10/13 Sun その2
「ピグラさん、終わりましたよ」
「んっ」
演奏も終わり人もはけて少なくなっている。
「ピグラは終わるといつもそうなんだよ」
「放心状態っていうのかしらね」
音楽は時間芸術とも呼ばれる。
美術などの空間芸術に対して、その場にしか存在しない芸術だ。
最近だとライトなものだとゲームやアニメも時間芸術に含まれるのだろう。
それが終わった後の余韻に浸るのはとても心地がいい。
「いつもはどうしてるの?」
「そうね、ピグラが復活してくれればそれまでなんだけど、長い時は警備の人に怒られるわね」
「おーいピグラ。今日は3人じゃないんだから行くぞー」
遠くで声が聞こえる。
ラビア、ソロ……いつものメンバー……
「はっ」
じゃなかった。今回はソロとゴラもいるのだ。
「あ、帰ってきた」
「いつもより早かったな。それじゃあ帰るぞ」
失念していた。ソロとラビアだけなら好きにしてくれてもいいのだが、まだ付き合いの浅い二人に迷惑をかけるわけにもいかない。
それに今回の目的は親睦なのだ。空気を悪くしては本末転倒。
「にしても、良かったなぁ」
「変な選曲だったな。『死の舞踏』なんて久々に聞いた」
「そう?私は好きよ」
「へぇ」
今回のオーケストラは幽霊や死神がコンセプトだったみたいで、他の曲も『山の魔王の宮殿にて』や『禿山の一夜』等、不思議な曲ばかりだった。
「終始不気味なのは驚くけどな。演奏自体は良かった」
「確かに。技術も統制も取れてた」
「ねえ、私たちの足りてないのってあれじゃないの?」
「あれ?」
「そう、指揮者!少なくとも指揮者がいればバラバラなのは解決できるんじゃない?」
「指揮者か……」
俺は人前で演奏するのが嫌だ。
指揮者も演奏の一つだと認識している。
アロとかに任せるとかは出来るんだろうか。
「アロに頼んでみるか」
「多分だけど無理だと思う。運営で忙しいって言ってたし」
「それこそ私たちに裏で頼んでくるほどにはね」
「だよなぁ」
「まあ、指揮はおいおい考えるとして、どこか食べにいかない?」
「いいねぇ。行こっ」
少し遅めの昼ご飯をとるために、適当なカフェに寄る。
それぞれの注文を終え、一息ついた。
「お待たせしました、こちら海鮮パスタになります」
俺の注文が他の人より少し早めに届いたので、食べようとする。
「それ、おいしそうね」
「少し食べる?」
「一口だけもらおうかしら」
俺が使おうとしたフォークを受け取り一口食べる。
すすらずに綺麗に食べるもんだから感心した。
「ここのパスタ初めて食べたけど結構いけるわね」
「俺いっつもパスタだから後でソロのも分けてくれ」
「良いわよ」
ソロからフォークを返してもらい俺も食べ始める。
「そういえばなに頼んだんだ?」
「お待たせしました、こちらドリアでございます」
タイミングよくソロの注文が届いたみたいで、店員がプレートを持ってくる。
「食べる?」
「今は熱いだろ。冷めたらもらう」
「賢明ね」
鉄板のプレートからは湯気が立っており、今食べたらやけどすること間違いないだろう。
「なあ、俺も少しもらっていいか?」
「ん?いいぞ。ラビアはミートパスタだったか」
「ああ、一口食べて良いぞ」
自分のフォークでそのままラビアのパスタを食べる。
こっちのパスタもなかなかうまいんだよな。
「ラビアくんとは間接キスしないんだね」
「まあ、お互いフォークだしな」
「……とは?」
「さっきソロとはしてたよね」
「あー……今更気にするようなことでもないだろ」
「大人だね」
からかわれてフォークをやけに意識してしまう。
「そんなこと言うならアヴィも食べるか?」
「え?いいの?」
アヴィは手を伸ばして俺からフォークとパスタを受け取ると、貝柱を一つとって食べた。
「そこ食べるヤツ、なかなかいないだろ」
「え?悪かった?」
「悪くはないさ、珍しいなと思って」
「私のも食べていいからさ」
アヴィは食べかけのハンバーガーを手渡す。
……どこを食べればいいのか困るな。
「はむっ」
とりあえず隅っこの方を強引にちぎって食べる。中のチキンがかすって全然取れなかった。
「もったいない食べ方するね」
「責めないでくれ」
アヴィとのやり取りをゴラが見つめてくる。
「ゴラも食べるか?」
「いいんですか?」
「ああ、もちろん」
「それじゃあ」
ゴラからサンドイッチを一つ受け取る。
「対価が大きくないか?」
「気にしないでください」
ゴラの手元には色とりどりのサンドイッチがまだたくさん残っていた。
「値段の割には量が多いんですよね、ここのサンドイッチ。食べきれるかわからないんです」
「普段なら頼まないんですが、皆さんがいるので大丈夫かなって」
ゴラも丁寧にパスタを食べる。
「おいしいですね」
俺も受け取ったサンドイッチを食べる。
「ああ」
確かにおいしい。ただ一人で頼むには量が多すぎる。
ゴラは、自分の頼んだサンドイッチをアヴィにも分けていた。
「ありがとうございます、ピグラさん」
まだ少し残っているパスタとフォークを返してもらう。
こうして食べ物をシェアするのも一人では出来ないことだな。
「ごちそうさま」
「食べたなあ。ちょっとトイレ行ってくる」
ラビアが席を立つ。先に行ってても良いのだが、食後の幸福感がすぐに動くなと言っている。
しかし、友達が一人抜けた後というのは不思議なことに盛り上がってても静かになることがある。
だからだろう、少し声が大きめな男の集団の会話が耳に入ってくる。
「俺この前、幽霊みたぜ」
「は?なに言ってんだ?頭おかしくなったか?」
「ちがうちがう。なんていうかな、急に女の声で「落としましたよ」って声が聞こえてきたんだ」
「あたりを見渡したら建物の影から手が出てきてな、俺の財布を拾ってくれたみたいで渡してくれたんだ」
「お礼を言おうと思って覗き込んだらそこには誰もいなかったんだ」
「えぇ?夢でも見てたんじゃないのか?」
「そんなことはないと思うんだがな。ほら、この村って幽霊が出るじゃん?」
「信じてる奴なんていねぇって」
「そうかな。俺はいてもおかしくないと思うけどな」
「不思議な話もあるもんだな」
俺が三人に話しかける。
が、返事がない。
何か様子がおかしい。
「……」
ソロはこぶしを握って震えている。
「……っ」
ゴラは今にも泣き出すかのように。
「ほー……」
アヴィはぼーっと話に聞き入っている。俺の声なんて聞こえちゃいないみたいに。
「ど、どうしたんだ?」
「っ!」
「なんでも……ないわ」
「す、すみません」
アヴィはまだ聞こえていないみたいだ。
「お待たせーっ。それじゃあ帰ろ……う?」
何も知らないラビアが戻ってくる。
「おい、何があったんだ?」
「俺にもわからん。幽霊の話が聞こえた途端これだ」
「幽霊……?あぁ……」
何か知った顔で頷く。
「知ってるのか?」
「当事者ない俺から話すことじゃないさ」
「うーん……それなら、時間もいい感じだし、ひとまず解散するか」
「このまま放っておくって言うのか?」
「俺だってできればなんとかしたいけどな。あいにく、部外者の俺にできることはないんだ。一人にしておくことしかな」
「あるいはピグラなら……」
「いや、なんでもない。俺は帰るな」
「おっ、おい!」
「それじゃあな。みんな」
「あれ?ラビア帰るの?それじゃあ私もそろそろ帰るわね」
ゴラは頷く。声が出せないのだろう。
「アヴィ!帰るわよ!」
「……え?」
「あ、私……」
「どうしちゃったの?私たち帰るからね」
「う、うん! わかった! またね!」
こうして帰路に分かれる。




