08
遺跡は意外に村の近くの山にあった。
洞窟の最奥にあるらしく、俺達は洞窟に入った。
「【光源】」
ふわりと光源が浮かび、周囲を照らした。これで明かりは確保出来た。
「へえ。生活魔法か。また珍しい魔法を使うんだな」
「珍しいのか? 生活魔法なのに?」
「いや、珍しいってほどでもないんだが、まあ、冒険者で使ってる奴は少ないな。魔法使いも魔力をやたら消費する生活魔法なんて使ってる余裕なんて無いからな。シルヴィアこそ魔力切れは大丈夫なのか? その魔法はかなりの魔力を使うって聞いたぞ」
ヒュールの言葉を聞いて、少し考えた。
この世界では俺の魔力はかなり多い方なのでは無いか、と。
だがその前提で話を進めるとなると、【光源】二回分の魔力が一時間で回復すると言うのも、普通の感性だと早すぎるということになる。
……正直、その可能性は大いにある。
とりあえず今はこのことを黙っておくか。
「まあ、【光源】が切れる前に終わらせれば良いだろ」
「それもそうか」
チョロすぎるぞ、ヒュールよ。
と、そこで【万能感知】が危険信号を灯した。
「ヒュール」
「ああ、何かいるな」
流石に気付いたか。
今はさっきまでの笑顔は消え失せ、剣に手をかけていつでも抜ける体勢になっている。
そして警戒態勢を整えながらしばらく歩くと重量感を感じられる足音と共に燃える熊が現れた。
フレイムグリズリー
危険度 C
スキル 無し
【鑑定眼】で視る。
ふむ。スキルじゃ無いと言う事は、あの炎は元々、種族としての能力か。
まあそんな事はどうでも良い。
「何でこんな場所にCランクの魔物がいるんだ?」
俺が考えていた疑問をヒュールも口にした。
おかしいんだ、これは。
年に何度も冒険者に依頼をしていて、その短期間に遺跡にCランクの魔物が住み着くか?
そもそもポポロン村ではまともな戦闘手段はない。Cランクの魔物が現れたなんて、小さな村程度なら一晩で滅ぼしてしまう様な存在なのだ。
そんな魔物がどうして……。
考え事をしている間にフレイムグリズリーが待つ理由も無く、俺達を獲物と判断して炎を口から放って攻撃してきた。
「氷壁」
俺はそれに冷静に対応して、氷の壁を生み出す。
ヒュールもこの壁の強度を一目で見極めたのか、何かする動きは見せなかった。
「グルっ!?」
案の定、フレイムグリズリーの炎では俺の氷は溶かせなかった様だ。
炎を放った張本人も驚きで声を漏らす。
面倒なので考えるのは後回しにして、
「氷剣」
フレイムグリズリーの周囲に氷の剣を生み出す。
それは一本、二本と増えていき、最終的には十三本の氷の剣がフレイムグリズリーの頭上に並んだ。
「氷剣舞武」
十三本の氷の剣が一斉に襲い掛かる。
フレイムグリズリーも火力を上げて対抗するが、無駄だ。その程度の火力じゃ俺の氷は溶け無い。
フレイムグリズリーの抵抗虚しく、氷の剣が深く突き刺さり、その数本が致命傷に至って絶命した。
「これだけでかいと持ち帰れないな」
「ああ。証明に必要な牙と耳、後は高値で買い取られる部位だけ剥ぎ取っていこう」
剥ぎ取りか。とあるゲームでよく聴いたフレーズだな。
とりあえず必要な部位を剥ぎ取って、腐らない様に俺が凍らせてリュックに入れた。
何やらヒュールが魔法の鞄なるものを持っていて、それを貸しても良いと言われたが、人のものを壊したら嫌だから断った。
「さて、残ったものはどうするかな」
「そのままじゃダメなのか?」
「強い魔物の死体を食おうと近寄ってくる魔物がいるからな。下手すればポポロン村の連中に危害が及ぶ可能性がある」
「ふむ。じゃあ、粉々に砕くか」
「出来るのか?」
返事の代わりに残ったフレイムグリズリーの死体を凍らせる。
そしてコツン、と指で弾くと粉々に砕け散った。
「すげ」
「そりゃどうも」
さて、それからも遺跡の先を目指して進む。
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