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10/17 Thu ソロの場合

ーーーソロの場合ーーー

「もう終わりなの?」

「え?」

振り返るとソロがいた。

「最近ずっと一人で練習してるわよね。演奏会に出ないのに」

「たまには、な」

「何かあったの?」

「……」

彼女からは会ったことを誰にも話すなと言われている。

それに姉の話をしても、ソロは見ることはできない。

「聴かせたい奴がいるんだ」

「その割には変な演奏だったわね」

「ソロもそう思うか」

「なんて言うのかしら。空に向かって演奏してるような感じ」

「昔はもっと弾けてた気がするんだけどな」

「ねえ、私と一緒に演奏してみない?」

「気分転換にはちょうどいいかもな」

ソロがヴァイオリンを取り出す。

「曲はどうする?」

「いつものでいいわ」

「了解」

俺が先行して演奏を始める。

……

『2つのヴァイオリンのための協奏曲 第一楽章 ヴィヴァーチェ』。

バッハの曲だ。

「……」

ソロはもう一つの旋律を引く。

対位法なため、どちらのメロディーも異なる曲。

だからこそ、相手の演奏をしっかりと聴かなくては弾くことができない。

ソロと目を合わせる。

心から、相手と通じ合う。

俺が一人で練習してても、辿り着かなかった音。

今までずっと独りよがりな演奏だったことに気付く。

「……」

演奏とは、聞いてもらう人との対話でもある。

「……ふっ」

楽しくなってきた。

「良い演奏するじゃない」

「ソロと一緒だからかな」

「うれしいこと言うわね」

「まじめな話なんだけどな」

「何で一人で練習してたの?」

「……演奏を聞かせたい人がいてな」

「へぇ」

「その人に一度演奏を聞かせたら音が違うって言われてさ、また一週間後に聞かせることになった」

「だから練習してたのね」

「俺の音は、届くだろうか」

「珍しく弱気ね」

「俺自身、わかってたから。音がおかしいことを」

「練習不足ならよかったんだ」

「でも、違った」

「ソロとの演奏はすごく楽しかった」

「虚無に向かって演奏している時より、はるかに」

「虚無に向かって演奏、ね」

ソロが一人で演奏を始める。

「その曲は……」

どこかで聞いたことがある。

だけど、どこで聴いたのか……思い出せない。

「私も虚無に向かって弾いていたのかもね」

演奏を終えて、ため息をつく。

「その曲って、なんだ?」

「私が小さいころによく聞いてた曲よ。何の曲なのかは私も知らないわ」

昔に流行した曲とかだろうか。

「私もみんなと演奏して、少し前に進めたのかな」

「確かに、昔と比べたら音が変わってた気がする」

「でも、俺は今の音も好きだ」

「……ありがとう。でも、直球なのもよくないわよ」

「勘違いしそうになるから」

「それはすまなかった」

ソロの音が好きなのは事実だが、言葉が難しいな。

「私もピグラの音、大好きよ」

「俺よりまっすぐだな」

「ふふっ、お返しよ」

確かにソロに言われて悪い気はしない。

「ねえ、もう一回演奏しない?」

「良いぞ」

俺たちは日が暮れるまで2人で演奏をした。

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