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移送作戦・当日・上【2】

「ああ、そうだった。入れていいよな?」


 部屋の主であるオルキデアが頷くと、クシャースラは廊下に声を掛ける。

 クシャースラに促されて部屋に入ってきたのは、帽子を目深に被って顔を隠したクシャースラより頭一つ分背の低い女性だった。

 赤土に黄みがかかった赤銅(しゃくどう)色のドレスで足首だけではなく手首まで完全に纏い、白地に淡い緑色のリボン飾りがついたつばの広い帽子で顔を隠していた女性は、部屋に入ってくると帽子を取ったのだった。


「久しいな。セシリア」

「ご無沙汰しております。オーキッド様」


 オルキデアはソファーから立ち上がると、親友の奥方を出迎える。

 クシャースラとはまた違う稲穂の様な黄金色の髪を頭の後ろで一つに纏めたセシリアは、澄んだ泉の様な青色の瞳を細めたのだった。


「巻き込んでしまってすまない。だが協力してくれて助かる」

「いいえ。事情はクシャ様から聞いています。オーキッド様の奥様の為ですもの」


 セシリアは「ご結婚おめでとうございます」と挨拶をすると、次いでオルキデアの影に隠れる様に佇んでいたアリーシャに声を掛ける。


「初めまして。いつも主人がお世話になっています。セシリア・コーンウォール・オウェングスと申します」

「は、初めまして。アリーシャと申します。ク……ご主人にはいつもお世話になっております。オウェングス夫人」


 優雅なカーテシーと共に挨拶をしたセシリアに、ガチガチに緊張しながら同じくカーテシーで返したアリーシャに、「そんなに緊張しないで下さい」とセシリアは微笑む。


「それに、私のことはオウェングス夫人じゃなくて、どうかセシリアと呼んで下さい。……クシャ様から聞いて、お会い出来る日をずっと楽しみにしていました」

「本当ですか?」

「ええ! 私は高等学校を卒業してからずっと働いていたので、学友も皆、進学や結婚をして気軽に会えなくなってしまって……。そうしている内に、だんだん疎遠にもなって、身近に同年代の女性がいなくなってしまったんですよね。それもあって、クシャ様からアリーシャさんと私が同年代と伺って、お会い出来る日をずっと楽しみにしていました」


 オルキデアたち男子とは違い、女性専門の高等学校を卒業した女子の進路は、大学への進学か、実家に戻って結婚するかのどちらかであった。

 けれどもセシリアはそのどちらの進路も選ばず、高等学校を卒業してからクシャースラと結婚する十九歳までずっと働いていた。それも自分の為ではなく、実家であるコーンウォール家と弟たちの為であった。

 セシリアにはひと回り近く歳が離れた弟が二人いる。

 弟たちの学費や当時コーンウォール家に残っていた借金の返済の為、セシリアは進学も結婚も諦めて働く道を選んだのであった。

 休みもせず、自分の時間も持たず、昼夜関係なくずっと働いていたセシリアを見染めたのが、オルキデアの親友であった。


 当初、セシリアは実家が抱える借金を理由にクシャースラからの結婚の申し出を断っていた。

 けれども実直過ぎるくらいに真面目で、何度断っても諦めないクシャースラの辛抱強い求婚の末、二人は結婚した。

 結婚して四年が経ち、二人の間に子供はいないが、それなりに上手くいっているのだろう。時折、クシャースラが愛妻への溺愛ぶりを自慢しに、わざわざオルキデアの元を訪ねて来ているのが何よりの証拠であった。


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