目が覚めると……【6】
アリーシャが断言するように言いきったからか、カリーダは瞬きを繰り返すと「失礼しました」と頭を下げた。
「出過ぎたことを申しました。申し訳ありません」
「いいえ……気にしていません」
汽車に乗ったことでどこか諦めがついたのか、アリーシャの気持ちはだんだん落ち着いてきていた。
移り変わる外の景色を眺めていると、カリーダがそっと話しかけてきたのだった。
「目的の駅に着くまで、まだまだ時間が掛かります。しばらくお休み下さい」
「ありがとうございます……。ところで、荷物棚に置いていたカバンですが……」
「こちらでしょうか?」
カリーダは立ち上がると、各ボックス席の頭上にある荷物棚から、カバンを降ろしてくれる。
(あのカバン、ペルフェクトに住んでいた頃、部屋のクローゼットに仕舞っていた物によく似ている)
そんなことを考えながらカバンを見ていると、カリーダは自らの膝の上にカバンを置いて座ったのだった。
「それです。そのカバンには何が入っているんですか? さっきのお爺さんから受け取っていましたが……」
「ペルフェクトの者からお預かりした、お嬢様の荷物と伺っています」
「……っ! 貸して下さい!」
カリーダからカバンを引ったくるように受け取ると、すぐにアリーシャはカバンの中身を開けた。
中には、ペルフェクトでアリーシャが着ていた洋服が入っていた。
(何か、この国に帰された手がかりはないの……!?)
洋服を掻き分けていたアリーシャは、カバンの奥底から白い軍服を見つける。
「これは……」
カバンから取り出すとそっと広げる。
汚れや破れこそ残っているが、紛うことなき白色のシュタルクヘルト軍の軍服。
「旦那様から頂いたお洋服ですね。シュタルクヘルト家の証たる白の軍服です」
アリーシャの呟きに、カリーダもどこか驚いたように答える。
「まだお持ちだったんですね」
「そうですね……」
オルキデアの屋敷に引っ越した時、別れを告げたはずのシュタルクヘルト家の証である白い軍部が目の前にある。
そこまで来ると、アリーシャの気持ちはすっかり沈んでしまう。
洋服以外には、特に目新しい物は見つからず、アリーシャはそっとカバンを閉じると、傍らの座席の上に置いたのだった。
(結局、シュタルクヘルトに帰された理由が何も分からなかった……。もう、ペルフェクトには……オルキデア様の元には帰れないのかな……)
膝の上でアリーシャは両手を握りしめる。
(やっぱり、私、何かやって嫌われたのかな……。それで、離縁されたのかな……)
オルキデアに迷惑をかけ、嫌われ、離縁されて、国に帰される様なことをしただろうかと、アリーシャは考える。
その間、カリーダはアリーシャの傍らからカバンを取り、カバンの中を少しだけ覗くと隣に置く。
「どれも質の良い衣服ですね。この半年間、お嬢様はとても大切にされていたことが伝わってきます」
「大切……そうですね。大切にされていたと思います」
オルキデアが、クシャースラが、セシリアが、マルテが、メイソンが、アルフェラッツとラカイユが、それ以外でもペルフェクトでアリーシャと関わった人たちが、頭の中に浮かんでは消える。
最初こそ、捕虜として扱われていたが、オルキデアと契約結婚をしたことで、アリーシャの立場は大きく変わった。
捕虜から軍人の妻となり、生活場所も軍部からペルフェクトの王都に変わった。
シュタルクヘルトにはなかったもの、見れなかったものをたくさん見て、多くのものに触れた。
何より、オルキデアに愛されて、オルキデアを愛した。
クシャースラやセシリアと友人になって、マルテに家事を、メイソンには花について教わった。
誰かに大切にされて、誰かを大切にした。
大切な人たちと、かけがえのない時間を過ごした。
これまでの人生で、最高に幸せな日々を送っていたと言えるだろう。