16
エリーは流石に昨日と同じ服での出社はまずいと朝早くに家に帰った。
まあ一人だと危ないので俺もついていき、そのままギルドに来た。
「シルヴィアさん、指名クエストが入ってましたよ!」
早々にエリーから呼び出され、聞き慣れない単語を耳にした。
「指名クエストとは、有力な冒険者にギルドを仲介して直接仕事を依頼する事です」
「それ、普通のクエストと何か変わるのか?」
「変わりますよ!」
エリーが受付カウンターから身を乗り出して言う。
「指名クエストは普通のクエストよりも報酬が高くなりますし、ごく一部の冒険者だけしか指名される事がないんです! つまり、シルヴィアさんは冒険者界隈でもトップクラスに入ったことになります!」
と、興奮しながら教えてくれた。
つまりSランク冒険者を目指している俺としては、悪い話じゃ無いって事だ。
これを頑張れば、箔も付けばさらに指名クエストも増えるだろう。
少しやる気になって意気込んでいると、エリーが何か言い淀んでいた。
「ただ……」
「ただ?」
「このクエスト、ヒュールさんと二人セットで指名なんです」
「はあ、またかよ……」
「なはは! 俺は嬉しいけどな!」
結局、ヒュールと二人でクエストを受ける事になり、今はこうして二人で山を進んでいた。
俺は相変わらず安物のリュックを背負っている。
先日のレッドドラゴン討伐の時だってヒュールと一緒だった。
何だこれ。まさか運命とでも言うのか?
いやいや、まさか……。
「運命みたいだな!」
「…………」
「運命みたいだな!」
「何で二回言った?」
はあ、あえて言わなかったのに何で言うかね、こいつは。
「それよりも今回のクエストは何なんだ?」
「《ヤスヒラ草》を採取して魔女に届けるんだ」
「はあ? そんな簡単なクエストで俺らを呼んだのか?」
「いや簡単じゃねえんだよ。ヤスヒラ草はとある場所にしか生えずに、しかもその場所がこれだから」
「うーわ……」
少し高めの丘で俺達は立ち止まった。
そこから見渡せる、地平線まで広がる平原は何も草花で満ちていたわけではない。
異様な臭いが鼻につく。
そこに満ちていたのは死体の魔物、不死者だった。
ほとんどが白骨化したスケルトンだった。だが、中には比較的腐っていないゾンビもいた。最近になってゾンビになったのだろう。
その数はぱっと見だけで一万を軽く越えている。
ゾンビ
危険度 E
スキル
【感染】
スケルトン
危険度 D
スキル
無し。
鑑定眼によれば危険度は比較的低かった。
だが、スキル【感染】は不死者が噛み付いた相手に病魔を侵入させ弱らせ、不死者に変えてしまうスキルだ。
それだけで危険度はかなり跳ね上がるだろう。
一万の魔物なんて、数だけで脅威だ。
「これ、全部で何体くらいいるんだ?」
「さあ? 最初は百体くらいしかいなかったんだが、いつの間にか増えててな」
「何で放っておいたんだよ」
「不死者が群れる場合は不死王が率いているのが相場なんだが、当時はその兆候も見られずに放置していたんだ。自然分解するだろう、って。だがそうはならずに数は増え続け……」
「手が付けられないほどの群れになったってことか」
なんて馬鹿な話だ。
見通しが甘すぎる。
「これだけの数が街に来ればどうなる?」
「まあ、簡単に攻め落とされるだろうな」
だろうな、と納得の意味で頷く。
自然とエリーやミア達の顔が思い浮かんだ。
こいつらにあの街を攻めさせるわけにはいかない。
みんなをゾンビに変えさせてやるわけにはいかない。
「仕方無い。殺るぞ」
「そうこなくっちゃ!」
パーティ戦だな!と嬉しいに背負った大盾を下ろすヒュールだったがーーーー。
「つってもお前の出番は無いけどな」
「え?」
ヒュールよりも前に出る。
奴らは俺達に気付いていない。
元々、知能が高い魔物じゃないから一瞬で終わるだろう。
「氷点直下氷路洞道」
俺を中心に放たれた氷点下の冷気が丘下にあるゾンビの群れに充満する。
瞬間、その場は静寂に包まれた。
全てが氷に閉じ込められた。
一万の不死者を瞬時に、完全に。
と言っても、流石にヤスヒラ草まで凍らせるわけにはいかないから【超直感】に従って、奥地だけは凍らせずにいた。そのせいで何体かのスケルトンの生き残りがいる。
「じゃあ残った奴らは俺がーーーー」
「氷棘薔薇」
ヒュールが駆け出そうとしたが、それよりも先に氷の棘薔薇がスケルトンを捕らえ、頭蓋を粉砕した。
結局、ヒュールの出番は来ることなく戦闘は終わりを迎えた。
その事にヒュールは不服そうに頬を膨らませて文句を垂れる。
「意地悪すんなよー!」
「こういうのは早い者勝ちだ」
「パーティだろ!」
「臨時のな。大体、お前は集団戦苦手だろ」
「そうだけどさ!」
はいはいと適当に相槌を打ちながらヤスヒラ草を1束、摘ませて貰った。
後はこれを魔女の屋敷に届けるだけだ。
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