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アリサ・リリーベル・シュタルクヘルト【8】

(幸せになんて、なれない。もう、私には何も無いのだから……)


 アリサにはもう何も無かった。

 母親も、金も、愛情さえも、アリサには残っていなかった。ーー幸せになど、なれるはずがなかった。


 母が亡くなり、父に引き取られて、シュタルクヘルト家で息を潜めて生きている内に、幸せを諦めてしまった。

 今日はどう生きようか、明日をどう生きようか、それしか考えられなくなっていた。


 いや、考えないようにしていたのかもしれない。

 他の事を考えてしまうと、寂しくて、惨めな気持ちになってしまうから。

 絶対考えないようにしていた、他の兄弟や姉妹との差ばかりを見てしまうからーー。


 その時、建物全体が揺れた気がした。


「なに……?」


 涙に濡れる目を瞬かせながら、アリサは天井を見つめた。

 アリサが居るリネン室は医療施設内の端にあった。幾つかあるリネン室の中でも、ここは取り分け、人がやって来ない一階の端にあった。

 立ち上がろうとすると、再び、建物が激しく揺れて、立っていられなくなった。

 床に膝をついたアリサの上に、大量のシーツやタオルが落ちてきたのだった。


「きゃあ……!」


 シーツやタオルを掻き分けて、床を這う様に出入り口に向かっていると、激しい爆音と共にまた建物が揺れた。


「……っ!」


 備え付けの棚が重なるように倒れてくると、頭を庇いながら床に伏せた。

 棚同士が重なって出来た床と棚の間に隙間を見つけると、落ちてきたシーツやタオルごと身体を滑り込ませた。


「早く外に出ないと……!」


 けれども扉を塞ぐ様に、出入り口付近に幾つもの棚が倒れてしまい、部屋から出られなくなっていた。

 そんなアリサに追い打ちをかける様に、爆発音と共に建物が激しく揺れ、遠くではガラスが割れる音と、医療スタッフの悲鳴と思しき複数人の声が聞こえてきた。

 やがて、轟音と共に建物が大きく揺れると、壁に寄り掛かっていた棚が、今度はアリサに向かって倒れてきた。


「ああっ……!」


 身体に痛みが走った後、アリサはそこで意識を失ったのだった。


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