわけじゃないし、いいんだろうけど」

「でも、あんまり人目につくのも褒められたものじゃないんだよね。幽霊だから」

「幽霊も大変なんだな」

「そうだね」

「もしもだけどさ、蘇れるとしたらルスリアは蘇るのか?」

「うーん、どうだろう」。案外今の生活が気に入っているかもしれないね」

「退屈だからってこんな場所に来てるのにか」

「それを言われたら返す言葉がないね」

ルスリアは一つ、間を置くと

「でも、私より蘇って欲しい幽霊はいるけどね」

「森でも幽霊を探してるって言ってたな」

「はい。大切な人なんだ」

「自分よりも蘇ることを願う人か」

俺がもし幽霊になったら、きっと自分のことでいっぱいだろう。

ルスリアは大人だな。

「そろそろソロが帰ってくるかな」

「え、ソロと来てるの」

「ああ、言ってなかったか。今お手洗いに行ってるんだ」

「先に言ってよ!」

ルスリアは慌てて逃げていく。やっぱり家族から見えないのは辛いのだろう。

「お待たせ。待たせたわね」

「気にするな」

「さっきピグラの話し声が聞こえたけど誰かいたの?」

「でかい独り言さ」

「え……」

ドン引きされていた。

でもルスリアのことを話すわけにもいかない。

「……本当に?」

「ああ」

「……」

「何かあったのか?」

「ねえ、ピグラ、少し変なことを聞くわ」

俺の隣に座って話を続ける。

「大事な人と、これまで生きてきた目標を天秤にかけた時、どっちに傾く?」

「難しい質問だな」

そもそも俺の大事な人って誰だろうか。家族?いや、もっとつながりが深い人。

考えたときに浮かんだのはソロだった。

「でも、俺には生きていく目標ってのがないんだ」

「……普通はそうよね。重たく考えなくていいわ。一番好きなものとか」

「一番好きなもの……」

ソロの演奏か。

ソロとソロの演奏を天秤にかける……

「同じくらい大切だな」

「というか同じだし」

「何を比較したのよ」

「ソロとソロの演奏」

「っ!」

ソロの顔が赤くなる。

「ピグラってばさらっというわよね」

「でもその二つは同じじゃないわ」

「もし、私か、私の演奏しか選べないとなったら、ピグラはどうする?」

「ソロかな」

自分でもびっくりするぐらい即答だった。

「……ありがとう」

「私はピグラみたいにすぐに答えを出せないでいるの」

「まあ、そうだろうな」

「即答した俺ですらびっくりしてんだ。でもソロの演奏が聞けなくなったらそれはそれで寂しいな」

「怪我とかで弾けなくなったなら心配するけどな」

「ゆっくり考えるのが一番だろうさ」

俺たちは並んで流れていく人を眺める。


日も傾き、夜が近くなった時間。

「今日はここまでにしましょうか」

「そうだな、楽しかったぞ」

「ふふ、私もよ」

俺たちの家への分岐で手を振って別れる。

トイレから帰ってきたソロ、なんだか様子が変だったな。

何かを思いつめたような。

明日から気にかけるようにしよう。

ソロの演奏のためにも。

ソロのためにも。

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