シュタルクヘルト家【3】
車を降りたアリーシャは出迎えてくれた従僕から、すぐに父の元に向かう様に言われる。
カリーダは後から向かうとのことだったので、アリーシャは父が待つという自室に渋々向かったのであった。
従僕の後に続いて父の部屋に向かう途中、視線を感じて周囲を見渡すと、廊下や部屋から使用人やメイドたちがアリーシャを見つめていた。おそらく屋敷に住んでいる他の兄弟姉妹やその母親たちが、死んだとされていたアリーシャが生きており、ようやく屋敷に戻って来たと知って様子を見に行くように頼んだのだろう。
アリーシャと目が合うと、誰もがバツが悪い顔をして顔を引っ込めたのであった。
人に見られてあまり良い気はしないが、それよりもアリーシャはあることに気づいて、使用人たちが消えた方角をじっと見つめる。
(使用人もメイドも知らない人ばかり……。この半年で入れ替えたのかな?)
半年前、アリーシャがこの屋敷を発つまで働いていた使用人やメイドたちの姿がどこにも無かった。父の元まで案内してくれる従僕も見知らぬ者であり、アリーシャの様子を伺いに来た使用人やメイドたちも知らない顔だった。
今のところ、アリーシャが唯一知っている使用人は、アリーシャを迎えに来てくれたカリーダだけであった。
(気のせいかな。たまたま今は不在なだけかもしれないし……。半年も経てば何もかも変わってもおかしくないよね……)
特に他の兄弟や姉妹、その母親付きの使用人やメイドたちは、親子が屋敷を出る時に一緒に連れて出てしまうので、居なくても不思議ではない。きっとアリーシャがこの屋敷を離れている間に、弟妹たちの誰かがが出て行ったのだろう。その時に一緒に連れて行ったに違いない。
誰がどの親子に仕えているか分からないアリーシャは、そう思うことにしたのだった。
オルキデアと暮らした屋敷より何倍も長く広い廊下を歩き、やがて螺旋階段を登る。
やはり体調が悪いからか、少し階段を上っただけでアリーシャの息はすぐに上がってしまった。
「……っはあぁ。はあぁ……」
階段の手摺りを掴んで、肩で息を繰り返す。
風邪を引いてから体力が続かなくなり、最近では少し動いただけですぐに息切れするようになった。今では途中で休まないと上れそうになかった。
オルキデアの屋敷の階段でさえ上り降りが大変だったが、その倍の段数があるこの屋敷の階段はもっと辛かった。
少し上っては休み、また上っては休みの繰り返しであった。
アリーシャがあまりにも頻繁に足を止めてしまうからか、付き添っている従僕が怪訝そうな顔をしていた。
アリーシャは心配ないと伝える為に苦笑と共に首を振ると、侍従の後に続いたのであった。
やがて最上階にある父の部屋の前に辿り着くと、扉の外から従僕が声を掛ける。
すぐに中から年嵩の男性特有の深みのある低い声が聞こえてくると、アリーシャは自分の心臓が激しく脈打つのを感じた。
恭しく従僕が扉を開けてくれたので、アリーシャは大きく息を吸うと、恐る恐る部屋に足を踏み入れたのであった。