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絶対零度のシルヴィア〜TS転生したら美少女だった件〜  作者: 近藤ハジメ
四章 破滅の魔女
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 冒険者ギルドに集まった一人の槍使いの青年が、焦りからか机を叩いた。


「人数はたったこれだけかよ!」


 ギルドに集まったのは二百人程度の冒険者だった。


「他の冒険者は仕事で出払ってる」

「だとしても二百って……」

「【鉄壁ヒュール】とシルヴィアはまだ帰って来ないのか!?」

「ええ。それに魔女の森はここから六時間の距離にあるわ」

「……そこまでは持たない、か」

「あの二人に頼るのは無駄だな」

「ああ。俺達だけでなんとかするしかない」

「くそっ! ここにいるのはAランクが一人とBランクが四人か。他はほとんどがCとDだな?」

「厳しいな」

「……なあ、もう逃げようぜ」   


 冒険者同士の話し合いが続く中、とあるDランク冒険者が言った。

 それを聞いて槍使いの青年が「何だと!?」と激昂する。


「だってよ、あんなのに勝てるわけないだろ!」

「だとしても俺たちは冒険者だ! この街を守る必要がある!」

「そんなの知るかよ! 冒険者は命あっての仕事だろ!? 大体、ここは偶々拠点にしているだけの街だ! 冒険者の俺達に守る責務なんてねえよ!」

「それは……」

「俺は死にたくねえよ! あんなのと戦って、こんな所で死にたくねえよ!」


 Dランク冒険者の心からの叫びに、次第に騒めきがギルド中に広まって行った。


 言っていることは正しかった。


 冒険者に街を守る責務は無い。

 なんなら、冒険者は敵前逃亡だって許されているし、むしろ推奨されている。


 生きる為に。


 この冒険者の言っていることは正しかった。


 槍使いの青年はあの化け物の強さを正確に見抜いていたし、他の冒険者も長年の経験と直感が「あれはヤバい」と告げていた。


 アレと戦えば死ぬだろう。ほぼ、いや、確実に。


「お前も本当は怖いんだろ!?」

「っ、もう一回言ってみろ! 誰がビビってるって!?」

「おいやめろ!」

「誰か止めて!」


 二人が胸ぐらを掴み合い、喧嘩に発展しそうになった。

 瞬間、「やめなさい!」と凛とした声が響いた。

 冒険者達の試験が受付カウンターに集まる。


「……戦いましょう」


 エリーは震える声を押し殺して、冒険者達に向かって言った。


「ここは冒険者の街です。私達の、皆さんの故郷みたいな場所です」


 Dランク冒険者が恐怖に染まった顔で「でも!」と続けようとした。だが、それより先にエリーが続けた。


「怖いのはわかります。私だって逃げ出したい。でも、だめなんです。ここは私の大切な人が帰ってくる場所ですから」


 ぎゅっと胸の前で手を握った。

 あの人が、シルヴィアさんが帰ってくる場所だから。

 守らないと。


「レンプさん。貴方だって、本当はこの街が化け物に潰されるのは嫌なんでしょう?」

「っ」

「今、ここには幸い二百人の冒険者がいます」

「たかが、だけどな」

「いいえ。勇気を持った冒険者が二百人もいるんです」

「「「っっ!!」」」

「皆さんは絶対的な強者に立ち向かった事はありますか? 死んだと思った時がありますか? これは勝てないと思ったことがありますか?」


 みんな心当たりがある様で、それぞれが思い出していた。


 とある剣士は若い頃に年上の剣豪に立ち向かった時。

 とある魔術師は鋭い牙を持つ魔物に腕を抉られた時。

 とある戦士は駆け出しの頃にオーガと出会した時。


「でも、今は生きてます」


 はっ、と冒険者の顔つきが変わった。


 腹の刀傷も、腕の傷跡も、今はもう無い左目も。


 当時はそう思っても生きていた。


「冒険をしましょう。勝てるか勝てないかわからない、あの化け物を倒すんです。みんなで、私達で!」

「「「うおおおおお!!!」」」


 冒険者達は決起した。


 剣を、杖を、斧を頭上に高々と上げて己を鼓舞する。


 勝てる、と。街を守り抜け、と。





 この日、ダイナの街の長い歴史の中で最も冒険者達が団結した日となった。


 その影には冒険者を支えた受付嬢エリーの名前が後世にまで受け継がれることとなる。


 何はともかく、この冒険者達の決起に乗って歴史は大きく動かされたのである。


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