10/13 Sun その1
10/13
翌週末。
鏡の前で制服を整える。
ソロ以外と出かけるのは久しぶりだな。
コンサートなわけだし、身だしなみは最低限整えておきたい。
待ち時間15分前。
一人だけ先に待っている奴がいる。
「あっ、ピグラさん。早いですね」
「ゴラなんて俺より早いじゃないか。いつから待ってたんだ」
「ちょうど今来たところです。ピグラさんとそんなに変わりませんよ」
「ラビアも見習ってほしいものだ」
「ラビア先輩?」
「遅刻の常習犯なんだ。学校でも出席がギリギリらしい」
「あはは……想像できます」
今のうちに、今回の課題の一つを確認しておくか。
「なあゴラ。ソロは苦手か?」
「えっ?」
「……苦手とかそういうのじゃないんです」
「何があったか聞いてもいいか?」
「……私のせいで、ソロ先輩の大切なものを奪ってしまった」
「私のせいで……」
具体的なことは話してくれない、か。
だがソロを見てる限り、ソロはあまり気にしていない。
ゴラが重く受け止めすぎているのだろう。
「それってさ、結局償いになるのか?」
「……」
「ソロに怯えて、逃げて、謝って。それが本当に奪ったものの償いになるのか?」
「確かに恨んでくれた方がはるかに楽かもしれない。それだったらお互い向いてる方向が同じだからな」
「でも、ソロはきっと違う」
「だったら、正面から言った方が償いになるかもな」
「ピグラ…さん」
「まあ急には難しいか。でも、俺としては仲良くしてくれた方が嬉しい」
「ソロの性格上、すぐには無理かもしれないが」
「まずは今日話してみることから。これでどうだ?」
「……頑張ってみます……!」
そうだ。この方がいい。
きっと演奏にも良い影響が起きるだろう。
……
……俺は……
「あら?二人とも早いのね」
「ソ、ソロ先輩っ……!」
「ソロも早いな。まだ五分前だぞ」
「待ち合わせには早く来るものでしょ」
「それもそうだな」
「二人はいつから来てたの?」
「大体今から十分前ぐらいだな。ゴラはそれよりももっと早く来てたけど」
ゴラに会話の流れを渡す。しかしゴラが固まってしまっている。
「大丈夫だから、な」
小声で勇気づける。俺にできるのはこれぐらいだ。
「……私も同じぐらい……です」
「……」
「……ふふ。真面目なのね」
「大方ピグラが何か言ってくれたんでしょ」
「でも、そうやって向き合ってくれた方が嬉しいわ」
「過去の罪を償いたいのなら、逃げるより向き合った方がいい」
「ごめんね、遅れちゃった」
「そんなに遅れてないわよ」
待ち合わせより1分遅れてアヴィが到着。
「それじゃあ行くか」
「あれ? ラビアくんは?」
「きっとまだ寝てるさ」
「ほっといて良いんですか?」
「遅れてくる奴が悪い」
「私も遅れてきたんだけど」
「どうせ後で行き先連絡するじゃない……素直じゃないわね」
「コンサートまで時間を取ったのは良いんだが、どこか行くあてあるのか?」
「私、秋服がほしいな」
「それじゃあアパレルはどうかしら?」
「え」
「い、いいですね。行きましょう」
「あの」
「なにぼーっとしてるの?」
「ピグラ君もいくよ」
女子に囲まれて俺がアパレルショップに行くことになった。
……なぜ?
半ば強引に連れられて入店させられた。
制服の集団がアパレルに来るのも変な光景だが。
「お客様、本日はどのようなご用件で?」
「新しい秋服を買おうと思ってて…」
アヴィとゴラが店員に話しかけられていた。
ソロは俺の後ろに隠れて服を選んでいる。
「アパレルショップの店員ってグイグイ来るから苦手なのよね」
「わからんでもないな」
「ねえ、ピグラ。好みの服とかある?」
「それはソロが着る服としてか?」
「……女の人が着る一般論としてお願い」
「なら人によるってなってしまうな」
「じゃあ、私ってことで……」
俺の好みを聞いて何になるのか。
しかしソロの私服は落ち着いた大体暗めの色が多い。
「こっちのリボンがついた黒い服とか似合うんじゃないか?」
「ふーん。ピグラはこう言うのが好きなのか……」
「買うのか?」
「考えとくわ」
「ピグラくーん、ゴラちゃんの服どっちが似合う-?」
アヴィが遠くの俺に視線を向ける。
「ここからじゃ見えにくいな」
二人の方に近づくと、ソロも付いてきた。
まあ、一人じゃ話しかけられるだろうしな。
「こっちの黒いやつと白いやつどっちがいいかな」
ソロと同じように意見を求めてくる。
「白い方かな」
「(私の時は黒い服だったのに)」
「ソロとゴラじゃ違うだろ」
「っ!聞こえてたの!?」
「なんだ?聞こえてないと思ったのか?」
「なんでもないっ!気にしないでっ!」
語尾に促音がついてるあたり、触れない方がいいな。
「じゃあ、白い方にしますね」
「アヴィは何買うか決めたのか?」
「うん。さっき店員さんに勧められたのを買おうかなって」
「ピグラくんは何か買わないの?」
そろそろ衣替えもしないといけないし、冬服の用意はしておいた方がいいか。
「そうだな、俺も何か買っておくか」
「っ!じ、じゃあ!」
ゴラが服を一枚持ってくる。
「これをみた時にピグラさんにきてみて欲しかったんです!」
目を輝かせて見上げてくるもんだから断るに断れない。
「まぁ、いいか」
一度許可してしまったら、もう遅かった。
アヴィとソロも服を持ってきてしまい、俺は彼女たちの着せ替え人形となるのだった……。
「何やってんだ?」
「やっときたか……ラビア、助けてくれ……」
「おお……その辺にしてやってくれ、そろそろ入館時間だろ」
「あら、もうそんな時間なのね」
「ピグラさんは服買うんですか?」
「今はいいかな……」
少し大きめなコンサートホール。
係の人にチケットを切ってもらう。
「わぁ!コンサートホールって初めてきました」
「私も小さい時以来だなぁ。ピグラくんはどうなんですか?」
「俺は時々来てるな。村にくる前からも」
「俺とソロとも何回か一緒に行ったしな」
「楽しみなのはいつも変わらないけど」
時々一人で来ることもあるのだが、大勢で来るとそれは別の楽しさがある。
「席順どうする?」
「クジで決めるか」
チケットの半券を裏返してみんなの前に並べる。
「俺Fだ」
「J……通路側ね」
「Gです」
「Iだった!」
「じゃあ俺は残り物のHか」
俺たちの席はちょうど真ん中あたりだ。
ソロの引いたJが真ん中の通路に接している。
「なんだかワクワクするね」
隣の席のアヴィがソロと話している。
「あんまり子供みたいなこと言わないほいがいいわよ。私たち以外もいるんだし」
「それでも楽しみでしょ?」
「……ええ」
「ピグラさん。パンフレットって貰いました?」
「いや。曲とか何も知らずに聴きたいからな」
「私もです。初めてなら、何も知らずにって思ったんです」
その奥でラビアはパンフレットを読んでいる。
俺のことを知ってるからあえて何も話してこないんだろう。
「始まるみたいですね」




