07 魔灸の森
とは言うものの、旅の道連れ、なかなか良い人が見つからないのです。
もちろん、途中の村にある仮設ギルドで護衛を依頼することも出来ます。
必要に応じてそういう決断を下せるよう判断力を磨くのも、この旅の目的。
ひとり旅で出来ること出来ないことを自分で判断して進まなきゃ。
……
そうこうしながらも旅は進んで、結局旅のお供を見つけることも出来ないまま、魔灸の森が見えてきました。
森の気配が、以前幌馬車で通った時とは違います。
森から圧のようなものを感じますね。
そういうのが分かるほど成長出来たことを喜ぶべきか、分かっているなら一度引き返すべきか。
モノカやロイさんたちはリーダーとして、こういう場合のパーティーの舵取りを決断してきたんだよね。
今の僕は……ひとりで進んでみたい。
魔灸の森に沿っている街道を慎重に進みます。
人通りは無し、たまに早駆けする馬車が通るくらい。
もちろん止まってくれたりはしません。
馬車を止める側と止まる側の双方に覚悟が必要、それがこの世界での旅なのです。
森の奥から、鳥の鳴き声や獣の吠え声が聞こえてきます。
怖さは、あまり無い、かな。
モノカたち武術の達人との修練や、シナギさんから教わった精神鍛錬法、
強くなったというよりも、自分の弱さを知ったのだと思います。
自分が今どれだけ動けるかが分かったので、慌てずに対処することが出来るようになったみたいです。
もちろん、無理だと判断したら全力で逃げますとも。
異世界もののお話しだと、馬車が盗賊や魔物に襲われてるイベントが始まっちゃいそうな雰囲気です。
もし誰かが襲われてたら、僕も助けに飛び出しちゃうのかな。
でもそういうのってチートな主人公以外はやっちゃダメだよね。
……
『隠蔽』魔法で目立たないように野営したり、安全確保のため木に登って寝たりしながら、慎重にひとり旅。
『トラペゾ』の魔導探索ばかりに頼らずに、自分で気配を探る訓練をしながら進んでおります。
感覚が研ぎ澄まされたというか、危険を避けるのが上手くなりました。
おかげで順調に進むことが出来て、あと半日ほど歩けばケルミシュの村です。
これまでのひとり旅、思った以上に冒険者しています。
異世界で冒険者、ちゃんと物語りの主人公っぽいことが出来てるよね。
せっかくだから、もう少し見た目も冒険者っぽくなりたいな。
例の帽子とかムチとか、こっちの世界でも売ってるのかな。
そういえば『ミイラ取りがミイラになる』って言うけど、この世界でミイラ取りって職業はあるのかな。
たぶんあの仕事ってミイラを取ってきて稼ぐんじゃなくて、ミイラの墓にあるお宝が目当てなんだよね。
でもこの世界ってミイラの魔物なんかは普通に出そうだし、ミイラの魔物を討伐に行ってやられた人がミイラにされちゃうってのも『ミイラ取りがミイラになる』で合ってるのかも。
なんてことを考えながら森沿いの街道を歩いていたら、いきなり森から怪しい人影が飛び出してきました。
駄目だろ、僕。
考えごとに気を取られながらだと、気配感知の修行の意味がないでしょ。
もうすぐケルミシュだって油断したせいなのか、それとも連中が手練れなのか、
いずれにしても気を引き締めて戦闘準備です。
いかつい男が三人、見た目で判断しちゃって申し訳ないのですが、いかにも悪者って感じの風貌ですね。
「命が惜しかったら金を出しな」
うん、テンプレな強盗です。
「いや、見ぐるみ剥ごうぜ」
失礼、追い剥ぎ、かな。
「いやいや、こんだけ可愛いガキなら高く売れるぜ」
うわっ、人さらいに進化したよ。
「じゃ、俺たちで楽しんでから売り飛ばすってことで」
あー、危険度最上級ですね。
もちろんお楽しみされるのは勘弁ですので、全力で抵抗しましょうか。