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目が覚めると……【7】

「あの国では、私は私らしく生きていました。誰かの目や、自分の立場を気にせず、自分に関わる人たちの立場を気遣う必要もなかったんです。大切だからこそ、私自身を尊重してくれたんだと、今ならわかります」


 アリーシャの言葉に、カリーダは悲しげな表情を浮かべる。

 しかしすぐに元の表情に戻ると、軽く頭を振ったのだった。


「そうでしたか……。お嬢様に何事もなく安心しました。お嬢様が生きていると判明してから、ペルフェクト(彼の国)で、何か辛い思いをされているのではないかと、ずっと心配しておりました」

「そうですか……? 私は自分の存在なんて、とっくに忘れられたと思っていました」

「とんでもありません。私が仕える主人は、旦那様とアリサお嬢様。そして、アーティー様の御三方だけです」

「お母さんもですか?」


 アーティーというのは、アリサの母であるアールマティの愛称だった。

 まだ母と娼婦街に住んでいた頃、母の娼婦仲間や娼館の人たち母をそう呼んでいたのを覚えている。


「はい。私は旦那様の命でアーティー様の側にずっと付いていました。娼婦街から旦那様の元にお連れして、お嬢様を連れて娼婦街に戻られてからも、ずっと……」

「そうだったんですね……」


 それで母が亡くなった時、すぐに父が迎えとしてカリーダを寄越したのだろう。今更ながら合点がいく。

 カリーダは陰ながら母とアリーシャを見守っていたのだろう。


「軍事医療施設が襲撃されたと聞いた時、お嬢様を一人で慰問に行かせてしまったことを悔んでおりました。軍から要請があったとはいえ、やはりお嬢様を一人で行かせるべきではなかった」


 アリーシャがカリーダを通じて軍事医療施設の慰問の話を受けた際に、「あまり大勢で派手に来られると敵を刺激させかねないので、少数で来て欲しい」と軍から要請があった。また「世話役はつけられないが、護衛なら軍の方から付ける」とのことだったので、自分の身の回りのことは自分で出来るアリーシャは、「私とついて行きます」と言ったカリーダを断り、単身で慰問に行くことにしたのだった。


「お嬢様が行方不明と聞き、軍が生存者の捜索を打ち切ってからも、どこかで生きていて欲しいと願っていました。この国以外でも、どこでもいい。無事ならどれだけいいかと……」

「すみません。そこまで心配されていたことに気づかなくて、連絡もしなかったですし……」


 まさかカリーダがアリーシャの無事を祈っていたとは思わなかった。葬儀が行われ、時間も経っていたので、アリーシャの存在は父やカリーダたちの中から忘れ去られ、最初からいなかったことになっていると思っていた。それで連絡をしなかったというのもあるがーー。


 すると、カリーダは首を振ったのだった。


「とんでもございません。全ては終わった話です。体調が悪いところ、長話を失礼しました。今は駅に到着するまでお寛ぎ下さい。私は屋敷に連絡を入れますので、しばし席を外します」


 何か欲しいものはあるかと聞かれたので、身体が冷えないようにブランケットか上着があれば欲しいと言ったが、ブランケットはなかったので、カバンの中からアリーシャの上着を取ってもらう。

 その後、携帯電話を持って立ち上がったカリーダだったが、通路を歩いてきた車内販売のワゴンを見つけると飲料水を購入する。

 飲料水はペットボトルという透明な容器に入っており、元々は前線で戦う兵士の物資の供給の為に開発されたものだった。それが持ち運びの便利さと一度に大量生産が可能なところから、今年に入ってシュタルクヘルト国内で急速に広まったらしい。

 ペットボトルはペルフェクトには無かったものなので、ここが本当にシュタルクヘルトなのだとアリーシャは思わざるを得なかった。

 カリーダは「喉が渇いたらお飲み下さい」とだけ言うと、窓辺にペットボトルを置いて車両を後にしたのだった。

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