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絶対零度のシルヴィア〜TS転生したら美少女だった件〜  作者: 近藤ハジメ
四章 破滅の魔女
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 冒険者は前衛に戦士や剣士などのファイターを置き、後衛には教会から連れて来た神官と魔術師を配置した。


 単純な陣形だが、これが一番それぞれの力を発揮できて有効的だ。


「行くぞ野郎ども! 俺達の街に踏み入る奴はぶっ殺してやるんだ!」

「「「うおおおお!!!」」」


 槍使いの青年、もとい唯一のAランク冒険者である【蒼槍】リーが前衛部隊を率いた。その数は百五十の大所帯で、筋骨隆々な者も多く、その上で全員が殺気立っているのでオーラが凄かった。 

  

 気の弱い人間がいればそれこそ卒倒ものだ。

 

 それでも冒険者は血気盛んに合成獣に立ち向かうように陣形を組んだ。


「へっ。よくみりゃ可愛いかとしてるじゃねえか」

「全身ボロボロだし、これならもしかしたら行けるか?


 その中でリーはただ一人、エクストラスキル【鳥肌】によって、合成獣キメラの危険度を正確に見抜いていた。

 【鳥肌】はその名の通り、危険が迫ると鳥肌が立つだけのスキルだが、その危険察知能力は抜群で外す事がない。


(…………危険度S、ってとこか)


 いや、下手をすればそれ以上の……。と考えそうになって、やめた。


 そんなこと考えても無駄だ。


 どうせやるしかないんだ。

 それにこれだけの面子が揃っていれば、奇跡だって起こせるかもしれない。


「ようし、始めるぞ!」


 バッと自慢の槍を天に向かって突く。

 それが作戦の合図だった。


 前衛が配置された場所より遥か後方の城壁から、五十名の魔術師による一斉放射が行われた。


「ファイアボール!」

「ウィンドカッター!」

「ウォーターショット!

「ストーンバレッド!」

「サンダーボルト!」

「アイスチェーン!」


 それぞれが自分の持てる、最大の魔法を放った。


 七色の、いや、五十の魔法が合わさり、混ざり合って虹よりも美しい渦となって合成獣を襲った。

 

 現状、ここにいる限られて冒険者が繰り出せる最大の火力はこれだ。

 この魔法ならばドラゴンをも滅却出来ただろう。


 だが……。


『ォギャアアア!!』


 合成獣キメラはあっさりと魔法を受け止めてしまった。いや、よく見れば表面に出ている内臓が抉れて地面に落ちているが、その程度だ。

 ダメージは無く、何事も無かったかのように進み始めた。


「あれを受けても動けるのかよ……」

「そんな……」

「馬鹿野郎! テメェら諦めるんじゃねえ!」


 魔法を受けて怯む事すらなく進み続ける合成獣に下がり始めた士気をヒュールは無理矢理叩き上げた。


「行くぞ!」


 ヒュールの一声に呼応して、前衛部隊が再び士気を取り戻した。


「魔導士共はもう一度撃つ準備をしておけ!」

「お、おう!」


 一時、呆然としていた魔導士達も再び杖を握り、魔力を溜め出した。


 前衛が一気に合成獣に接近する中、リーは一人、飛び出した。


蒼槍ブルー・スフィア!」


 自慢の愛槍による一突きを放つ。

 リーの蒼槍が合成獣の脚に深く突き刺さった。


 だが、手応えは無かった。


(本当にただの肉塊って感触だ。だが、この臭いと密度は相当なものと見た。一体これを作るのに何人の、いや、どれだけの死体を使ったんだ?)


 想像しただけで寒気がする。

 この化け物は間違い無く、人工的な生物だ。

 いや、生きているのかすら怪しい。

 もしかするとどこかでこれを操っている奴がいるかもしれないな。


 合成獣が足を動かし、踏まれないように距離をとりながらリーは何となく、合成獣の目玉を見た。







「あれ? もしかして気付かれた?」


 うーん、それは無いかな?

 ここは防護魔法と認識阻害魔法を両方かけているから、万が一にも僕がここにいるなんてバレるはず無い。


 でも本能的に「ここに何かがある」とは考えてるみたいだけど。


 うーん、厄介だなー。


 確かあれはAランクの【蒼槍】のリーだったっけ?


 冒険者が逃げずに立ち向かって来た事は計算外だった。


 もしかするとリーが冒険者をまとめ上げたのかもしれない。


 行動が早かった。

 街からかなり離れた位置で戦闘が開始され、魔導士による一斉放射も痛かった。

 別に殺られはしないが、あれで削られるのはやめてもらいたい。


 長引くと面倒臭そうだ。

 早めに片付けたい。


「あーあ、仕方無いかー。シルヴィア戦にとっておきたかったんだけど」


 残念そうに、けれど楽しそうにルシファーは準備を始めた。「これの最初の犠牲者になる不幸を恨む事だね」と邪悪な笑みを浮かべた。













「っ!!?」


 何だ、何だ!?


 リーの【鳥肌】が最大級の危険信号を発した。

 このままでは



「全員、防御しろ!」

「えっ、何を言ってーーーー?」


 ーーーー遅かった。


 合成獣が足を止め、ゆっくりと両腕を天に向けた。その動きに全員が注目し、魅入ってしまった。


 全身の至る所にある口が開き、凄まじい奇声を放つ。


 それは超音波であり、衝撃波であった。


 合成獣から遠く離れた位置にいた魔導士は気絶し、街の反対側にいた住民達にまでその影響は及んだ。


 すぐ足下にいた前衛達は衝撃波により吹き飛ばされた。さらに周囲の木々を消し飛ばし、そこはただの更地となった。

  

 合成獣は邪魔者がいなくなった道を街に向かって真っ直ぐに進んだ。





「…………く、そったれ」


 リーはダイナの城門まで吹き飛ばされていた。


 普通なら吹き飛ばされただけで死ぬ距離だったが、リーは命を繋ぎ止めていた。


 冒険者は基本的に頑丈な生き物だ。

 それも前衛となれば、ただ吹き飛ばされただけで死ぬ奴は一人もいないだろう。

 まあ、動けなくなってる奴がほとんどだろうが。


 リーも生きてはいるが、右足は完全に砕け散って、肋も何本も折れている。あちこちにヒビが入っているし、


 そこに終焉を告げる様に、無慈悲な地鳴りの様な足音が聞こえた。


 笑える程の絶望感の中、リーは何とか首を動かしてそれを見た。


 馬鹿みたいに巨大な化け物が、五体満足でそこに立っていた。

 街が目前だと言うのに


『アハハハハハッ! ねえ、どう? どう? 凄いよね、これ!』


 これが黒幕の声か。


『もう降参しちゃいなよ! その方が楽だよ? 楽に殺してあげるよ? ほらほら!』


 まるで子供の様な声だった。

 いや、実際に子供なんだろう。

 これは純粋な悪意だ。


 本気で楽に殺してあげる、と提案しているのだ。


 確かにこの状況なら、そうしてしまうのが得策なんだろう。


 でも、でも。


『どうせ【鉄壁】もシルヴィアも来ないよ? ほら、諦めちゃいなよ!』

「う…………る、せぇ……!」


 来ない事は分かってる。

 いくらヒュールでも間に合わないって事くらい、分かってるんだ。


 でも、だからって諦め切れるか!


「俺は【蒼槍】のリーだ! ここから先には一歩も通さねえ!」


 ザッ、と穂先で地面に一本の線を引いた。

 それは境界線だ。

 この先に進もうとするならば「迎え伐つ」という意思表示でもある。


 最後の悪あがきだった。


『……あっそ。なら、死ね』


 合成獣がゆっくりと右足を上げた。


 そしてーーーー、雷雲が喚ばれた。


『え?』




「《落雷サンダーボルト》!」




 瞬間、合成獣キメラの頭上から一筋の雷が轟き落ちた。


 凄まじい衝撃で、たちまち合成獣キメラもバランスを保てない。

 一度は上げられた合成獣の右足が元の位置に戻る。


「《ファイアボール》!」


 続けて、合成獣の顔面と胸付近で三つの爆発が起こる。あまりの威力に合成獣は後退った。


「何が……」

「よく頑張ったな、リー」

「ヒュールさん……? え、どうして……」

「まっ色々あってな」


 突如として現れたヒュールがリーに大量のポーションを振りかけた。

 たちまち、傷が治りリーは立ち上がれるまでに回復した。


 そして、そこで目に入ったのは、合成獣と向かい合う様に並ぶ三人の姿だった。


「もう大丈夫だ」

「あとは任せておけ」

「私達が来たんだから、そりゃあ大丈夫に決まってるでしょ」


 ヒュールが、シルヴィアが、そして最後に魔女エステルがいた。


 二人のSランク冒険者とAランク冒険者が並び立つその姿に、リーは不思議と万能感に満ち溢れた。


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