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冒険者ギルドに集まった一人の槍使いの青年が、焦りからか机を叩いた。
「人数はたったこれだけかよ!」
ギルドに集まったのは二百人程度の冒険者だった。
「他の冒険者は仕事で出払ってる」
「だとしても二百って……」
「【鉄壁】とシルヴィアはまだ帰って来ないのか!?」
「ええ。それに魔女の森はここから六時間の距離にあるわ」
「……そこまでは持たない、か」
「あの二人に頼るのは無駄だな」
「ああ。俺達だけでなんとかするしかない」
「くそっ! ここにいるのはAランクが一人とBランクが四人か。他はほとんどがCとDだな?」
「厳しいな」
「……なあ、もう逃げようぜ」
冒険者同士の話し合いが続く中、とあるDランク冒険者が言った。
それを聞いて槍使いの青年が「何だと!?」と激昂する。
「だってよ、あんなのに勝てるわけないだろ!」
「だとしても俺たちは冒険者だ! この街を守る必要がある!」
「そんなの知るかよ! 冒険者は命あっての仕事だろ!? 大体、ここは偶々拠点にしているだけの街だ! 冒険者の俺達に守る責務なんてねえよ!」
「それは……」
「俺は死にたくねえよ! あんなのと戦って、こんな所で死にたくねえよ!」
Dランク冒険者の心からの叫びに、次第に騒めきがギルド中に広まって行った。
言っていることは正しかった。
冒険者に街を守る責務は無い。
なんなら、冒険者は敵前逃亡だって許されているし、むしろ推奨されている。
生きる為に。
この冒険者の言っていることは正しかった。
槍使いの青年はあの化け物の強さを正確に見抜いていたし、他の冒険者も長年の経験と直感が「あれはヤバい」と告げていた。
アレと戦えば死ぬだろう。ほぼ、いや、確実に。
「お前も本当は怖いんだろ!?」
「っ、もう一回言ってみろ! 誰がビビってるって!?」
「おいやめろ!」
「誰か止めて!」
二人が胸ぐらを掴み合い、喧嘩に発展しそうになった。
瞬間、「やめなさい!」と凛とした声が響いた。
冒険者達の試験が受付カウンターに集まる。
「……戦いましょう」
エリーは震える声を押し殺して、冒険者達に向かって言った。
「ここは冒険者の街です。私達の、皆さんの故郷みたいな場所です」
Dランク冒険者が恐怖に染まった顔で「でも!」と続けようとした。だが、それより先にエリーが続けた。
「怖いのはわかります。私だって逃げ出したい。でも、だめなんです。ここは私の大切な人が帰ってくる場所ですから」
ぎゅっと胸の前で手を握った。
あの人が、シルヴィアさんが帰ってくる場所だから。
守らないと。
「レンプさん。貴方だって、本当はこの街が化け物に潰されるのは嫌なんでしょう?」
「っ」
「今、ここには幸い二百人の冒険者がいます」
「たかが、だけどな」
「いいえ。勇気を持った冒険者が二百人もいるんです」
「「「っっ!!」」」
「皆さんは絶対的な強者に立ち向かった事はありますか? 死んだと思った時がありますか? これは勝てないと思ったことがありますか?」
みんな心当たりがある様で、それぞれが思い出していた。
とある剣士は若い頃に年上の剣豪に立ち向かった時。
とある魔術師は鋭い牙を持つ魔物に腕を抉られた時。
とある戦士は駆け出しの頃に鬼と出会した時。
「でも、今は生きてます」
はっ、と冒険者の顔つきが変わった。
腹の刀傷も、腕の傷跡も、今はもう無い左目も。
当時はそう思っても生きていた。
「冒険をしましょう。勝てるか勝てないかわからない、あの化け物を倒すんです。みんなで、私達で!」
「「「うおおおおお!!!」」」
冒険者達は決起した。
剣を、杖を、斧を頭上に高々と上げて己を鼓舞する。
勝てる、と。街を守り抜け、と。
この日、ダイナの街の長い歴史の中で最も冒険者達が団結した日となった。
その影には冒険者を支えた受付嬢エリーの名前が後世にまで受け継がれることとなる。
何はともかく、この冒険者達の決起に乗って歴史は大きく動かされたのである。
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