アリーシャの変調とその正体【4】
心当たりが無くてアリーシャが戸惑っていると、女医はカリーダが用意した椅子に座り、アリーシャと目線を合わせる。椅子を持って来たカリーダは二人の話の邪魔をするつもりはないのだろう。壁際に向かうとじっと正面を向いて、影の様に控えたのであった。
「カリーダさんによると、ここ最近のお嬢様はずっと体調が悪かったそうですね。食べてもすぐに吐いて、一日中具合を悪そうにしていたと」
「そうですが、でもそれは数ヶ月前に風邪を引いたのが治っていないからで、その後も急にこの国に戻って来て、慣れない生活が続いたからで……」
助けを求める様にカリーダに視線を移すが、カリーダは女医の話を聞いているのかいないのか、アリーシャを見ることも無かった。
「話を聞いた主人は、今のお嬢様の状態について、婦人科医の私から話を伺った方が適任だと判断しました。そして私がお話しに来た次第です」
女医によると、屋敷専属の医師というのは男女一人ずつ、夫婦で雇われているらしい。
普段は女医の夫が診察や治療を担当し、婦人科系の症状や患者が女性の時は、婦人科医としての経験がある女医が診察を担当しているとのことであった。
「カリーダさんからは脱水症状で倒れたと聞きました。それとも違うんですか? 改めてお話しなければならない程、酷い病気なんですか……?」
「病気ではありません。病気とは違うものです。その話をする前に一つ確認させて下さい。お嬢様、最後に月のものが来たのはいつですか?」
「いつって……」
女医の言葉にアリーシャは最後に月のものが来た日を思い返そうとする。
オルキデアと出会って、彼の屋敷に移り住んだ時は来ていた。その後、オルキデアと夫婦になって、墓参りや祭りに行った後も。
けれども、オルキデアと新婚旅行で海に行った後は来ていない様な気がした。シュタルクヘルトに帰されて、この屋敷に戻って来てからもーー。
「ここ数ヶ月は来ていないと思います」
「具体的には?」
「多分、三、四ヶ月くらい……。でもそれも以前からよくあることで、ここに住んでいた頃から不定期にしか来なかったので……」
オルキデアと出会ってからはたまたま毎月来ていたが、オルキデアと出会う前、この屋敷の屋根裏部屋に住んでいた頃は、一、二ヶ月おきにしか来ていなかったので、それが当たり前だと思っていた。
それもあって、数ヶ月、月のものが来なくても異常に感じていなかった。
アリーシャの話を聞いた女医は「やっぱり」と溜め息をつく。
「これで確信が持てました。お嬢様、落ち着いて聞いて下さい」
そうして、女医が口にした言葉にアリーシャは耳を疑ったのであった。
「お嬢様は懐妊されています。おめでとうございます」