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アリーシャの変調とその正体【7】

 その日の夕方、帰りの車の中でアリーシャは逸る気持ちを宥めるので精一杯であった。


(本当に自分のお腹の中に赤ちゃんがいるんだ……)


 アリーシャはそっと自分の腹部に触れる。ほんの僅かではあるが、服の上からでも膨らんでいるのが分かった。今まで気づかなかったのが不思議なくらいに、お腹の子は自らの存在を主張していた。


(オルキデア様との子供……)


 昼間、アリーシャたちを乗せた車は大病院に着くと、要人用の裏口から中に通された。

 内密で来ているとはいえ、やはりシュタルクヘルト家の者が正面から入るのは体裁が良くないのだろう。

 再度カリーダによって車椅子に乗せられると、アリーシャたちは出迎えてくれた病院の関係者の案内で、人目を避けて婦人科のある階まで連れて行かれたのであった。


 婦人科に着いても他の患者たちとは違い、アリーシャたちは待合室でなく要人用の個室で順番を待つことになった。

 アリーシャが呼ばれるのを待っている間に、付き添ってくれた女医がアリーシャの身体や容態について、あらかじめ大病院の医師に伝えてくれていたらしい。

 アリーシャの順番がやって来た頃には、女医は一足先に屋敷に戻っていたが、先に病院側に伝えてくれていただけあって、検査や診察がスムーズに進み、アリーシャもさほど緊張せずに済んだ。

 診察室に入って人の良さそうな看護師に体重や血圧、腹周りを測られた後、横になると身体の内側を調べられた。

 その結果、アリーシャのお腹の中にいる胎児は、恐らく十四週目だろうと判明したのであった。


 その後の問診で年配の女性医師からは、月のものが遅れた時点で病院に来て欲しかったという苦言と共に、妊娠を示す症状はなかったかと聞かれた。

 アリーシャは数ヶ月前に風邪を引き、それが長引いているだけだと思っていたと話すが、その「風邪」自体が妊娠の兆候だったのではないかと医師に教えられたのであった。


 妊婦によっては妊娠したばかりの頃に、風邪に似た症状が出ることがあるらしい。

 主に微熱や身体の怠さ、眠気や吐き気、腹痛らしいが、どれもアリーシャが風邪を引いた時やその後の症状と一致していた。

 その時に風邪だと思って風邪薬などを服用していた場合、胎児に影響があるかもしれないが、幸いにもアリーシャは風邪薬を飲んでいなかった。

 アリーシャが風邪薬を飲まなかったと話した時、医師は安堵から肩を撫で下ろしていたのだった。


 医師から妊娠中の諸注意を教えられた後、初めて出産する母親向けの冊子と妊婦用の栄養剤を数か月分渡された。栄養剤は妊婦にとって必要な栄養素を錠剤にしたもののようで、飲んでも胎児には全く影響が無いとのことであった。

 カリーダが迎えの車を呼んでいる間に軽く目を通したが、中には妊娠中の注意や用意、出産への心構え、出産後の手続きなどが記されていたのだった。

 冊子には胎児が成長していく過程を映した写真も載っており、その中には十四週目の胎児の写真もあった。

 十四週目になると、ほとんど身体が出来上がり、人間らしい形になっているらしい。手足の爪や歯などはこれから出来ていくが、それでも脳や内臓は完成してくる時期とのことであった。


(私、お母さんになるんだ……)


 こんなにも早く母親になるとは思わなかったので、何の用意も覚悟もしていなかった。屋敷に戻ったらパティを通じて妊娠や出産について勉強しよう。

 そんなことを考えながら手元の冊子に目を落としていると、向かいの席から遠慮がちに声を掛けられたのであった。


「お身体は辛くありませんか?」


 カリーダの言葉で顔を上げると、アリーシャは「はい」と頷く。


「全く辛くないという訳ではありませんが、これまでに比べたらずっと元気なんです。お腹に赤ちゃんがいると分かったからでしょうか」


 検診の間もずっとアリーシャに付き添ってくれた執事は、アリーシャは言葉に「そうですか……」とただ返しただけであった。


「そのお腹の子の父親は、あっちの国の者……ですね?」


 念を押す様な質問にアリーシャが何も答えられずにいると、カリーダはそれを肯定と受け取ったらしい。

 それからカリーダは何かを考え込む様に黙ってしまうと、車内には車の走行音だけが響き渡ったのであった。

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