シュタルクヘルト家【1】
「……様。アリサお嬢様」
身体を揺すられて目を覚ますと、目の前にはカリーダの姿があった。
「カリーダさん……」
「お休み中のところ申し訳ありません。魘されているご様子でしたので、声を掛けさせて頂きました」
目を擦るとわずかだが手が濡れた。カリーダの言う通り、魘されて泣いていたのかもしれない。
「すみません……。気を遣って頂いて……」
「とんでもございません。もうすぐ終点の駅に到着しますので、下車の準備をいたします」
カリーダがアリーシャたちが座っている座席周りの荷物を片付け出したので、「私も片付けます」とアリーシャは申し出たが、「主人にさせられません」とカリーダに丁重に断られてしまう。
「お嬢様はまだ顔色が悪いご様子です。もう少しお休みください。駅に着いた時にお声がけします」
「はい……」
カリーダの言葉に甘えて駅に着くまでもう少し眠ろうかとも思ったが、また魘されてカリーダに迷惑をかけたくなかったので、アリーシャは移り行く外の景色を眺めて時間を潰すことにする。寝ている間に日が暮れた様で、外は夕闇に包まれていた。遠くを見つめながらアリーシャの気持ちは重くなっていく。
(もうすぐ首都に着いちゃう。どんどんオルキデア様から離れて……)
父に会うのが怖いというのもある。でもそれ以上にオルキデアから離れてしまうのが嫌だった。首都に近づけば近づくほど、オルキデアとの心の距離まで離れてしまう気がした。
どんな事情があったとはいえ、こんな形で家に帰るのは嫌だった。オルキデアに会って事情を聞きたい。一緒に居るのが嫌になって家に帰されるのだとしても、嫌になった理由を知りたかった。
今度は嫌われない様に気を付けるから、改善する様に努力するから側に置いて欲しい。と頼みたかった。会う事が敵わないのなら、電話でも手紙でも、どんな手段を使ってでもオルキデアと連絡を取りたかった。
相手は敵国の人間だから、簡単には連絡が取れないかもしれない。でもペルフェクトに住んでいたアリーシャをシュタルクヘルトに帰した様に、シュタルクヘルトからペルフェクトに連絡を取る方法だってあるだろう。
どれくらい時間が掛かるかは分からない。でも何日、何か月、何年掛けてでも、それを探そう。
もう一度、愛しい人に会うためにもーー。
汽車は汽笛を鳴らしながら、夕闇の中を走り続ける。
それから程なくして、アリーシャたちを乗せた汽車はシュタルクヘルトの中心部にある首都・アーレストに到着したのであった。