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24.フランツ・ヨーゼフ朝の栄華と終焉

 ヴィクトーリアの身体は、婚姻から2年後に長男を産み、その2年後に長女を産んだ頃には以前とほぼ変わらぬところまで回復した。

 辺境伯領軍の魔術師たちや神教の法術師たち、公都を占領して即位してからは公国中の魔術師や法術師の中で選りすぐりの術者を集め、諦めずに治療を続けた成果が出たのだ。法術師に至っては戦争を終結させ友好条約を結んだエトルリア連邦の、首都フローレンティアにある神教総本山の中央大神殿からも幾度も派遣され、イェルゲイルの神々の力を借りる[請願]も何度も身に下ろしてもらえたことも大きかっただろう。

 右腕も、傷痕こそ消えなかったが、ちゃんと剣を握れるようになった。もっともその頃にはたまに夫と手合わせするくらいで、それ以外に彼女が自ら剣を持つこともほとんどなくなっていたが。


 ちなみに即位後は鎧を身に付けることもほとんどなくなっていた。即位後は、というより夫との初夜(・・)()迎えて(・・・)から(・・)と言った方が正しいかも知れないが。

 まあ周囲にしてみればどちらでも大した違いはない。彼女の治世で他国と戦争に及ぶような事態は一度も起こらなかったのだから。

 だが、それでも彼女の愛用の鎧と剣は常に彼女の執務室に飾られていた。いつでも使えるように常に手入れされ、ピカピカに磨き上げられていたその鎧は、臣下たちの間では密かに“女王の象徴”と呼ばれていたという。



 女王ヴィクトーリアと公配ジークムントとの間には二男二女が生まれた。長男オトフリートはバーブスブルク伯爵家から妻を得て、ヴィクトーリアの跡を継いでアウストリー公爵位を継承した。

 その彼が、公王に即位した際にミドルネームを「フランツ・ヨーゼフ」と名乗ったことから、ヴィクトーリアから始まる現在の(・・・)アウストリー公国の支配王朝を『フランツ・ヨーゼフ朝』という。


 オトフリート自身は「フランツ・ヨーゼフ2世」だと生涯名乗り続けた。初代はあくまでも母だということらしい。

 もっともその母は、あくまでも「フランツ・ヨーゼフ」の名乗りを始めたのは息子であり、自分が始祖だなどと名乗れないとして、頑なにフランツ・ヨーゼフ1世であることを認めようとはしなかったが。



  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇



 長年ヴィクトーリアの侍女を務め、彼女の婚姻の際にさえ侍女として仕えていたルイーサだが、ヴィクトーリアの婚姻からほどなくして侍女を辞め、自らも結婚に至った。

 相手はなんとビックリ、マインハルトである。つまりは彼女が東方辺境伯夫人ということになる。

 元々妹が好きすぎて婚約者さえも作らなかった兄である。必然的に周りにいた異性は辺境伯家の侍女たちにほぼ限定されていて、中でもヴィクトーリア一番のお気に入りだったルイーサとは普段からよく話して交流していたのだそうだ。


「というわけで女王陛下!いえ我が義妹(いもうと)よ!これからは『お姉ちゃん』と呼ぶのです!」

「いや違和感甚だしいんだが!?」

「なーに言ってんですか!こーんなちっちゃい頃はいっつも私にくっついて、『ルイーサおねえさま』って呼んでたでしょーが!」

「いや両掌に乗るような(そんな)小さな頃にはお前居なかっただろう?過去を捏造するのはやめてもらおうか?」


 ルイーサがヴィクトーリア付きの侍女になったのは彼女の最初の婚約が決まった8歳の時で、ルイーサは13歳だった。以来仕えること10年、子爵家の令嬢でもあるルイーサは完全に嫁き遅れの状態であった。

 なのでまあ、彼女が婚姻すること自体はヴィクトーリアにとっても喜ばしい。長年自分に縛り付けていた負い目もあったのでなおさらだ。

 だが、義姉(・・)となると話が違ってくる。


「なんと言われようとも、私が陛下の『お姉ちゃん』なのはもう変わらんのです!」

「くっ、何故か納得がいかない…!」


 そんなルイーサは、よほどマインハルトと相性(・・)が合ったのか、三男六女の子沢山に恵まれて幸せな生涯を送ったという。



  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇



 ヴィクトーリアの子孫たちの繁栄は長く続いた。その間アウストリー公国の国勢は大きく飛躍し、静謐な森林と湖沼に囲まれた公都ウィンボナでは楽器製造が産業として盛んになり、次第に音楽そのものを志す学徒も集まるようになっていき、いつしかウィンボナは「音楽の都」と呼ばれるまでになっていった。

 一方でかつてアウストリー公国を脅かすまでに強勢を誇った仇敵マジャルだが、宮廷の内紛に端を発した内乱が長く続いて大きく国力を減退させた。元々、七つの王国が共にひとりの王を戴く同君連合として成立しているのが王政マジャルであったが、それだけに国内をまとめる難しさも他国の比ではなかったようだ。



 アウストリー公国は今日でも栄え続け、古代ロマヌム帝国の末裔たる八裔国の誉れも失われないまま、西方世界でも有数の大国のひとつとして君臨している。西方国境地帯でドワーフたちの地下王国である岩都ザルブルグと、東北国境でエルフたちの王国である森都シルウァステラとも接しているアウストリー公国は異種族にも寛容だ。

 結果として、公都ウィンボナは人口およそ40万を超え、ドワーフやエルフ、さらにはその両種族と親しい妖精族(スプライト)なども見られる多種族都市としても名を馳せている。



 フランツ・ヨーゼフ朝は12代、約300年続く長命王朝になった。だがその終焉もまた東方辺境伯エステルハージ家によって幕が引かれたことは、一体なんの因果であったろうか。あるいは神々の悪戯であったのかも知れないが、真相は誰にも分からないだろう。

 ちなみに、フランツ・ヨーゼフ朝が倒れた直接の原因もまた、公太子(・・・)による(・・・)婚約破棄(・・・・)()発端(・・)であったこと、ここに明記しておく。歴史は繰り返すといわれるが、全くもってその通りであると言わざるを得ない。




〜fin.〜







最後までお読み頂き、ありがとうございました。




実を言うと、最後に書いた婚約破棄話も書いてたりします、というかそっちを去年書いてて、同じ国を舞台にしたので最後にちょっと続編匂わせ気味に書きました(笑)。まあそっちは中盤の30話ぐらいまで書いたところで展開に迷って筆が止まったままになってますが。

もしお読みになりたい奇特な方がおられましたら、感想欄などでリクエスト頂けると書く気に繋がる、かも知れません( ̄∀ ̄;

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― 新着の感想 ―
[良い点] 公女が死んだその後で。から作者様の作品に引き込まれて読み漁りましたが、こちらもサクッと読めて面白かったです。 [気になる点] 最後にあとがきに?にあった、この物語の後の話、すごく気になりま…
[良い点] 良き [気になる点] こんな大国の始まりが婚約破棄騒動だったのに、今なお婚約破棄騒動をやらかす王侯貴族がいるのはもう神(作者)様の呪いなんだろうなってw [一言] 婚約破棄をしたくなる・見…
[良い点] いいショートストーリーでした
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