最後の
三題噺もどき―ひゃくななじゅうきゅう。
お題:晴れた空・電車・素直
音もなく景色が流れる。
目にも止まらぬ速さのようで、それでもくっきりと残る。
「……」
1人、ぼうとしながら、電車に揺られていた。
「……」
窓の外には、どこまでも広がる晴れた空。
綺麗な空色がどこまでも続いている。太陽らしきものは見えない。まぁ、きっと窓枠から外れているだけだろう。
―それとも、ホントになかったりするのだろうか。
「……」
広がる空には、まばらに雲が並んでいる。いくつかの群れを作って、広がったり、縮んだり。時折その隙間から、うっすらと空の色がうかがえる。秋に見える雲に、あんなのがあったなぁと思いつつ。でも、あの奥にある大きな雲の塊は夏の風物詩ではなかろうかと。
まぁ、今がどんな季節かなんて言うのは、関係あるようでないので、どうでもいいのだが。
―私には、もう関係ないのだ。
「……」
窓枠からは、空しか見えない。
これはどの辺を走っているのだろう。私がよく使っていたのは、海沿いを走っていたから、空と海が一緒に見えたりするのだけれど。町中だとしても、建物ぐらいは見えそうだ。
―あぁ、それとも、空に近い所でも走っているんだろうか。
「……」
車内に人は誰もいない。
何両あったか忘れたが、たいして長くもないだろう。
こんな時間だし。こんなタイミングだし。
―こんな電車だし。
「……」
正直言うと。私が思っているのと、ここの時間が一致しているのかが、定かではないのだが。いかんせん想像していたより外が明るいのだ。私が見た時間だともう少し暗いのだけれど。
―それもまぁ、当たり前と言えばそうか。
「……」
ふと、この電車に乗る少し前の事を思い出した。
本当は考えたくもないのだけれど…。さっきから、頭の中でずぅっと同じセリフがぐるぐると回っていて、気持ち悪いのだ。不愉快で仕方がない。
これに向き合えと、急かされているのだろう。
―私がここに居る理由を、ちゃんと認識しろと言う事だろう。
「……」
秋に入りつつあったあの日。
セミの声が、鈴の音に変わったあの日。
一日中続く暑さが、日中にだけ留まるようになったあの日。
「……」
何がよくなかったのかは、正直わからない。
あの時の私は、どうかしていたとしか思えないのだ。
―今となっては。
「……」
何だったか。
そう。
あれこれ言い合いをしていたのだ。それとも、一方的に言い放っただけだろうか。
大切なあの人と、口論になったのだ。内容は、もう忘れてしまった。まぁ、それほど大したことでは、なかったのだろう。
「……」
ただ、あの日。
あの頃。
私はもう、異常だった。
身体が、エラーを起こしていた。
精神的に、赤信号状態だった。
何もかもが、うまくいかなくて。自分のコントロールもうまくいかなくて。
それで、何だったか。
『―たまには、素直になればいいのに』
そう、言われて。
なぜか、がくんと血の気が引いて。さぁっと、体温が下がっていって。
もう、ホントに、ありとあらゆることへの気持ちが失せて。
あの人への思いも。
仕事のことも。
人生の事も。
生きることにも。
―意味がなくなってしまったように思えて。
「……」
それで、そのまま。
ぼうっとしたまま。
あの人の前を去って。
何もないままに。ふらふらと。
―無意識に足は非常階段に向かっていて。
「……」
その後。
その、あと―?
どうだったか。
もう覚えていない。
ただ、まぁ、
「……」
謝れなかったのは、悪かったなぁと。
「……」
今更ながらに思って。
もう遅いことを痛感して。
―痛感するも何もないのだけれど。
「……」
私はもう。
あの世界には、いないので。
「……」
気が付けばここに座っていて。
行き先を見て。
―あぁそうかと、納得して。
「……」
『次は、終点―
いつの間にか、終わりが来ていた。
ホントの、終わりが来ていた。
『終点――』
まぁ、私の人生なんてその程度だったということで。
現世の皆さま。
それでは。
まぁ、常世でお会いできると。
さようなら。