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9/29 Sun 村祭りにて

誰が駒鳥殺したの

それは私とスズメが言った

私の弓で 私の矢羽で

私が殺した 駒鳥を


9/29

音楽はよい。

演奏するのも、聴くのも。

心と体が動く。

だから、あえて言わせてもらおう。

「下手な演奏だな」

「ピグラ。あんまり言わないの」

2ヶ月に1回の村祭り。

催しの一つ、ボランティアの演奏会。

だが今回は音もバラバラだし、一人一人の腕前も全然だ。

「ソロも思うだろ……クラリネットのやつどこかで見たな」

「知り合い?」

「いや……」

下手な演奏だ。となると

「森であったな。あまりにも下手な演奏だったから覚えてる」

「俺の顔を見るなりどこかに消えたけどな」

「危ないから近寄るなって言われてるのに……」

会場である公園に内接された広場よりもさらに広い森。

公園の反対側は崖になっており海が続いてる。

落ちたら危険なため近寄るなと小さい頃から教わるのだ。

「って言っても俺、今年村に来たばっかだしよく知らなかったんだよ」

「いまも行ってるくせに」

「静かなのが悪い。たまに演奏しにくるやつもいるけど」

クラリネットのやつもその一人だ。

「聞いてられん」

「どこに行くの?」

「静かなところだ」

「もう……じゃあ演奏会が終わったら会いましょう」

俺は背中を向けて頷いた。


赤いカラーコーンを避けて森に入る。

誰が置いたのか知らないが立ち入り禁止を意味するものだろう。

律儀に守るやつもいるんだろうか。

かなり広いから子供が入ると危ないとか、そういった理由もあるのかもしれない。

その分静かなのが良いんだけど。


祭りの喧騒が徐々に小さくなっていく。

中央ぐらいまで来ただろうか。

森の全体なんて知らないけど。

「あれ?」

先客がいる。

女の人だろうか。

大きな根っこに腰掛けている。

俺みたいに静かな場所を求めてきたのだろう。

邪魔したら悪いな。

ペキッ

「あ」

小枝を踏んで音が鳴る。

「……」

目が合ってしまった。

気付かれる前に去ろうと思ったのだが。

俺がいることに気づくと少女は焦って立ち上がり、足元の根っこに引っかかる。

「悪かった。邪魔したな」

「……」

「森って、立ち入り禁止ですよ?」

「そうなんだ。俺この村に来たばっかりでよく分かってなくてさ」

平然と嘘をつく。

「この村に来たばっかりって言うのは本当みたいだね」

「今年の4月からこの村に来た」

「それで、どうしてここに?」

「祭りがうるさくてな。静かな場所に行きたかったんだ」

「なら、ここじゃなくても街の方に行けばいいんじゃないの?」

「友人ときててな、そっちは祭りを見たいらしい。待ち合わせしてるからあんまり遠くには行けないんだ」

「そうなんだ」

少女が俺の方に駆け寄ってくる。

「ここが立ち入り禁止の理由、知ってる?」

「端の方が崖になってて危ないからって聞いたな。海に落ちたらひとたまりもないって」

「それだけじゃないんだよ」

少女は俺の瞳を見つめる。

「幽霊が出るからなんだ」

「は?」

「この森には幽霊が住んでいる。だから入ってはいけないんだ」

「初めて聞いたな」

「誰も信じてないからね。おかげで君みたいな人がたくさんくるんだ」

「君もその一人じゃないか」

「そうだね。でも私は幽霊に会うためにここにいるんだ」

「会えるといいな」

「本当にね」

少女は俯く。

きっと何か、理由があるのだろう。

「邪魔したな。ってこれはさっきも言ったか」

「引き止めてごめんね。あと、一つお願いしてもいいかな?」

「なんだ?」

「私のことは誰にも話さないでね」

「話すも何も、君の名前を知らない」

「……そういえばそうだね。でも、それでも話さないで」

「ああ、わかった。じゃあ今度こそ去るよ」

「うん。話してくれてありがとう」

俺は騒がしい祭りの方へと向かう。


「あら?早いわね。演奏終わってないわよ」

「幽霊と出会ってな」

ソロの隣に座って俺も演奏を聞く。

奏者は素人だし、こんなのを聞いて何が楽しいんだか。

ソロに呼ばれたから来たものの、かなり苦痛だ。

「なんで俺を呼んだんだ?」

「昔に一度来たじゃない」

「初めて来た時だろ。今は違う」

「一人で来ても寂しいじゃない」

「なら他にも誰かいるだろ」

「ねえ、私の友達に誰がいるか知ってる?」

顔を上げて思い出す。

ソロと一緒にいる人。

「ラビアは?」

「騒がしいから目立つじゃない」

じゃあ他には……

「もしかして俺とラビア以外に友達いないのか?」

「ええ、そうね」

さも当然というように前を向く。

ソロはかなりの人見知りだ。

それこそ一人で祭りに来れないほどに。

「文句があるならあとで何か奢ってあげるわよ」

「いや、奢ってくれるぐらいなら」

奢ってもらうより、俺には欲しいものがある。

「あとで演奏を聞かせてくれ」

俺はソロの演奏に惚れているのだ。


今思うと不思議な出会いだった。

見覚えのある少女についていったら、ソロが演奏しているところにたどり着いたのだから。

以来、俺はことあるごとにソロの演奏を聴いている。

心に響くようなそんな音。


「あいかわらずね、私はいいけど」

「来た甲斐があった」

「ピグラだけよ、高く評価してくれるの。嬉しいけど」

軽く会話をしているうちに演奏会が終わり、片づけが始まる。

「私たちも帰りましょうか」

「そうだな」

俺は浮つきながら学校へ向かう。


もともとノベルゲーム用に仕立て上げたシナリオです。一人でやるには作業量が多く、挫折しそうになったので、シナリオを公開しておきます。

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