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好き【1】

「意識を失って、次に目を覚ますと、見知らぬテントの中でした。自分のことは何も覚えていなかったのですが、出入りする兵の軍服から、自分はペルフェクト軍に保護されたのだと分かりました」

「そうか」


 冷たくなった紅茶に口をつける。

 外はすっかり暗くなっていた。明かりを点けにオルキデアが立ち上がると、アリーシャも立ち上がってカーテンを閉めてくれた。


 そんなアリーシャの後ろ姿を見ていて、オルキデアはつい聞いてしまう。


「その、最期を看取ったという兵士の仇を討ちたいか?」

「えっ……?」


 振り返ったアリーシャに、オルキデアは自分の首を示す。


「俺は兵士を殺したペルフェクト軍の一人だ。俺一人を殺したら、兵士一人分の仇討ちにはなるだろう」

「オルキデア様、何を言って……」

「仇だけじゃない。俺を殺して、ここにある軍事秘密を持って国に帰れば、お前は国の英雄だ。父親にだって、兄弟や姉妹たちにだって、認められるだろう。……どうする?」


 両手で口元を押さえて顔を歪めるアリーシャに、意地悪くオルキデアは訊ねる。

 無論、ただで殺されるつもりはない。

 そうなる前に、アリーシャは他の兵に捕まって、死刑になるだろう。

 それなのに聞いたのは、アリーシャがどんな反応を示すのか気になったから。

 ただ、それだけのことだった。


 すると突然、アリーシャの菫色の瞳に涙が浮かんできた。

 溢れた涙が、一粒、二粒と、アリーシャの頬を流れて、床に落ちていく。

 意地悪く笑っていたオルキデアだったが、急に泣き出したアリーシャに、色を失って余裕を無くしてしまう。


「どうした? 急に泣き出して……」

「だって……。オルキデア様が意地悪を言うから……」

「意地悪? 意地悪を言った覚えはないが」

「意地悪ですよ! 自分を殺して、国に帰れば英雄なんて! 私は、命の恩人を殺してまで、誰かに認められたいなんて思っていません!」


 アリーシャは懐からハンカチーー以前、オルキデアが渡して、そのままアリーシャの物になった、を取り出すと、涙を拭いた。


「それに……そんなことをしても、死んだ人は喜びません。ただ、憎しみや苦しみの連鎖が続くだけです……!

 オルキデア様を殺したら、私がオルキデア様のご家族や友人に憎まれて、いつの日か殺されます!」

「俺にそんな家族や友人はいない。アリーシャが俺を殺しても、誰からも憎まれない」


 もしかしたら、親友のクシャースラは悲しんでくれるかもしれないが、そんなのは実際に死んでみなければわかる訳が無い。


「そんなことはありません! 私が悔やみます……。自分自身を憎んで、殺してしまったことを後悔します!」

「どうして君が悔やむんだ? 俺が命の恩人だからか?」

「それだけじゃありません!」


 アリーシャはぶんぶんと首を大きく振る。


「私以外の人がオルキデア様を殺したって、私が怒って、泣いて、憎みます! だって、私はオルキデア様のことが好きだから……!」


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