15 オーバン
無事にオーバンの街に到着しました。
エルサニア側のオーバンの街とキルヴァニア側のエヴェルシュの街は、
国境のヒルデュ河を挟んで大きな橋で結ばれております。
国境にあるオーバンは物流の要所なのですが、ジオーネとは違う感じで活気がある街ですね。
もちろん、獣人さんがいっぱいのケモミミ天国なのですよ。
ケモミミのウエイトレスさんをモフれちゃう喫茶店とかないのかな。
めっちゃ流行ると思うけどな。
いいなあ、あそこのお姉さんのうさみみ。
「先に孤児院に寄っても」
うわっ、ごめんなさい、ヴォルさん。
早く行きましょうか。
小さな孤児院に着いた途端に、ちっちゃなケモミミっ子たちがヴォルさんに飛びついてきましたよ。
困り顔のヴォルさんを見てたら、なんだかライクァさんを思い出しちゃいますね。
でも、子どもたちの様子が変です。
うれしさよりも助けを求めるまなざし、
どうやら良くないことが起きているようです。
「初めまして、院長のティルハシエルです」
院長さんは、可愛らしいケモミミ老婦人です。
初めまして、カミスという冒険者です。
ヴォルドルフさんにはお世話になっております。
不躾ですが、なにか困りごとでも。
「リルルリエルが……」
ヴォルドルフさんの妹さんのリルルリエルさんは、働き者で優しくて器量良しの街の人気者。
ですが、河向こうのエヴェルシュの街で幅を利かせている冒険者集団のリーダーから言い寄られて困っているそうです。
リーダーのゲラルディエという獣人は複数の冒険者パーティーをチカラで取りまとめて"ファミリー"と名乗り、その勢力は街の自警団以上なのだとか。
リルルリエルさんは安全のために知り合いの家に隠れ住んでいるけれど、連中は孤児院に様々な嫌がらせをしてきているのです。
「アイツか……」
どうやら、ゲラルディエはヴォルさんの因縁の相手のようです。
「『決闘』出来れば……」
『決闘』というのは、獣人の伝統的な揉め事解決法。
揉めた当事者をリーダーとする5人チームで闘って決着をつける習わし、だそうです。
タイマン勝負じゃないのは、群れを率いる統率力を誇示するためだとか。
『決闘』のルールはシンプルです。
死なせないように相手に勝つこと。
5人の立会人のひとりでも勝負ありの旗を上げたら、すぐに試合を止めること。
重要なのは、先に3勝した方が勝ちってわけじゃないこと。
チームが持っている5点のポイントをメンバーに自由に振り分けて、5戦した後でポイントの多い方が勝利、だそうです。
全員に1点ずつ振り分けても良し、強いリーダーが5点全部持っても良し。
とにかく5戦した後にポイントが多い方が勝ち、ですって。
『決闘』の前の出場メンバー登録の際に、リーダーが決めたポイント振り分け情報が封入された封書が立会人に渡されて、5戦終了後に開封してポイントを確認、そして決着。
要するに、5連勝じゃなければ、最後までチームの勝敗が分からないのですね。
立会人が買収されるみたいなインチキは絶対に無いそうです。
もし勝負に水を差すような判定をしたら立会人も断罪されるのだとか。
長く受け継がれてきた伝統の重み、なのでしょうね。
つまりは、ヴォルさんに5点預ければチームの負けはないってことですよね。
「もう誰もいません……」
ティルハシエルさんが悲しげにつぶやきました。
孤児院の味方をしてくれそうな人たちは、脅迫されたり闇討ちされたりしてしまったそうです。
なるほど、問答無用でこちらの味方を減らしちゃえ、ですか。
すごく悪党っぽいやり方ですね。
ヴォルさんと僕以外には闘ってくれる人がいない、と。
ヴォルさん、『決闘』って、この街に住んでいない人でも大丈夫?
「もちろん」
助っ人の件、僕に任せてもらえないかな。
「……お願いします」
僕のひとり旅のためじゃなくて、乙女の大ピンチを救うためなら……
救うチカラがあるのなら、全力で、だよね。