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セカイの名付け親(あらすじ版)

作者: 鈴原シロト

4つの島が存在する、異世界があった。世界は一人の王が治めていて、神はいるが存在は知られていなかった。王の理不尽な政策、奴隷制度による子供の労働、一般人を攫う人買い、貴族による高額の税金搾取。それらが当たり前のように行われていた。

そんな世の中で、物心ついた頃から、奴隷として炭坑で働いていた少年(主人公)がいた。彼はそこである女性に出会う。彼は女性の名前を知らなかったため、心の内で「あの人」と呼んでいた二人は仲が良く、「あの人」は外の世界の人の話をたくさんした。それを聞いた主人公は、自分の目で実際に見てみたいと願うようになる。「あの人」の正体は、人々に存在を知られていない、この世界を創造した女神だった。変身を解いて本来の姿になった彼女は、少年を組織から救いだした。女神にはいくつかの目的があった。

彼女は主人公を助ける代わりに、「この世界に名前を付ける」という重要任務を与えた。少年を助けたのは、これから起こる事故から少年を救うため。重要任務を与えたのは、世界を変化させるため、彼に色んな環境を体験させるためだった。そして彼女は、人の心の底を読み取る観察眼を持った彼を失いたくないと、そう思っていた。少年は、その任務を承諾し、世界を巡る1年間の旅に出た。

外に出て、アグリシア島の街・ダリアド繁華街エリアに辿り着いた主人公は、中年男性・ロドックと出会う。少年は、アグリシア島の南に位置する都市・ルクリンまで行くと言ったロドックの移動に、同行することになる。

野宿をし、旅をするために必要な物事を学ぶ。その中で過去の労働がどのようなものであったかを再認識し、フラッシュバックが何度も起きてしまう。苦しさで眠れなくなり、涙を流しながら、月を見ていた主人公を、ロドックは何も言わず、ただ隣に座っていた。自分の心が温かくなるのを感じた少年は、こういった、すぐ近くに居るだけでもらえる優しもあるのだと考えた。

別れの日、主人公はロドックに名前を尋ねられる。自分自身にドレという名前を付けた少年は自分の存在がはっきりしたことを、確かに感じ取った。

人の心をよく観察したいと考えたドレは、ルクリンの青果店で働き始めた。日中に働きながら、「あの人」が自分にとってどんな存在だったかということ、ロドックのしてくれたことを考え、二人に感謝しながら、日々を過ごしていた。そして、色んな場所で騒ぎを起こしている「何か」についての噂を耳にする。彼が元居た組織は、神さまに救出されたのち、倒壊し、多数の死者が出ていた。彼はそれを、その「何か」の仕業ではないかと推測した。

ある日、淑女のお客が店に来た。ドレは彼女を助け、また助けられた。そのおかげで、彼は臨時の休みをもらうことになる。休みの日、淑女・セリタと再会したドレは、彼女の家に行っておもてなしをされたり、今まで溜まっていた疑問を解消したりした。その日、帰りが遅くなった事が原因で、居候をしていた店主の家を追い出される。その後、青果店の仕事は続行しながら、セリタの家で暮らし始めた。セリタは酒場で料理人として働いているため、お互いの仕事が休みの日に、セリタに文字や言葉を教えてもらう、という生活になった。セリタと過ごす日常が続いたある日、ドレはあることに気が付く。

台所に置いてある、3つの椅子。使い込まれた雰囲気がある辞書と絵本。少年の物でも、セリタの物でもない、男性用のシャツと、ドレと同じくらいのサイズのズボン。それらの点に気付いたドレに、セリタは温かい料理を出して、話をし始める。自分には夫と息子がいた事。雨の日に「何か」によって殺された事を。そして彼女は謝った。ドレが息子に似た顔立ちをしていたため、あの時にドレを助け、ここで暮らさないかと誘ったことを。その事を打ち明けずに、隠し続けていたことを。

「誘った理由が、自分でも、よく分からないわ。『何か』に恨みがあるわけでも、息子と夫に、何か未練があるわけでもないのに。それでも、あなたを見て、『息子みたいだ』って、思ってしまったの。」

そしてドレも、今まで元奴隷の自分のことを話さずいたことを謝罪した。

しばらくはそのままで、二人の生活は続いた。

しかしある晩、セリタはドレの書いたメモに、頼み事の話題があることを発見した。ドレはセリタに、この事については話をしていなかった。

その後、セリタはどこか気まずい雰囲気で接するようになる。ドレはあのメモを見られたことに気がついた。

数日後、ドレが世界を巡るための旅費が、ある程度貯まった。ドレは最後の休日にお世話になったセリタと店主にお礼をするため、セリタに対しては料理を作ってやり、店主に対しては家中の掃除をした。

そして、出発の日。少年は再び謝った。自分は隠し事をし続けていたこと。僕がメモに書いていた頼み事の内容は本当だが、今はそれを行っている理由を話す事はできないと。神さまの存在は、未だ知られていない。自分が今持っている言葉では、説明が不十分だと思ったからだった。

セリタはそれについて、何も言わなかった。ただ、一言、ドレに伝えた。

「いってらっしゃい。また、会いましょう。」

冬、バーヘン島に着いたドレ。お腹が減っていたため、まずは腹ごしらえをしに、街へ向かった。

酒場で夕食を食べることにしたドレは、一人の女性と相席し、意気投合する。女性の名前はアロンド。ドレと同じく世界を旅していて、周囲からは「アロンドの姉貴」と呼ばれ、慕われていた。

 一緒に旅をすることに決めた二人。「世の中に溢れる名前と人の名前について」「はじまりを告げる者の名前」「帰る場所と帰りたい場所」の話をしながら、砂浜に向かい、海を二人で見た。、そして、海が夕日に沈むところを見た。光が眩しく煌めいていた。

道中の、アロンドとの会話で、ドレは大きく心を動かさた。アロンドはドレを、「私にとって初めての、気の合う友人」と言った。

そしてドレは、自分の旅の目的について、アロンドに話した。世界に名前を付けるという、頼み事も一緒に。その言葉の中には、もう誰かに隠し事をしたくない、隠し事が原因で、人との仲を引き裂きたくない、という思いがあった。アロンドは彼の言葉を信じた。彼目を見たときに、嘘を言っているようには思えなかったからだ。

ドレが目的を言った後、アロンドは曖昧な話し方をし始めた。アロンドは、自分の旅の目的は、気の合う友人のドレだけには、話したいと思っていた。協力してほしいことがあったからだ。しかし、それを話すには自分の身分や位過去についても話さなければならず、口からどうしても、言葉が出てこなかった。彼女の気まずそうな顔を見て、ドレは言った。

「話しにくいのなら、話さなくても大丈夫ですよ。気の合う友といえど、話したくない事を無理矢理聞く必要はないのですから。」

その言葉に心を動かされたアロンドは、ついに話し始める。自分はこの世界を統べる唯一の王国、ノブルの姫で(本名:セントラ)、傲慢な父親の理不尽な政策や、世界に起きている異変を止めるため、城を出たこと、世界で騒動を起こす「何か」を止めるために、ドレに協力してほしいと。

世界で災害や騒動を起こし、セリタの息子と夫を殺した「何か」をその目で見て、話をしたかったドレは、協力することに決めた。彼はその「何か」自体にも、何らかの異変が起きているのではないかと考えていた。

一方その頃、世界に分布していた「何か」も、四つの島の中央、「始まりの海」へ移動し始める。

ノブル王国の城へ向かったドレとセントラは、王様へ直談判をする。「何か」による異変を止めるために、協力してほしと。始めは聞く耳を持たなかった王様だったが、ドレがある提案をして、興味を持ち始める。

「この世界での「何か」の動きを、僕が沈静化してみせましょう。ただし、もし達成できた時には、頼みたいことがあります。」

その言葉を聞いた王様は、「││ならば、やってみるがよい。」と二人の策に協力することを承認した。

セントラは、王都の住民を避難させ、もしもの時のために、港に騎士団を待機させる。決戦の為の準備が、着々と整っていった。

決戦前夜、ついに神さまが、名前を聞きにドレの前に現れる。助けてもらったあの夜のように、綺麗な満月だった。

ドレは旅の途中、「あの人」と神さまのことについて考えて、そして気づいていた。神さまと「あの人」が、同一人物であることに。丁寧な言葉遣い、長い髪、同じ顔立ち、そして。同じ、綺麗な空色の瞳。そうとしか、思えなかったのだ。

「僕が旅をする前から、一緒にいてくれて、ものを教えてくれて。僕をこの世界に、連れ出してくれて。ありがとう、ございます。」とドレは神さまに告げる。そして、世界の名前を、決めた。

 名前を付けられた物は、存在がはっきりし、より強固になる。それが、世界の摂理だった。それはたとえ「世界」という物の名前であっても変わらない。そのため、世界に名前を付けた後なら、もし被害が出ても最小限に食い止めることができる。これが、ドレの考えた策のひとつだった。

決戦日、木船を用意してもらい、合体して竜になった「何か」に近づいていくドレ。各島の住民が見守るなか、決戦が開始された。

始まりの海に集まった「何か」たちは、合体して、大きな竜になった。竜になった「何か」は、突如ドレを攻撃し始めた。まるで、近づいて来るドレを拒むかのように。それでも、ドレは諦めない。必死に話しかけ、「何か」の言葉を聞こうとした。

ドレがしばらく攻撃に耐え続けていたときに、竜は宣言する。「ワタシは人間から生まれた。生まれて、生まれて、生まれ続けて││ついに、耐えられなくなった。」

「何か」は人間が生んだ負の感情そのもので、奴隷や村人など、理不尽な扱いを受けている者の苦しみ、下の者を虐げる貴族、王族の傲慢な心から生まれた。昔はこの世界を見守っているだけだったが、増加する力に耐えきれなくなり、暴走し始めてしまった。

「ワタシは、倒してもらいたい。増え続ける負の感情に耐えられないワタシを、どうか消してほしい。ワタシは多くの物を、人間を、傷つけてしまった。ワタシの存在そのものを、どうか││。そうでなれば、心も、人間の営みも、物も、言葉も、全て失われてしまうだろう。ワタシは、そんな事をしたくはない。けれども、この理性はもう保たない。だから、どうか。││頼む、はじまりを告げる人間よ。」

悲しみに溢れたその言葉を聞き、ドレは悩んだ。「何か」を助けたい。「何か」の言葉を聞いて、倒すことはしたくない。人間にとって、負の感情は、必ずしも悪い結果をもたらすものではないからだ。決して、悪いものではないからだ。彼の動きを沈静化する名前と、人々に「何か」が必要な存在であることを伝える言葉を、ドレは必死に考えた。その時。ロドック、セリタ、セントラ、神さま(あの人)の顔が浮かび、ドレは勇気づけられた。彼らに言われた言葉を、今度は自分が、「何か」に対して伝えようと、そう思いついた。

「負の感情を生み出し過ぎたのは、僕たち人間の過ちだ。神さまも、もちろん君も、罪はない。そして僕たちにとって、君は絶対に離れられない存在だ。僕たちは君を嫌ってきた。けれども、決していらない、消されていい存在じゃない。君がいるから、僕たちは変わっていけるのだから。君と仲良く出来れば、良い結果を呼ぶことがあるのだから。今までないがしろにしてきて、ごめん。でも、僕は君を助けたいんだ。」

ドレは力いっぱい、そう言った。ドレは負の感情の集合体に「ナサリィ」という名前を付ける。それは、「必要」という意味の言葉だった。名前を付けられた物は、存在がはっきりし、より強固になる。その摂理を使えば、人々は、心には負の感情があることを意識する。それを自覚すれば、人々の心の動きも、良い方向に動いていく。少年はそう、考えた。

ナサリィは動きを止める。負の感情への意識が変わり、一度に流れてくる感情の量が減少したからだ。そして、ドレに「ありがとう。」と言い残して、消えていく。人々はそれを見て、安堵した。

一連の動きを見守っていた神さまも、消えていく。自分の目的が達成されたため、手を出す必要がなくなったからだ。ドレは少しずつ薄くなっていく神さまを発見し、手を振った。それを見て、神さまも手振った。二人共、笑顔で。

世界の名前は「変化の世」という名前に決まった。世界に名前がつけられたことを、知っている人間はいない。名付け親であるドレを除いて。

ノブル王との約束を達成したドレは、王様に「奴隷制度の廃止」をお願いする。

技術が少しずつ進化し、新しい大陸が発見される。これは世界の名前を「変化の世」としたことによる変化のひとつだった。こういった変化は、世界が存在する限り、ずっと続くだろうと思われた。

身分制度が廃止され、新しい政治の仕組みが考案されることになった。仕組みが整うまでの間は、ノブル王が、住民の生活の調整を行うことになった。人々からは、心配の声も上がった。しかし、人々の前で、ノブル王は、

「私は改心した。これから仕組みが整うまでの間、皆のための政治をすると、この身をもって約束しよう。」と、高らかに宣言した。その顔は、どこまでも晴れやかだった。

ナサリィとの騒動で、それまで知られていなかった「神」の存在が明らかになり、宗教が誕生する。その宗教では、「負の感情との付き合い方」について説いていた。

変化する世界を見続けるため、しばらく旅を続行すると決めたセントラは、ドレに再会を約束して別れる。

王国の上の立場で働く誘いを受けたドレは、それを断った。人に指示をすることが苦手な自分には向いていない仕事だと思ったからだ。

その後、少年は、島を巡り、ロドック、セリタに会いに行った。彼らのおかげで自分は助けられたと、伝えるために。

光に照らされる、少年の清らかな笑顔が、確かに存在していた。


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